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どこにうんちしてもいいから

犬の話をするのは、すこぶる苦手だ。

「かわいい」という、あまりに馴染み深い言葉で言い表すのには、ちょっと私の表現力が追いついていない。きっと「かわいい」という言葉を用いて、彼への愛おしさを表現することのできる人も、いるのだろう。


でも、敢えて言おう。

彼は、「かわいい」。
それはもう、めちゃんこ「かわいい」。
かわいいっちゅうかもう、なんていうんだろう、それこそ「語彙力・・・」という感じ。絶句する。無理。無理なのよ。

人間の年齢にするともうおじいちゃんの彼は、なぜか日を増すごとに赤ちゃんみたいになっていっている。

おしっこもうんちも、好きなところで好きなようにするから、困ったものだ。怠け者な私たちが迎え入れたせいで、「かわいい、かわいい」と甘やかしたせいで、「トイレトレーニング」なるものも大してしてこなかった。そう、私たちが悪いのだ。君は悪くない。

最近、リビングだけでなく家中を好きなように走り回るようになってしまって、我が家は「うんち、どこにあるかわからないぞ状態」になっている。うんちを踏んだ家族の誰かが「ギャァー!」と叫んで、その後涙目になりながら足の裏を洗っている姿を見て、家族みんなでゲラゲラ笑う、というのが日常の一コマになりつつある。

そう、誰も彼を怒ったりなんかしない。だって、私たちが教えなかったのが悪いんだもん。君は悪くない。

ちっこい身体で、何もできないくせに、一丁前に私を守ろうとするのはなんでなんだろうか。朝寝坊な私の部屋にきて、なぜか私の部屋の入り口で「お姉ちゃんを起こすな」と言わんばかりに門番をしている背中を見ると、「あんた、何してんの?笑」と笑けてしまう。そんなに一緒にいたいなら、ベッドに来ればいいじゃないの。

・・・と思っていたら、ついにベッドに来るようになった。

二度寝して、私が目を覚ますと、ベッドの上でスヤスヤと寝ている。時々、寝息なんだかいびきなんだかわからない音を出しながら、寝ている。おいおい、よだれ垂らすなよ。私は、三度寝をする。だって私が起きたら、君も起きるじゃん。だからこの三度寝は、私のせいじゃなくて、君のせいだからね。そこんとこ、よろしく。


頭を撫でて欲しい時の君の力の強さは、異常だよ。私がスマホをいじっていようが、ぼーっとしていようが、私の腕を頭で持ち上げ、強く持ち上げ、「おい、頭撫でろって言ってんだろ、ゴルァ」と言わんばかりの自己主張をしてくる。その我の強さ、どこで学んできたわけ?私、撫でてる場合じゃないのよ。やることあるのよ。私、君のこと、愛しすぎた?


私はあまりにも放任主義なもので(よく言いすぎた)、一緒にリビングで過ごしていても、おむつがいっぱいなことに気づかない。持ち上げて、クンクンして、「あれ、オムツびしょびしょのタップタプじゃん」と思って中を見てみると本当にびしょびしょのタップタプだった時、なんかごめんなぁ、という気分になる。少しだけ、なる。気がつかなくて、ごめんよ。出来の悪いお姉ちゃんで、ごめんよ。


宅配便が届くたび、ピンポンが鳴るたび、マッサージチェアの音が鳴るたび、足音が聞こえるたび、ワンワン吠えるのは、本当にもうやめたほうがいいと思う。何年生きてんのさ。君は番犬じゃないのよ。君がピンポンの音に反応しすぎて吠えまくるから、私はインターホンで受話器を取っても、誰がきたのかわからないまま家の鍵を開けているのよ。暴漢だったら、どうすんの。番犬の正反対じゃん。もう、吠えなくていいっての。


深夜2時、寝すぎて寝られないアホな私は、君の気持ち良さそうな大の字の寝姿を見るのが好きだよ。そのいびき、かわいいから交換しない?私のいびきも、そんなかわいいいびきがいい。君、恋人の隣で寝たりしないでしょ?なのになんでそんなかわいい寝息になるわけ?ずるいじゃん。かわいいいびきの、無駄使いじゃん。


君がいなくなったら、どうやって生きていけばいいんだろう。
剥製にする?それともお骨をネックレスにする?少なくとも、一緒のお墓に入りたいよね、なんて話を、たまーに笑いながらしてるよ。生きているから、笑っていられるんだよ。どこにうんちしてもいいから、できるだけ長く、一緒にいてよ。

Sae

「誰しもが生きやすい社会」をテーマに、論文を書きたいと思っています。いただいたサポートは、論文を書くための書籍購入費及び学費に使います:)必ず社会に還元します。