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フリーランス保護新法(「新しい資本主義実現会議」緊急提言)とは

フリーランス保護のための新法を早期に国会提出

今年(2021年)11月8日に首相官邸において開催された「新しい資本主義実現会議」(第2回)の資料が翌日(11月9日)公表されたが、その資料によると、「新しい資本主義実現会議」緊急提言(案)には「フリーランス保護のための新法を早期に国会に提出する」と記載されている。

緊急提言 概要~未来を切り拓く「新しい資本主義」とその起動に向けて~
Ⅲ.分配戦略 ~ 安心と成長を呼ぶ「人」への投資の強化
1.民間部門における中長期も含めた分配強化に向けた支援
(1)新しい資本主義を背景とした事業環境に応じた賃上げの機運醸成
(2)男女間の賃金格差の解消
(3)労働分配率向上に向けて賃上げを行う企業に対する税制支援の強化
(4)労働移動の円滑化と人的資本への投資の強化
(5)非正規雇用労働者等への分配強化
 ① 新たなフリーランス保護法制の立法
 ② 厳しい環境にある非正規雇用の方々の労働移動の円滑化
 ③ 正規雇用と非正規雇用の同一労働同一賃金の徹底及び最低賃金の経済状況に応じた引き上げ、働き方改革
(6)大企業と中小企業の共存共栄を目指した、取引適正化のための監督強化、産業界への働きかけ強化
(7)事業再構築・事業再生の環境整備
 ① 中小企業の事業継続・事業再構築・生産性向上の支援
 ② 採算性の回復が望める事業者に対する事業再構築の促進のための私的整理円滑化の立法
 ③ 中小企業の私的整理等のガイドラインの策定等
(8)新しい資本主義の時代における今後の税制の在り方についての政府税制調査会における検討

緊急提言(案)~未来を切り拓く「新しい資本主義」とその起動に向けて~
Ⅲ.分配戦略 ~ 安心と成長を呼ぶ「人」への投資の強化
1.民間部門における中長期も含めた分配強化に向けた支援
(5)非正規雇用労働者等への分配強化
 ①新たなフリーランス保護法制の立法
(略)禍では、フリーランスの方々に大きな影響が生じている。フリーランスとして安心して働ける環境を整備するため、事業者がフリーランスと契約する際の、契約の明確化や禁止行為の明定など、フリーランス保護のための新法を早期に国会に提出する。あわせて、公正取引委員会の執行体制を整備する。
また、フリーランスの方々が労災保険に加入できるよう、労災保険の特別加入の対象拡大を図る。

新しい資本主義実現会議(第2回)(内閣官房サイト)

岸田首相もフリーランス保護新法の制定を明言

首相官邸サイトにも「新しい資本主義実現会議」(第2回)の記事が掲載されているが、その記事によると、岸田文雄首相は「フリーランスの方々が安心して働ける環境を整備するため、事業者がフリーランスと契約する際の契約の明確化など、フリーランス保護のための新法を制定いたします」と明言。

総理は、本日の議論を踏まえ、次のように述べました。
「本日、第2回目の新しい資本主義実現会議、委員の皆様方にはそれぞれ貴重な御高見を頂きました。心から感謝を申し上げます。本日は、まず、第1回会合で委員から頂いた御意見を踏まえて新しい資本主義の基本的考え方を取りまとめました。そして、本日の会合においても、委員の皆様方からデジタルトランスフォーメーション、人的投資、スタートアップ、中小企業の生産性、気候変動対応、ダイバーシティーとインクルージョン、将来不安の解消による消費拡大、まずは成長が必要という考え方、さらに少子高齢化などの重要性について貴重な意見を頂きました。
皆様のこうした意見を踏まえながら、グローバルに、持続可能性や人を重視し、新たな投資や成長につなげる、新しい資本主義の構築を目指す動きが進んでいる中で、我が国がこの動きを先導していきたいと考えます。
そのため、岸田内閣が最優先で取り組むべき項目を含めて、緊急提言として取りまとめを行いました。真っ先に取り組む課題について、今回の経済対策において実行に移すことで、早速、新しい資本主義を起動していきたいと思います。
具体的には、まず、成長戦略です。
第1に、科学技術立国の推進です。10兆円の大学ファンドを本年度内に実現いたします。蓄電池の国内生産を支援し、自動車の電動化を推進するなど、クリーンエネルギーの実装を進めてまいります。
 第2に、イノベーションの担い手であるスタートアップの徹底支援です。大企業がスタートアップのイノベーションを応援する税制を拡充いたします。スタートアップがより資金調達を行いやすくなるよう、株式公開価格の設定プロセスを見直すなど、新たな上場制度を作ってまいります。
第3に、デジタル田園都市国家構想の起動です。テレワーク、ドローン宅配、自動配送など、デジタルの地方からの実装を推進してまいります。自動配送サービスを早期に実現するための関連法案を次期通常国会に提出いたします。
第4に、経済安全保障の推進です。経済安保推進のための法案を策定いたします。人工知能・量子などの分野で、研究開発を複数年度にわたって支援する基金を設け、先端的な重要技術を育てます。先端半導体の国際共同開発と半導体工場の国内設備投資を支援いたします。
次に、分配戦略ですが、第1に、民間部門における分配強化に向けた支援です。まず、春闘に向けた賃上げのあり方について、月内にこの会議を開催し、方向性を議論いたします。労働分配率の向上に向けて、従業員お一人お一人の給与を引き上げた企業に対し、賃上げ促進税制の控除率を大胆に引き上げ、支援を強化いたします。賃上げに向けて、人への投資を抜本的に強化するための3年間の施策パッケージを設け、予算を大胆に投入いたします。職業訓練や能力開発、正社員化や処遇改善への支援を拡充いたします。フリーランスの方々が安心して働ける環境を整備するため、事業者がフリーランスと契約する際の契約の明確化など、フリーランス保護のための新法を制定いたします。そして、中小企業の事業再構築、生産性向上への助成を拡充いたします。採算性回復が望める事業者の債務整理のため、全ての貸し手の同意がなければ債務軽減ができない制度を見直し、私的整理円滑化のための法制度を作ってまいります。
第2に、公的部門における分配機能の強化ですが、看護、介護、保育などの現場で働いている方々の収入を増やすため、公的価格の見直しを行います。公的価格評価検討委員会で検討を進めるとともに、経済対策において、必要な措置を行い、前倒しで引き上げを実施いたします。
本日まとめた緊急提言について、関係省庁一体となって、その実現に取り組んでいただきたいと思っています。
明日以降、全世代型社会保障構築会議、デジタル田園都市国家構想実現会議、デジタル臨時行政調査会の3つを立ち上げ、岸田政権の主要政策の具体化を進めます。新しい資本主義実現会議では、これら3つの会議での検討結果を統合した上で、来春にグランドデザインとその具体化の方策を取りまとめ、世界に向けて発信いたします。有識者の皆様におかれましては、引き続き活発な議論をよろしくお願い申し上げます。」

新しい資本主義実現会議(第2回)(首相官邸サイト)

「見通せるものがない」公取委事務総長

フリーランス保護新法については岸田文雄首相自ら「新しい資本主義実現会議」で明確に発言しているが、公正取引委員会サイトに掲載されている「令和3年11月17日付 事務総長定例会見記録」には、公正取引委員会事務総長は「フリーランス保護のための新法ということについては、今、内閣官房を中心に、関係省庁で検討が進められているというところと聞いておりまして、関係省庁の1つとして、公正取引委員会が入っているわけですけれども、まだ、現在検討中なので、その内容やスケジュールは,まだ見通せるものがないというか、申し上げられることは今のところないというふうに聞いております」と発言している。

岸田文雄首相自身が発言しているフリーランス保護新法だが、「見通せるものがない」という公正取引委員会事務総長の発言には落胆。

(問) フリーランスの保護について伺います。「新しい資本主義実現会議」の「緊急提言」で,フリーランス保護のための新法提出や公取委の執行体制整備に触れられています。現在の検討状況や今後の取組方針をお聞かせください。
(事務総長) フリーランス保護のための新法ということについては,今,内閣官房を中心に,関係省庁で検討が進められているというところと聞いておりまして,関係省庁の1つとして,公正取引委員会が入っているわけですけれども,まだ、現在検討中なので,その内容やスケジュールは、まだ見通せるものがないというか、申し上げられることは今のところないというふうに聞いております。

令和3年11月17日付 事務総長定例会見記録(公正取引委員会サイト)

所信表明演説でフリーランス保護新法にふれず

本日(2021年12月6日)行われた岸田文雄首相所信表明演説では、「フリーランス保護新法」だけでなく「フリーランス」について全くふれられなかった。

岸田文雄首相所信表明演説全文(産経新聞)

追記:フリーランス保護新法制定へ

読売新聞は「政府は、組織に雇われずに個人として働くフリーランスの労働環境を整備するため、新たな法律を制定する方針を固めた。仕事の依頼主の企業に対し、業務内容や報酬額を明示するよう義務づけ、立場の弱い個人を保護する狙いがある。秋の臨時国会に法案を提出し、会期内成立を目指す」(「フリーランス」保護新法制定へ…企業に報酬額・業務内容の明示義務、一方的な変更を防止、2022年9月13日配信)と報じた。

また、9月14日に弁護士ドットコムニュースも「全国に462万人いる企業に属さず個人で働くフリーランスの人たちを保護する新法の概要が9月13日、公表された。10月にも予定されている秋の臨時国会に提出する方針という。政府は9月27日までパブリックコメントを募っている。フリーランスに業務を委託する全企業に義務規定や禁止行為を設け、違反した場合には政府が勧告や命令をすることが柱となっている」と。

つしまようへい氏が9月14日に「日本ではフリーランス関連の問題は下請法で対処しようという話が多いけれど、本当は雇用なのに請負にしているという『誤分類』(misclassification)の問題は、もっと取り上げられないといけないと思います。社会保障にかかわる問題でもあるのです」とツイートしていたので、次のようにコメントさせていただいた。

同感!

規制改革推進会議WG(議事概要31頁)で水町勇一郎委員がフリーランスに関して経済法の議論ばかりで社会法、労働法では議論がほとんどない、労働者に当たるかどうかについて欧米に比べ日本では議論がないと厚労省審議官に問い質したが、その後は取り上げられていない。

規制改革推進会議 第6回 人への投資ワーキング・グループ 議事概要(PDF)

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*ここまで読んでいただき感謝!