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【小説】許せる日

ハアー、手に息を吹きかけると、白い息が舞っている、冬というよりは暖かく、秋というには寒い日だ。

寒さは好きだ、冷気が体を包んで自分の熱さで生を感じる、誰かの温かさが身体に触れると、許されると感じる。

「どうしたの、寒いの?」そばに居てくれる人は優しい、必要が無いと言われて育った私には勿体ない。

「寒くは無いよ、息が白くなるのが嬉しいの。」答えていると、手を包み込んでくれる。

手は汗ばんでいて、自分と違う存在が感じられる、冷たい冷気に抗う熱さがそこに在る。

「息が見えると生きているんだなって感じるでしょ、だからこの冷たい季節が好きなんだよね。」続けると、手を握りしめてくれる。

「みんな生きてるよ、自分も他人も大事にしてね。」その人は言い聞かすように言葉を紡ぐ。

「私なんか駄目だよ。」いつ死んでも良いと思って生きてきた、子供の頃からの親の言葉と自分の自信の無さがそうさせているのかもしれない。

「何が駄目なの?ダメじゃないよ、誰に言われたんだか知らないけど、僕はそう思ってるよ。」優しい言葉が入ってきて、冷たい言葉を温かくする。


子供の頃から弟だけが可愛がられて、私は要らないようだった、何をしても褒めてもくれない親に絶望して、身体を温めてくれるのならだれでも良いと思った時期が有った。

でも体は温めてくれても、言葉は頭の中の冷たい部分を温めてはくれなかった。

子供が出来て親に見つかると、まだ学生の身でと体ごと冷たくされた、ほの暖かな私のお腹はタダの空っぽの穴になってしまった。

あのままだったらどう為っていたのだろう?自分で生きていけない時期だったから、きっともっと悲惨だっただろう、そう自分に言い聞かせて空っぽで生きてきた。


「私ね、子供を殺したことが有るの、だからきっと幸福になってはいけないんだよ、私に中は空っぽなんだもん。」嫌われても良いと思って、そう言ってみる、誰にも言えなかった話。

「幸福になってはいけないって誰が言ったの?幸福になっちゃいけない人は世の中には居ないんだよ。」少し震えた声が返って来る。

「育ててやりたかったのに、自分だけが生きてるんだよ。」冷静な声が出た。

身体に優しさが覆われる、硬くて熱くて強い塊が私を覆っていて、私は顔を伏せて塊に身を寄せる。

「もう許しても良いんじゃないか?」空っぽの中に入り込む温厚な魂。

「許してもらえるのかな、怒ってるんじゃないかな。」気持ちはまだ許せないと思っている。

怒っているのは誰でも無く自分、この空っぽの私自身だ。


いつか白い息を吐いて、自分が許せる日が来るのかもしれない、いつの日か。


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