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【小説】SNSの悪夢

セキュリティ万全のエントランスを抜けて、1人には広すぎる家の玄関の前に着いた。

「この家も広すぎるから引っ越すか。」誰に云うでも無く、玄関を開け乍ら口に出す。

心の何処かで、帰って来ているかも知れない気持ちが、渦を巻いてとごっている。

自分ながら女々しいな、元々一人だったんだ、その生活に戻っただけじゃ無いか。

玄関を開けると、冷え冷えとした空間が広がっている、家は人間が生活してやっと空間では無く家になる。

ここに居るのは自分だけで、その自分も寝る場所としてしか認識が無い、もう既に、ここは家でなく空間になり果てているのだ。

子供の頃、家に帰る時に、よその家の窓に明かりが点いているのを見ると、羨ましくて家に帰りたくなった、その気持ちがまだ抜けきって無いのかも知れない。

『まあいい、落ち着いたら引っ越ししよう。』心の中でもう一度呟く、小さく底に在った希望を打ち砕くために、何度も言う。

出て行った人は帰って来ないだろう、それでも彼女は信じてくれると思いたかった自分が居た。

靴を脱いで家に入る、靴は気にせずにキッチンまで行く、買ってきた物を冷蔵庫に入れておくのだ。

今日の夕食はパックご飯と納豆と鮭だ、若しかしたら出来合いの冷食を置いておく方が手間を考えると安いのかも知れない。

身体を作るためにしてきた食事が虚しくなってきて、冷食で良いかと思うのはいけない傾向なのだが。

1人で食べるのなら、パックはそのままでいい、箸も使い捨てなら食器も必要ない。

次に住む所には食器洗い機は要らないな、そう考えながら食べていた、お茶を忘れた、水でも飲むか、コップに注いでがぶ飲みする。

食べながら今日杉山某にくっついて、撮った写真や動画、音声を確認してみる。

自分が仕事で確認する状況も多いから、時間は掛からずに確認できた、あいつは自分の事は棚に上げて、他人を非難していたんだな。

怒りは自分の身体の底に住み着いている、同居している怒りを収めるには、どうやったら良いだろう。

ゆっくりと見直す、彼の奥さんに写真や動画を送っても、簡単には信じないだろう。

他人から急に言われても信じない筈だ、だけどSNSで見つけたらどうなるんだろう。

見つけるかどうかは賭けだが、やってみても損は無い、新しいアカウントを作って、そこで見かけたようにして、彼らがいちゃついているのを、見せる様にしよう。

動画も写真もそこで見せよう、音声は如何したらいいかな、それも適当な時に出してゆくか。

訴えられたって気にしない、こっちも差し違える覚悟だ。

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