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アパレルで、デザイナー/MD/経営者をやってた僕が考察してみた、健康的なファッションって、何?

ウェルネスとかウェルビーイングとか

時として、ファッションに”健康的”な要素が入ってくる事がある。
入ってくる事がある、という若干被害妄想的な言い方をしたのは、ファッションとは大きな部分で不健康さがその素敵さとイコールだったりするからである。

スーパーモデルに見る激ヤセもしかり。
ロックンローラーやHIPHOPのミュージシャンは自分のBAD(イイ!って意味でも)を表現する為に、最大限にその特別感を、ヘルシーとは逆のベクトルで表現したりもする。
それがクールなのだ。
それがファッションなのだ、と僕は思う。
ファッションとは自己表現だ。
自己表現とは時として、マクロ的視点では、病んでいるミクロなのだ。

そんなファッションの病めるメインストリームに、時々やってくる健康志向。
人の分析によると、それは不安定な経済状況を受けて、それを打破したい人の気持ちによるものだ、とか、世界的に高年齢化しているマーケットの真のメッセージだ、とか色々ある。

ウェルネスとかウェルビーイングとか、人の生活においては、大半の人が改めて『取り入れる』のではなく、普段から普通にやっている事だと思う。
もしくは、身体が少しおかしくなってきた、実際に病んできた、そんな人たちは、真剣に取り組んでいるだろう。
ウェルネスとかウェルビーイングとかは、普遍的に人の心に、大昔からそこにあるのだ。
それをまるでブームの様に扱う。

アパレルで、デザイナー/MD/経営者をやってた(時にはその全てをいっときに!)僕は、あえて業界への愛情たっぷりに言おう。
ファッションはやはり病んでいるのである。

健康的なファッションって?

そんな病めるファッションの世界にあって、時々ブームの様に流行ってしまう健康的なファッションとは何か。
2021年の今、大きくはこんな4つのカテゴリーにまとめられると思う。

1 アウトドアブーム
2 スポーツファッションの日常化
3 エビデンス無き機能型
4 SDGs的高角度参加型

今回はひとつひとつ、アパレルで、デザイナー/MD/経営者をやってた僕が(しつこい)、考察してみようと思う。

アウトドアブームがもたらす物

アウトドアブームは20年程のサイクルと言われている。
近年のブームから遡ると、その前は2000年頃、その前は1980年頃、もっと遡って1960代、と言ったように。
円が弱くてお金持ちの象徴スポーツや贅沢であったスキーや山登りから始まり、欧米ブランドの並行輸入品を奪い合う様にファッションに取り入れていたバブル期80sの昔があり、バブル崩壊を経て欧米ブランドの輸入品が溢れ庶民の物になった2000年頃を通り過ぎ、文化の一つとなって日本にも本格的なアウトドアブランドがたくさん出来て、今に至る。

アウトドアブームは世代を超え、今や幅広い年齢層に受け入れられ続けてきている。
チープな物が溢れているマーケットでも、リアルなギアだから高価格でも売れる、という今日の立ち位置も強い。
それによって安定した健康ファッションカテゴリーの筆頭となった。

人口の高年齢化とマーケットの成熟化に伴い、アウトドアファッションは、もはや20年周期という彗星ではなく、ファッションの衛星と化したと言えると思う。

スポーツファッションが日常に入り込んだ

オリンピックやその他の大型のスポーツイベント、海外のプロリーグは、こぞってスポーツアイテムをブランディングした。
ジャンプマンは007の様にシリーズ化し、エアマックスは買えない人たちから狩りの対象になった。

大手スポーツブランドは、あくまでもハイエンドな見え方のブランディングと量販で作るボリューム型売上利益の二軸によって、ファッションの世界にそっと寄り添っていた、と言っていい。
エアジョーダンはコレクションの対象となり、一回も履かずに棚に並び、スーパーで買った三本線のジャージは、膝に穴が空くまで着倒すのだ。
あこがれビジネスのマッチポンプだ。

そんなスポーツナショナルブランドがじゃぶじゃぶとお金を使ってきた”超大型全世界型金持ちvs庶民二軸マーケティング”の、『このはし渡るべからず』のど真ん中に、そっと顔を出して、スポーツファッションをあっという間に日常にした瞬間があった。
北米のルルレモン旋風がその一つだ。

日本ではリアルタイムで感じる事はなかったが、商品名での”ジョガー”や”フーディ”は、あっという間に日常的に人々に使われる言葉となった。

ルルレモン以前からスポーツアイテムはファッションの中に溶け込もうとしてはいた。
しかし、そこには大手スポーツブランド自らが作り出したハイエンドと量販の二軸の中で、わかりにくいものになっていて、受け入れられにくかったのかもしれない。
エアマックスを狩るマーケティングに人々は少々疲れていた。
ルルレモンが現れ、会社や学校と私生活の間にポジショニングするや、通勤や通学にすらまさに溶け込み、そしてあまりに当たり前にスポーツファッションは普段着になっていった。

僕自身も米国のブランドのバイヤー時代に出張でアメリカに行く度に、ジョガーやフーディみたいなスポーツファッションで会社に来る社内の人たちが増えてきていて、驚いたものだ。

北米でのルルレモン旋風、スポーツファッションの日常化は、瞬く間に世界に広がる。

ヨガから始まったスポーツウェアの日常化は、その後ギャップやUNIQLO、アルマーニからラルフローレンまで、世界的な大手アパレルも追随して、世界的なムーブメントとなった。

エビデンス無き健康機能戦争

機能付きの素材、機能付きのパターン、機能付きのデザイン、、、
健康を補助しますとうたう商品の種類を挙げれば枚挙にいとまがない。
しかしそれを確実に健康に繋げる、というのはグレーな世界だ。

肌が若くなる、腰が良くなる、体型を良くする、、、どれも最低限に広告のルールを守りながらキャッチコピーを打ち出す。
それでも困ってる人は本当に困っているから、本気で飛びつく。

エビデンスはあくまでも最低限のもので、結果は結局使用する人による、のにだ。
そういう視点から言うとエビデンス、なんて物は無いに等しいのに。

しかしながら結果として、ニッチを求めるニッチの強さで、そのエビデンス無き機能型の健康嗜好商品は時代を超えて存在するのだ。

前述のアウトドアやスポーツと比べるといかんせん胡散臭いと思いがちだが、本気で悩んでいる人を少しでも救う、という優しい世界の一部であり、健康的なファッションのカテゴリーの一つとして存在し続けているのである。

あやしい。あやしいが、まるであの界隈のように、収縮しながら、そしてまた新たに生まれながら、エビデンス無き健康機能ファッションはずーっと昔から世の中ににいるのである。

高角度未来嗜好型、SDGsアプローチ

健康、というと人間の事と思いきや、最近は地球も病んでるという。
別に我がプラネットアースがパリコレそこの為に過酷なダイエットをしたとか、パンクな自己表現の為に身体中ピアスをあけた、とかではない。

人間の経済活動がどうやら原因という。
世界中で、地球は悲鳴を上げている。
僕らはみんなその悲鳴を聞いているけど、どこか知らないふりをしている。

北極圏にある海氷域は1979年頃から徐々に融解し始めたと言われており、今では年間8.9万㎢という北海道の大きさに匹敵する氷海が失われてしまっているんです。
また、南極大陸では年間で多い時には約”2,000億mt(メートルトン)”という途方もない量の氷が失われているんだとか。
現在までに、世界の平均気温は産業革命前よりもすでに1度上昇しています。
毎年のように異常気象による河川の氾濫や土砂災害などが多発しており、この先1.5度、2度と気温が上昇していくと影響がさらに深刻化していくことが懸念されます。

そこに現れた、SDGsやカーボンニュートラルなど、病んだ地球を救うという視点に、ファッションももちろん参加している。
企業的価値向上の狙いも、ステークホルダーへのアピールもあるだろう。
とにかく地球を健康にする、という合言葉はファッションの世界でも進んでいるのだ。

2018年には英高級ブランドのバーバリーが服や香水など約41億円相当を燃やして捨てていたことが発覚し、世界的に衣類の生産に伴う環境問題や労働問題が社会問題として注目を集めています。

アパレル業界は物を捨てる業界である。
原因の一つは春夏秋冬にトレンドを当て込むから、新しい物を無理矢理に作り出す、という旧世界からの習慣。
もう一つの原因は、消費できるマーケットの規模に対して、それ以上に生産してしまっているという、プロダクションとマーケットの設定のミスマッチだ。

両方とも、解決に向かうには、仕掛ける側と、消費する側双方の仕組みの改善が必須である。
そしてつまりそこがマッチングして結果を産むにはお金と時間がかかるだろう。

仕掛ける側という視点で言うと、天然由来の合繊や、汚染の少ない染料、CO2オフセットの縫製工場など、川上では次々と取組みが見られている。
一方川下は、相変わらず認定深度の怪しいオーガニックとか、紙袋やめました、とかいうレベルで、イノベーションを感じる事はほぼない。
そしてそれ以上に、前述の止められない大量消費である。

原因がわかっていて病んでいるのに止められない。

アパレル業界の絶望感から、少し話をSDGsに戻そう。

SDGsは2015年9月の国連サミットで採択されたもので、国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた目標です。
17の大きな目標と、それらを達成するための具体的な169のターゲットで構成されています。

17の目標を達成する2030年まではあとまる9年を切っている。
17の目標は、覚えるのが大変そうな印象ではあるものの、実際に読んでみると、昔からそこにある社会の現実だったりするので、頭には入る。

169の具体的なターゲットは少し問題で、具体的な話からは、餅屋は餅屋で、あとは我々がやりますからみなさまはまあお茶でも、という印象だ。

日本ではTVのバラエティー番組的なノリで、ある程度恣意的に、まさにファッション•文化的なキーワードでSDGsがアドバタイズされているが、実際には水面下で、餅屋達が動いているのだ。

SDGsが世界を救う、という事は決してないが、ある部分でクリアに世界を変える、結果少しは良い方へ世界を変える、というものだろうと個人的には思っている。

その時アパレル、ファッション業界はどう取り組んでいくのか。
今まで通り川上のイノベーションは川下から無視されるだけなのか。
それとも大きな革新を産んで、この停滞感を打破するのか。

アパレル、ファッションのSDGsへの取組み考察は、また新たな記事でより深掘りしようと思う。

Thanks and good luck!
Sadao

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