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「ライラック通りのぼうし屋」

小学校の図書室で、何度も借りた本。
図書室のどの辺りにあったかも、
初めて手に取った時のことも覚えている。

何を借りようかと、部屋の中をぐるっと
本棚に並んだ本の背表紙を眺め歩いていた時に、
目に留まった「ライラック通り」の文字。

低学年のコーナーにあったけれど、
「ライラック通り」という言葉の響きに
心惹かれ、手に取った。

「ライラック」とは花の名前であることがすぐに分かった。
とても淡く綺麗な花なんだろうことも。

お話はとても不思議な世界だった。
ライラック並木を始め、出てくるものたちの色が、
とても美しく繊細で、
まるで夢の中にいるような、とても淡く綺麗な色の世界。
卒業するまで何度も借り続けた。

大人になってから、
あの素晴らしい色がまた見たくなって、
市の図書館で借りる。

すると驚いたことに、
中の挿絵のほとんどに、色はついていなかった。

本当に、本当にびっくりした。

私の記憶では、お話に出てくる
「にじのかけら」にも綺麗な色がついていたし、
「ヒツジのきえた国」の世界、
おじいさんが夢中で作る帽子すべてに、色がついていたからだ。

子供の頃の想像力というのはすごいなと思った。

大人になってから初めて読んだとして、果たして同じように
すべてに色がつけられただろうか。

こんな感じかな、というのはあっても
あんなにも鮮明に繊細に、色づかなかったのではないかなと思う。

そして、図書館で借りた本はとても古く、
出版年も古いことから、そう遠くない未来に
蔵書から外れてしまいそうな予感がした。

それから、古本屋へ行くと
この本を探すようになったけれど、
全然見つからない。

きっと運命なら、
いつか見つかるだろう。
偶然の出会いに任せよう。
そう思って、年月が流れる。

古本屋でも見つからず、図書館の蔵書からも無くなったら、
それは永遠に読めないことになる。

偶然の出会いに任せることをやめ、
今度はネットで探してみる。
すると、私が探し始めてから一度、
復刻されたことを知ったけれど、
もう遅く、どこも在庫切れ。

たった一つだけ見つけたサイトでは
8千円くらいで売られていた。

いつか絶対に手に入れたい。
けれど、8千円で手に入れることは
何か違う気がした。

高いから諦めようと思ったわけではない。
8千円でも買いたい!と思ったわけでもない。

この本はきちんと手に入れたいな、と思っただけ。

そしてふとシンプルなことを思い付いた。

出版社に直接問い合わせてみてはどうだろう。
ダメ元で、復刻のお願いもしてみようか。
早速メールをしてみると、
すぐに回答をいただけた。

書店では品切れ、重版未定ですが、
僅かに出版社の流通センターに残っているとのこと。

もちろん、購入させていただきます!とすぐに連絡をして、
こうしてようやく、
私の欲しいきちんとした形で、手に入れることができた。
出版社の方が私に子供がいるのを知ってか、
ペネロペのしおりを同封して下さったこともすごく嬉しかった。

この時のメールを探してみたら、ちょうど3年前の今頃だった。

この本は、低学年向きになっているけれど、
とても大人向きの本のように思う。

夫婦の関係や、物づくりの意義、
自分の好きなものを好きなようにつくる幸せ。
どんなに素敵なものでも、相手がいるからこそ成り立つこと。
あらゆる事柄において、幸せとは何なのか、
今読んでみると、しみじみと読みごたえがある。

主人公のおじいさんは、
30年ぼうし屋をやっていたけれど、初めて本当の意味で
ぼうし屋になれた。30年前と同じ、目の輝きを取り戻して。

安房直子さんのこのストーリーも素敵だけれど、
小松桂士朗さんの絵が何とも魅力的。
大人になっても忘れられなかったのは
この絵だったからこそだと思う。最高の組み合わせだ。

だけれど今は、色が見たくて読むというよりは、
この物語の内容をじっくりと味わいたいから読む。
楽しみ方が変わっても、ずっと読み続けたい
大切な本になった。

大切なものを忘れかけた大人に、読んでもらいたい本です。

ライラック

ペネロペ


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