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去り行く祖父の音
祖父が亡くなったのは、まだ小学3年生の頃だった。
5分も掛からない所に住んで居たとはいえ、祖父とは余り交流が無かったので、病気の頃漫画を持って来てくれたくらいしか思い出が無い。
「おじいちゃんがさ~。」一緒に住んで居る従兄妹が口に出すと、少し羨ましくも有り、厳しい顔が嫌でもあった。
その祖父が癌になった、その頃はまだ癌と言うと、即死へ繋がる病で、祖母は病院で宣告された月日に抗おうと、民間療法を試そうとしていた。
それでも、病は確実に祖父を蝕み、今のうちに親戚や孫たちに会わせようと、数人ずつ祖父の顔を見に行ったりした。
祖父は厳めしい顔を何処かに置いてきて、その頃にはただの優しい爺ちゃんになっていた。
ある日のことだ、祖母も母も父も病院に詰めることになった、その時にはもう駄目だから祖父の傍に居るという事だったのだろう。
当然、子供だけ数人で置いておく事は出来ないので、広い田舎家の祖父の家に従兄妹たちが集合した。
16歳から7歳までの8人が集まっても、大人が居ないとこんなに広いのか、皆そう考えていた。
その頃には家の暗い空気を察して、子供ながらに静かにしていたのだが、大人が居ない夜は自由にテレビもゲームも満喫していた。
「誰か帰って来るかな?」大人の居ない寂しさに耐えきれないのか、一番小さい7歳が言った。
「今日は帰れないって言ってたから、寝た方が良いよ。」一番年嵩の16歳が答えた。
「でも誰か帰ってくるかもしれない。」大人が帰って来る希望を持って、誰かが言った。
帰って来ないのは、祖父が死の際に有るののと繋がっていたからだ。
「じゃあ、玄関を開けて置こうか。」年長がそう言った。
「でも閉めておかないと叱られるよ。」小さい子たちだ。
「寝る前に閉めたら解らないから、大丈夫だよ。」そう答えた。
皆で部屋に戻って、小さい子は布団に入って、大きい子はまだゲームを続けていた。
ガラガラガラ、玄関を開ける音がした、何時もの大人たちの開ける音だ。
「誰か帰ってきた。」一番小さい7歳が立ち上がると、全員が玄関に向かう。
『あれ。』全員が心の中で思った。
そこには誰も居なかった、大きい子たちが外まで見に行ったものの、車も帰ってきた気配はない。
「そう言えば車の音がしなかったね。」誰とも無く言った。
みんなが心の中で頷いた、ジリーン、玄関を閉めた途端、電話が鳴る。
16歳が電話を取った。
「うん、うん、うん。」
それは祖父が亡くなった知らせだった。
玄関の音はきっと去っていく祖父の音だったんだろう、不思議と何も怖くなかった。
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