思い出の欠片を眺める幸せ
久しぶりに親に会うと驚く位老けてたりして、きっと親の方も私が老けたなーなんて考えているんだろう。
私は親との縁は薄いと思っている、父親は自分が親との縁が薄かったので、子供や妻を大事にする方だと思うが、母の方は娘は出てゆくもので、出て行ったら切れてしまう物の様に考えていたみたいだ。
結婚式の前日には、有難うございましたと挨拶をしなさいと、母には言われた。
前日の夜に、言われた通りに挨拶をした、親にはそうする物なのかもしれないと考えての事だ。
両親の揃っている前で、3つ指ついて(何だか役者さんみたいだな)挨拶だ。
「今迄、長い事お世話になりました。」と言って親を見る、母は満足そうだが、父は違った。
「そんな事言うたら、これから全然会えへんみたいや無いか、そんな事言うな。」と少し大きな声を出す。
これは両親の考え方は違ってたんだなと反省して、思わずがばっと頭を上げて、なーんちゃってと言ってしまった。
これが正しい対応だったのかは解らないが、両親ともに満足そうに結婚式に参加して居たから、良かったのだろうと思っている。
結婚したと言っても未だ20歳で、直ぐに妊娠したとはいえ、親に会いに行くのが普通なのかも知れない。
だけど私はあまり行かなかったんだよね。
「お前は結婚したんやから、あっちの子になったで、簡単に実家に帰ってきたらイカン。」と厳しく言われて居たからだ。
父親は偶には帰って来いと言うが、母親が結婚前に言い放った言葉が頭に有るからそうそう実家に帰る(正しい表現なのかな)時間は無かった。
盆とか正月に実家に里帰りしてゆっくりするって、何処の世界の情報なんだとか考えていたんだよね。
結婚したての時にさえそんな感じだったのだから、子供が生まれて仕事も始めたら、忙しくて時間は出来ない。
最初の子が生まれた時には一度里帰りしたのだが、その時は両親とも仕事をしていて、休む選択肢も無くて、子供の沐浴は祖母が来てしてくれた。
その祖母が歩くのもよろよろしていて、こちらが心配になっているのに、生んだばかりは大変だからと、沐浴してくれたのは有り難かった。
祖母は生まれたばかりの子供の頭をむんずと掴むと、しっかり風呂に入れてくれて、自分の足も覚束無いのにと感じていた。
私の頭の中を想像したのか、ニヤリと笑って、こういった。
「伊達に4人子供育てて、孫も手伝ってきたわけや無いでな。」
まあ、ひ孫の沐浴をする人は当時は少なかったから驚いたのだけど、年も年だし2人目からは出来ないだろうな、とか想像していた。
その後3人を生んだ時には、里帰りしても手伝ってくれる訳でも無いので、行かないと宣言して、自分1人で何とかしていた。
自動車で15分くらいの実家が遠い宇宙の果てになった。
今考えると、私が行かないのは自分の自由だが、子供たちを連れて行かなかったのは、子供の祖父母との付き合いを、狭まてしまったのかも知れないと反省している。
それでも我が子には、お祖父ちゃんやお祖母ちゃんに修学旅行のお土産を持って行ってあげてと話した。
「たまには顔を出してあげるとお祖父ちゃんは喜ぶよ。」とも言ったりして、子供たちは1人で会いに行ったりしていた。
去年の終わりごろに、三女がお祖父ちゃんに彼氏を紹介したい、と言い出した。
「良いけど、2人で行くの?」と答えると「お母さんも一緒に行ったら。」と誘われて、今年の初めにお伺いを立てて、親元に行った。
三女は引っ越して、彼氏と住んでから、結婚するつもりだったので、引っ越す前の報告で、私は久しぶりに会いに行くか―という感じだった。
実際、離婚の報告とかで親に会ってから、もう何年も会って居ない。
親の方は隣に弟夫婦がいるし、弟の子がひ孫を連れて来ているから、私達に興味も無いと思っていた。
「おお、よう来たな~。」父親はいつもの調子の笑顔で迎えてくれた、母の方を見ると、そちらも笑顔だ。
想像よりも随分と年を取った笑顔が並んでいて、年を取るのはみんな平等なんだなーなんて考えたりした。
失った時間は帰って来ないが、その間も時間は進み続けていて、時間は平等に流れていたんだな。
「○○○か(三女の事)、これ覚えとるか?お土産で貰ったお菓子は食べて箱しか残して無いけど、これは置きもんやったで残しとるんや。」話の途中で父親がフクロウの置物を出してきた。
「エ~、それって小学校の修学旅行のお土産やん、未だ残しとったん?」三女が泣きだした。
「お前らがくれたんは大体残しとる、菓子はあかんぞ、食べてしまうからな。」どうも父親は弟の子や我が子のお土産を残していたらしい。
我が母は何でも捨てるタイプで、家も小さくしたから、殆どを捨てたのかと思っていたら、父親は律儀に残していたらしい。
この父親と私に「よその子になったんやから、あんたはもううちの子や無い。」と言い放つ母が夫婦で居るのは七不思議だ。
それにしても、年を取っても、思い出の欠片を取り出して眺めている父は幸福な年を取っているのかも知れないな。
思い出して、ふとそう思った。
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