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サトウキビ Ni1

農林1号 (母本:F146 父本:多夫交配)

生い立ち

 1965年沖縄産まれ.しかし播種されたのは種子島であった.育成配布中はRK66-303と名付けられた.品種登録され,さとうきびNi1と命名されたのは1972年.主に鹿児島県内で栽培された.戦後のさとうきびは手刈りが主流だったが,ハーベスター向きの品種として注目された.いわゆる茎数型品種.
 国際的慣例で品種の命名法は育成地の略号と番号の組み合わせで表わされる.番号は番号だけの場合もあるが西暦年号の下2桁と番号の場合もある.Niとは日本の略号で,Ni1は日本で育成された最初の品種という意味である.

時代背景

 終戦後,沖縄県は米軍の統治下にあり,1952年からは琉球政府が統治していた.この品種が交配された当時の沖縄県は日本ではなかった.当時の日本の最南端に近い種子島にさとうきび試験地が置かれるものの,サトウキビが開花・結実できる環境にはないため国内で育種ができる地域はなかったのだ.そのため交配育種を行うためには海外に依頼することになる.依頼先は沖縄・台湾・インド・ハワイ・南アフリカなどであった.
 戦後に普及したさとうきびはしばらくの間NCo310一色で,新品種はこれを超える特性が期待された.その一方で海外からバーンタイプのハーベスター・トラクター・土壌改良機が導入された時期であり,機械化も育種目標として掲げられた時代であった.様々な問題を抱える中で農家の生産量を上げるという基本的な役割を果たすために選抜された.
 農林1号が品種登録された1972年に沖縄は本土復帰を果たしたので,日本の沖縄県でも広く栽培される事となる.

草型と特徴

  一番の特徴は均一で細めで数が多く,それでいて長さが均一にそろった茎である.分げつ数と葉数で葉面積を増やすタイプ.細めの茎が束になっている姿やまっすぐ上に伸びる葉がススキのように見える.その葉は細いので葉数が少ないわけではないが茎の方が目立つ印象を受ける.
 未展開葉は直立し先端が上向きになるが展開葉は葉の中央よりも茎に近い方で横向きに垂れ,先端部は鉛直方向ではなくやや斜めに伸びる.未展開葉は上へ,下位葉は上位葉の陰になりにくい茎から離れた位置へ展開する.


以下,参考にならない勝手な考察
 手刈りの時代,数が多いと斧を振る回数が増える.細いと束ねにくい.短いと1回で運べる量が減る.そんな時代によく品種になったなと当時の関係者の努力に頭が下がる思いである.この時代の機械化とは畑を耕す方法が機械になっていくところがスタートで,ハーベスターは琉球政府にしかなかった(らしい).よって機械化,とは省力化の事を意味していた.しかしこの品種は機械収穫を念頭に置いて選抜されたのが透けて見える.それは品種改良と同時期(1965年ごろ)にハーベスターの導入を行っていたからだろうと推測する.
 垂直な葉が折れずに立っていて影を作りにくい.この形は葉数が増えても株元が明るいという性質になる.株元に近い下位葉は横に広がるので一応は日陰にならない位置になりやすい.LAIを増やす戦略としては苗の量を増やし葉数を多くするといいだろう.つまり昔の畝幅であれば理にかなった形だったということである.逆に言えば畝方向に葉が行かないので畝幅の広い,現在の栽培方法には向かないと思う.一方で明るい圃場はNARが高くなるので実はLAIを無理に増やさなくても多収になるかもしれない.


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