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古典『イリアス』を読むのが辛くて、古代ギリシャの解説本を買いました【エッセイ】

先日、古典文学を読もうと思い立ち、じゃあせっかくだから人類史で最も古い文芸から手をつけようと『イリアス』を読み始めました。
(こういうのは、ウンチクでマウントを取りたがる人間の悲しい習性です)

『イリアス』はギリシャ神話の大トリ。神話と歴史が交錯するトロイア戦争を描いた物語です。
不死身の英雄アキレウスが、唯一の弱点である踵を射られて絶命するエピソードや、知将オデュッセウスの策略であるトロイの木馬で有名ですね。

面白いんだろうけど、それ以上に読みにくいだろうなぁと覚悟はしていました。しかしすでに漫画では読んだことのある話だったので、イケると思ってKindleのページを開いたのですが、甘かったです。
読めるは読めるんですけど、文字を追うだけで頭に入ってきません。
ただでさえ登場人物が多いのに、名前を〈本人の名前〉じゃなくて父親の名に紐付けて〈〇〇の子〉と呼んだりしていて混乱します。
例えば英雄アキレウスは、「ペレウスの子」と呼ばれます。古代ギリシャでは、それが礼儀正しい、相手を敬った呼び方らしいのですが……ペレウス、どちらさまですか?って感じになります。
古文のテストでまったく解読できない話を読んで、適当に話をでっちあげてしまう、あの状態です。
まあそれよりは幾分かはマシですが、何にせよこれでは読了する意味がない。

これは多分、古代ギリシャがどういう世界観なのか、作者ホメロスがどういう意図でこの叙事詩を綴ったのか、インプットする必要があると思ったので、解説本を2冊ほど買いました。

阿刀田高『ホメロスを楽しむために』(新潮社)

藤村シシン『古代ギリシャのリアル』(実業之日本社)


これはもう大阪冬の陣・夏の陣みたいなものです。まず外堀から埋めていかないといけない。
現代に生きる日本人であり、浅学非才のぼくには『イリアス』という本自体がすでに難攻不落の城塞ということのようです。

『ホメロスと楽しむために』は小説家である阿刀田高氏による解説本。氏がホメロスゆかりの地を訪れながら、謎の詩人ホメロスの人物像と、イリアスのストーリーを軽妙な筆致で解説しています。うーん、実に分かりやすい。
ぼくは氏の解説本シリーズが結構好きなので(『旧約聖書を知っていますか』が特にオススメです)、今回もご登場いただきました。
流石に直木賞作家だけあって、読み手を飽きさせない本だと思います。

『古代ギリシャのリアル』では、古代ギリシャ研究者の藤村シシン氏が、古代ギリシャの神話や文化・生活を、軽妙を通り越して、同人誌即売会の後の打ち上げのようなテンションで解説しています。
ぼくはYouTubeの「ゲームさんぽ」をよく見ていまして、氏の古代ギリシャに対する途方もない情熱と知識に、若干引き気味での畏敬の念を持っておりますので、この度ご著書を購入させていただく運びとなりました。

今はこの二つの解説本を平行して読んでいます(まだ途中なのですが、読了したら感想をnoteに上げるかもしれません)。
それぞれの本の内容も良いのですが、この2冊を並べて比べると、また違った意味で興味深いです。同じ古代ギリシャの解説ではありますが、本づくりの企画の発想とアプローチが逆だなあと思いました。

『ホメロスと楽しむために』は1997年刊、『古代ギリシャのリアル』は2015年刊。
1997年という、SNSのない時代では、文章のプロに古代ギリシャのことを解説してもらっているのに対して、2015年というSNSが台頭しきった時代では、古代ギリシャのプロに面白おかしく文章を書いてもらっていると思ったのです。
2022年の現代なら、どんなにニッチな分野でも、その道のトップランカーを見つけることは容易です。また得てしてそういう方はSNSでの発信力、文章表現力も合わせて持っていたりします。(要はオタクってことですが)
この2冊の比較によって、SNSが文芸を始めとする各種コンテンツの在り方を、ガラリと変えた濁流の跡を見る思いがします。

もしホメロスが現代に生きていたら、Twitterで長々と呟いているかもしれませんね。ただ彼は盗作の被害にもあっていたようなので、バチクソ炎上している可能性もまたありますが。
まあ彼ほどの詩人であれば、罵倒のリプもまた素晴らしい詩となることでしょう。言葉の才とはそういうものですから。

まずは外堀の解説本2冊を埋めて、本丸の『イリアス』へ早く攻め込みたいと願う今日この頃です。


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