⑨「噂をすれば影」は世界共通の現象?英語とスペイン語ではなんという?
【3分で学ぶ教養講座】3つの言語でことわざや慣用句を比較することで、世界で通用する教養を身につけるという連載の第9回目です。
噂をしていると、本人が突如現れるというビックリ現象の発生率はどのくらいなのでしょうか?世界共通なのかどうか、気になるところです。言語が変われば、どう変わるのでしょう?
では、さっそく検証してみましょう。
「噂をすれば影」の意味
ある人の噂をしていると、不思議にその当人がそこへ来るものだということ。噂をすれば影が差す。
「噂をすれば影」という表現は、割と日常で使います。そして、その現象を実際に体験した人も多いはず。これは一体どういうことでしょう?噂話には、ある程度本人を呼び出す魔力でも備わっているのでしょうか?!
なんにしても、本人がいないことを前提に話していた内容を聞かれたとなると、なんとも気まずいものです。(どのくらい話を聞かれていたのか、とっても気になるけど、聞けない!)
「噂をすれば影」でいうところの「影」は「人影」です。そして、語源になっているのは、江戸時代の作品で、十返舎一九の「東海道中膝栗毛」にでてくる言葉です。この名前は学校で習ったことがあるのをうっすら覚えている人も多いのでは?
この言葉には、「噂話はほどぼどにしましょう」という戒めの意味があります。
英語で相当する意味の表現は?
Speak/talk of the devil
(悪魔のことを話すと)
その意味するところは、話題にしていた人が急に姿を現すこと。
悪魔ですか!?悪魔となると、急に不穏な感じになってきました。
もともとは、Talk of the Devil, and he is bound to appear(悪魔の話をすると、必ず現れる。)というように続きがありましたが、現在は省いて使われることが多い表現です。
このことわざは16世紀にまで遡ることができるほど古いもののようです。そして、20世紀以前においては、悪魔の話をしてはいけないという警告を意味して使われていたようです。でも、現代では、その意味はなくなっているとのこと。
スペイン語で相当する意味の表現は?
Hablando del rey de Roma, por la puerta asoma.
(ローマ王の話をしていたら、ドアから姿をのぞかせる。)
その意味するところは、話題にしている人が突如、姿を現すこと。
なぜにローマ教皇?
もともとは、rey(王)の代わりにruin de Roma(ローマの破滅)と表現していたようです。そして、この言葉が指していたのは、ローマ教皇でした。
この表現は、14世紀にローマ教皇がフランスの都市アヴィニョンに移った時期に由来するといわれています。当時のローマ教皇庁は、その権力の大きさや腐敗によって人気がなく、ローマ教会のトップは「ローマの破滅」と呼ばれていました。そして、悪魔=ローマ教皇(!?)とする構図がことわざに生まれたようです。
キリスト教のカトリック・ローマ教皇の座が、ローマからアヴィニョンに移されていた時期は1309年 - 1377年で、その間、位に就いた教皇の数は7人になります。
教皇クレメンス5世(1305年 - 1314年)
教皇ヨハネス22世(1316年 - 1334年)
教皇ベネディクトゥス12世(1334年 - 1342年)
教皇クレメンス6世(1342年 - 1352年)
教皇インノケンティウス6世(1352年 - 1362年)
教皇ウルバヌス5世(1362年 - 1370年)
教皇グレゴリウス11世(1370年 - 1378年)
当時、噂をしていても、実際に教皇が現れるということは、確率からしてはそんなに高くはないですが、神出鬼没の悪魔の代わりに使っていた言葉なら、納得?!
英語やスペイン語の悪魔やローマ教皇の表現と日本語の影の表現には、語源からして、若干ニュアンスの違いを感じます。同じニュアンスに揃えるなら、日本語だと、「噂をすれば鬼」か「噂をすれば悪代官」あたりが妥当でしょうか。
噂をした人が姿を現す確率は何パーセント?
実際に噂の当人が姿を現すかどうかの確率は、普通に考えて分かりせんよね。いろいろな要素が関わってきます。
ただ一つ言えるのは、同じ生活圏の身近な人について噂したなら、当人が現れる可能性は、ある程度高くなります。共通の知り合いについて、話しているので、人間関係と行動範囲はかなり特定されます。
反対に普段、会うことすらかなわないような有名人や物理的距離のある人なら、可能性は低いですよね。ほぼゼロ。
どちらにしても、こういったことわざが3つの言語で共通して存在するということは、噂話はするものではないと、昔の人も言っていたということですね。そして、そんなことわざがあるぐらい、みんな噂好きだったということの裏返し?!
ただ、当人のいないところで、その人の話題をだすことがいけないのではなく、本人の前で言えないことは、いないときもしてはいけないってことですよね、人として。自分がされて嫌なことはしてはいけないのです。
でも、やっぱりうっかり本人に聞かれてはまずい話をしていまうのが、時空を超えて人類に共通する本性というところでしょうか。この点については、人類は今のところ、あまり進歩がないですね。ちなみに、フランス語やカタルーニャ語での相当する表現では、現れるのは影でも鬼でも教皇でもなく、狼です。
やっぱり、ことわざは面白い!
以上、トリリンガル的思考での表現考察でした。
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