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まほろばの人々

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まほろばに棲む人々の暮らし。 少し個性的な人々が思い思いの生き方をしている街を散歩するのです。
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天使のエレベーター

天使のエレベーター

天使は何故空から降りてくるものだと思い込んでいたのだろう。

天使の梯子なんて大層な名前の陽射しが
天使は地上から登るんだなって、初めて気がついた。

深い青に日が滲んで明るくなる辺り。
早朝、私の散歩道の先で、薄汚れた白の塊を見つけた。
猫か何かの動物が倒れているのかとぎょっとし、少し立ち止まり、悩み、周りを見るが人通りの少ないこの道で見向きする人は居らず、恐る恐る近寄った。
動物病院は開いてい

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ケンタウロスは翼が生えるのか

ケンタウロスは翼が生えるのか

兄弟は兄と弟の2人しかいないから、仲良く、困った時は助け合いなさい。

そう、祖母に言い聞かせられ幼少期私は育った。
兄は気分屋だから、兄のしない事は私がやろう。
両親共働きだから、休日のお昼ご飯は拙いが私が作ろう。
祖母の相手や両親の相手、兄が苦手ならば私がしよう。

私は家族が大好きで、ファミコン、ブラコンを自称していた。
そうであるべきと思っていたし、強要していた。

なんとも押し付けがまし

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アルミと真珠

アルミと真珠

一緒に暮らしていた昔の彼が、部屋に残していった大量の空き缶。
出て行った彼はモノを捨てられない人で、捨てられたくない人でした。
物が多く雑多な部屋から減ったのは彼のみで、大量のよく分からないものと私は置き去りで、息の白い12月の年末を迎えようとしていたのです。
私はこのまま置き去りにされるのが嫌で、部屋のモノを全て捨ててやろうと、彼の気配の残るすべてを捨ててやろうと、沢山のこべりついた想い出をゴミ

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ほたるちゃんのディナーショー

ほたるちゃんのディナーショー

毎年、梅雨の終わりを知る頃に、この街の端にある森の入り口でショーが開催される。
薄ら汗ばんだ夜の間、一週間だけ幕が開くのだ。

夕暮れから青ばみ、辺りが薄暗くなって来た頃、人は各々の椅子を持ってやってくる。
森の入り口の近くにある泉のほとりを見守るように椅子を並べて座り、周りと談笑しつつ時を待つ。
観客のドレスコードはひとつだけ。会場に着いたら灯りをつけないこと。
あとは食べ物を持ち込んでも、

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あけぼの荘 2-た号室

あけぼの荘 2-た号室

僕の兄はケンタウロスである。
いつからとか、は、覚えてない。
気がついたらそうだったのだ。
家のタンスの一番上の引き出しに手が届き、目線が届いた時にはすでにそうだった。

兄は一人暮らしをしている。
この街の大きな通りの端っこにある、あけぼの荘という木造のアパートでだ。
蔦の生い茂る、森に飲み込まれそうなこの古めかしい建物はいつ来ても、少し、身構えてしまう。
鳴いてないカラスが鳴いてそうな気さ

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まほろばの人々

まほろばの人々

雨が上がった。
水分を多く含んだ空気を胸いっぱい吸い込むと、小学校の時にプールで溺れたあの時を思い出す。
雲の隙間からは光が差し込んできて幻想的な風景を作り出しているが、相変わらず憂鬱とした気分は変わらない。
天使の梯子とか言ったっけ。今まで天使が降りてきたところは見たことはないが。

通り雨を通り越して水辺までやってくると、その橋が見えてくる。
木製の古びた「夢浮橋」を渡るとその町は見えてくる。

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