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【小説】嫌いだと言ってはいけない。

最初は私は運が良いのだと思っていた。

人間生きていると、気の合わない相手は周りにそこそこ入たりする、相手も同じことを考えているかも知れないが、ともかくそれが嫌だ。

私はそんな人や動物と付き合わなくてすんでいた、いつの間にか居なくなってしまうのだ。

幼稚園の時には嫌いな先生が居て、幼稚園に行きたくないなと思っていた。

「幼稚園行きたくない。」ママに言う。

「どうしたの?どこか痛いの??」ママはいつもちゃんと答えてくれる。

「ううん、違う、○○先生が居るから行きたくない。」先生が嫌いなのだから仕方が無い。

「まあ、どうして、いい先生じゃ無いの?」ママがそう言ってくるから、訳を話す。

「だって、パパが迎えにくる子にだけ優しんんだよ、だからママが迎えに来る子には優しくないの。」まだ表現が出来ないし、何も解って無かった私はそう説明をした。

「そうなの、大丈夫よ、大丈夫。」ママはそう言って、私を幼稚園に連れて行った。

何にも大丈夫じゃ無いじゃない、毎日イヤイヤをしながら、幼稚園に向かっていく。

或る日の事だ。

「おはよう。」と声を挙げると、「おはよう。」と声が返ってくる。

だけど、声が違う、いつものあの先生では無いのだ。

「先生は???」嫌いな先生だったから、別にどうでも良かった、でも聞いてみた。

「あのね、先生はごようが出来て遠くに行くことになったのよ、新しい先生は私になったの、それでもいい??」楽しそうに答えてくれた。

「うん、いいよ。」と大声が出た、だってあの先生は嫌いだったんだもん。

何だか神様が自分の為に先生を変えてくれたみたいで、ワクワクしながら幼稚園に行った。

「どう、幼稚園は楽しい??」ママが聞いてくる。

「うん、楽しい。」ママが満足そうな笑顔でを返してくる。

それが運が良いと感じた最初の記憶だ。

それから、小学校の頃には小学校のウサギの世話が嫌で、「嫌だなー、ウサギって可愛いけど世話が大変。」と言葉を放つ。

それからすぐにウサギが居なくなって、小学校で大騒ぎになった、あのウサギは何処に行ってしまったんだろう。

他にも、嫌いだとハッキリ言葉に出すと、何故だかその人間や動物が居なくなっていた。

だけど、私にとっては悪い事じゃ無かった、神様が自分の為に周りを整えてくれているくらいにしか思っていなかったからだ。

運がいい私はそのまま大人に成った、運の本当の意味なんて何も考えていなかったから。



私は18歳になった、中学の頃から付き合っていた彼との交際は順調で、このままずっと付き合っていけると思っていた。

「オオーイ、久しぶり、学校どう??」受験で会えなかったから、何だか恥ずかしい。

久しぶりに会う人は、一度関係をリセットして、初めての頃からやり直している気がする。

「うん、久しぶり、学校やっと決まった、やっぱり第一志望に行けそうだよ。」進学が出来る嬉しさに、浮かれながら答える。

「そっちはどう??もう学校は決まったんでしょ。」私も彼に聞いてみる、一緒の学校に行くと彼から聞けると期待して。

明るくて人の声が聞こえるカフェは、私達を見守ってくれている気がして、少し声が大きくなる。

店の中には漂うコーヒーの匂いが広がっていて、2人の前にはいつものコーヒーとパフェがある。

彼が答える前に、コーヒーの氷がカランと音を立てる。

「俺さ、今日言おうと思ってたんだけど、一緒の学校には行けないんだ。」きまり悪そうな顔が言葉を吐きだす。

「何で、大学にも一緒に行こうって言ってたじゃない。」責める声が出てしまう。

「それだけどさ、一緒にって言われてたから、こっちは言えなかっただけなんだ、行きたい大学が違うってさ。」ゆっくりと噛んで含める様に言葉を続ける。

「離れたらさ、もう会えないと思うから、これで終わりにしよう。」彼の言葉が耳に入って来るが、意味を理解できない。

店の音も匂いも全て消えて、何で??何で??何で??が頭の中を渦巻いている。

「遠くても、付き合えると思うけど。」振り絞った声が、自分の頭にわんわん響いている。

「ごめん、無理。」吐き出すように言って、「じゃあ。」と彼が席を立つ。

私は運がいい筈だったのに、何で??、溶けかかったパフェは何の味もしない。


「お帰り。」家に帰るとママの声。

わあああああ、ママの顔を見ると涙が溢れてくる。

「どうしたの??」心配そうなママ。

「彼がね、終わりにしようって言ったの、もう彼なんか大嫌い、死んじゃったら良いのに。」思っても居ない言葉がつらつら出てくる。

そんな言葉を使うのが良くないのは解っている、でも言葉が止まらない、ママの背中を撫ぜる音以外は、いけない言葉が満ちている。

「大丈夫よ、大丈夫。」ママが呪文の様に声を出している。

泣いたら、気持ちが落ち着いて、その日は思いのほかゆっくり寝むる事が出来た。


次の日だ。

「もしもし、ひとみ??」恵子から電話が有った。

「もしもし、恵子?朝から如何したの??」恵子の震える声に返事を返す。

「ひさしと付き合っていたでしょ??」それ以上は言えないらしい。

「うん付き合ってたけど、昨日終わったんだよ。」泣いたので気持ちが楽になっている。

「落ち着いて聞いて、そのひさしが心中したんだって。」はっきりと聞こえた。

「嘘でしょ。」それしか言えなくて、電話を切った。

キッチンから調理の音と、ご飯の匂いが漂ってくる、ふらふらとそちらに向かった。

「ママ、ひさしが死んじゃったんだって。」嘘かも知れないと思いながら話す。

「ママだから言ったでしょ、大丈夫だって。」ママが包丁でねぎを刻みながら答えて、顔を上げてニッコリと笑った。


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