『カップルで学ぶ正しいサキュバスとの付き合い方』

発行元:HHRI(Human Health Research Institute)

序文

 「サキュバス」という存在は、今や我々の生活の中に共存する様々な魔族種の中でもかなりあり触れた存在になりました。歴史を辿れば約1000年程前からその存在を確認されているサキュバスは、当初淫魔族の中の1種として繁栄し、約500年の歳月を経て他の淫魔族の個性も飲み込むような形で現在にまで受け継がれる姿に進化を遂げました。その後は社会的変革に際し、人口を減らしながらも人類と広く交流を持つ中で、人類の生活に緩やかに溶け込みながら共生の道を歩みました。
 今や我々人類の殆どが家系を遡るとどこかしかに1人はサキュバスの先祖を持つようになった中で、現在のサキュバスは遺伝の関係から人類に一定確立で誕生するような特殊な魔族になりました。
 そしてサキュバスを含む人類全体の文化的な多様化の中で、人類とサキュバスという組み合わせのカップルには、今まで以上に、より健康で文化的な生活を送る為のアドバイスが必要であるという考え方が、HHRIをはじめ多くの国家、研究機関によって提唱されています。
 本冊子『カップルで学ぶ正しいサキュバスとの付き合い方』は、そうしたニーズに少しでも応えるべく、サキュバスの歴史的背景や生態の説明から、より健康的で円満なサキュバスとパートナーの生活をサポートする為のガイドラインです。まずは今の自分やパートナーに関する疑問、興味から逆引きをするような形で読み進め、最終的には本書の内容を深く理解して頂くことを推奨します。



第1章 サキュバスについて知ろう

●魔族とは

 現代においては、この世界に住む人々は「人類」と「魔族」に分ける事ができるという考えが非常に広く浸透していますが、本来の生物としての歴史を辿ると、もともと我々の祖先は全員が魔族であり、そのうち進化の段階で魔法や魔力を捨てた人々が後の「人類」になったのではないか、という事が明らかになっています。
 魔族とは、本来自然世界のあらゆる所に存在している「魔素」と呼ばれるエネルギーを自分の体内に取り込む事で、自身に自然的な能力を外部から付加した人々の総称です。彼らは種族ごとに様々な特徴を持っており、中には外見的に明らかな特徴を有する人々や、外見では人類と判別する事は難しいながら、非常に個性的な物理的、非物理的能力を有する人々まで実に多種多様です。
 しかし、科学技術の発展による人社会の自然との乖離や、また魔族と人類間の共存環境の長期化による異種族交配が進んだ結果、現在では多くの人類とされる人々にも魔族の祖先の血が混じったり、また能力の弱体化によって実質的な魔族としてのアイデンティティを失った人々も沢山存在しますから、今後ますます人類と魔族の垣根は無くなっていくだろうと考えられています。


●淫魔族(サキュバス)とは

 淫魔族が人社会に登場したのは、科学技術主体の世界文明が始まろうとした約1000年前、人類と魔族が本格的に共生関係を築き始めてからだと言われています。淫魔について知る手がかりとなる歴史的な文献、資料は少ないながら、主に中規模以上の都市沿革や風俗史研究の中で、娼館産業の発展と共に、そこで働く魔族として原初とされる淫魔達の存在を確認することができます。元々自然界においてどのような魔族だったのかについては現在でも研究調査が進められており、しかしながら、その栄養となる魔素を人類から得ていたことは、他のあらゆる魔族と比べても非常に特殊だと言えるでしょう。
 娼館の発展、商業的成功と共に、淫魔たちの人口は近代文明化における多くの魔族人口減少に逆行するように増え続けました。おおよそ500年前を人口のピークに達したとされる時期は、都市における魔族の3人に1人は淫魔であるという言説まで囁かれていた事が歴史資料から確認されています。
 しかし、その頃からとうとう淫魔族の人口も減少が始まりました。原因としては、主に生息拠点となっていた都市内での集中的な繁殖行動により、人類の中にも淫魔の血を少なからず持った人が増えすぎた為、今までのように淫魔の能力を使った効率的繁殖が効果を発揮しなくなったことが近年の研究で明らかになっており、現在の我々人社会のほぼ全ての人々には、500年前よりは圧倒的に薄いとはいえ、淫魔の祖先の血を受け継いでいると考えられるでしょう。
 そんな中でも現在の社会に淫魔、サキュバスの人々が誕生するのは、偶々サキュバスの血を濃く受け継いでいた両親の間に偶発的にサキュバスの個性を発揮する子供が誕生した場合や、少数ながらサキュバスの血を残し続けようという考えを持つ淫魔族の人々の子孫として誕生しているからです。
 最新の統計によると、HHRIの定義するサキュバスに該当する人々は概ね全人口の5000人に1人とされています。


●サキュバスの能力

・変身能力
 サキュバスの個性を発揮した人々にまず確認される能力として、自身の見た目の性別、体格、髪の長さなどを、その人の能力の範囲で、近しい年齢の範囲に限り変化させられることが上げられます。
 現代のサキュバスにおいては能力の個人差が非常に大きい為、髪の毛の長さを数cm変えられる程度の人から、見かけ上の性別、大まかな体脂肪率、骨格まで変えられる人まで様々です。
 平均して10歳前後の第2発育急進期に本格的に能力が開花します。
 また、見かけ上の性別を変化させる際に両性具有化は不可能であることと、生活習慣病を代表とする諸々の病気になった際に長期的に能力が使えなくなることが分かっています。

・催淫
 サキュバスの個性が比較的濃く開花した人に使える場合があり、他種の魔族に見られる幻覚能力や神経作用系能力の1種と考えられています。科学研究はまだまだ途中ながら、民俗学的にはよく知られた能力であり、古来から世界中に存在したサキュバスの人権問題や排斥運動の多くがこの能力を起因として起こっている事が分かっています。しかし、良好な関係のカップルが適切な場面で使用する事で、より親密な信頼関係を構築する事ができるでしょう。

・読心術
 多くのサキュバスが無意識的に常時使用している能力であり、サキュバスの感情と密接に結びついると考えられています。殆どのサキュバス達の変身能力が「自分のなりたい姿」ではなく「自分のいる環境が最も望んでいる姿」に変身する事の根拠とされており、この事を特別にストレスに感じているサキュバスは非常に少ないとされています。
 しかし、サキュバスのトラブル相談に寄せられたケース等から、近年ではこの能力は、本来サキュバスが苦手とする高ストレス環境からの避難やネガティブな状況からの離脱という消極的な要因による進化の過程で生れた能力であり、観測上非常に珍しい上級淫魔の形態変化にも関連しているのではないかという研究が進んでいます。 

・若返り
 現在国連の保護対象となっている上級淫魔やそれに比類する能力を継承したごく一部の淫魔に見られる傾向で、その生涯の殆どの時間を、自身が最も美しいと感じる10代前半から40代後半の範囲の、実年齢より若い容姿に変身し続ける事ができる能力です。
 この能力は非常に珍しく、現在HHRIが保護観察している個体以外に偶発的に発現したケースを確認できていないか、この能力を使用している事で秘匿されている為判明していません。単なる変身能力と明らかに違う点として挙げられるのが「自分のいる環境が望んでいるか」どうかに関わらず変身者の完全に利己的な動機によって変化しているという事です。


●サキュバスのきもち

 現代におけるほぼ全てのサキュバスは、自身の事を特殊な存在であるとはあまり意識していません。社会的な観点でも、もはや娼館での娼婦、男娼という独占業務に近かった職業はすっかり産業ごと縮小し、従事者は極めて限られた人数に留まっています。また、サキュバスを含めた魔族に対しての人類の人権意識の成長や啓蒙活動に伴い、サキュバスに対する職業選択の自由度も一般的な人類とほぼ変わりない水準になったと言われています。その為、現代のサキュバス達が送る人生経験や個人に育まれた価値観も、概ね一般的な人類と相違ありません。
 しかしながら、元来サキュバスには魔素を人類から獲得する習性がある為、現代社会でも生活の中で魔族としての本能から「より人類に好感を持たれたい」と潜在的に考えて行動を取りがちであるという事も、やはり広く知られています。こうした行動自体は、社会活動を円満にする上で概ねいい方向に働く事が多い一方で、そうした行動の目的が究極的に人類の恋愛感情に向いている事から、個別に人間関係のトラブルを招いたり、知らぬ間にあらぬ誤解を生んでしまうケースも残念ながら確認されています。
 その為、本書を通してサキュバスへの理解を深めたい方には、まず、多くのサキュバスたちの感情として

  • 普通の人と同じように生活したい。

  • 人に好かれる事がとても嬉しく、大きな喜びに感じるが、それが必ずしも恋愛感情であるとは限らない。

  • しかし、本当に好きな人は何よりも大切にして全力で愛したい。

と考えていることを、我々は忘れてはいけません。


第2章 恋人がサキュバスだったら

●最初に理解すること

 『●サキュバスのきもち』でも説明があったように、もしあなたが人類として普通に生活する中で巡り合ったパートナーがサキュバスだったとしたら、そのパートナーというのも、また多くの部分であなたと同じく一般的な社会生活を送ってきた方です。やはり「相手がサキュバスである」という事に緊張を示す方は非常に多いのが現状ですが、そういった心配はひとまず置いておいて、お互いをよく理解しながら、まずは同じ人同士としての関係性を意識しましょう。
 そもそも、サキュバスは人間社会という環境に対して発露した魔族種になります。つまり、世間的に吹聴されている「サキュバスは特殊な存在である」という論に対しては、寧ろ他の獣人系魔族や自然に近い種族よりもよほど人類社会との差異が少ないと否定する事ができます。
 まずは目の前の大切なパートナーの話をよく聞いて、そして互いの気持ちを伝えることの積み重ねがとても大切です。


●日常生活のコミュニケーション

 サキュバスとはいえ、魔素である人類の生気を摂取する以外のほとんど全ての生活は人類と変わりません。サキュバスのパートナーと生活を共にする上で重要なコミュニケーションというのも、やはり人間のパートナーと接するのと同じように、お互いを尊重しあいながら信頼関係を築き上げることが重要になります。まずは目の前の大切なパートナーの話をよく聞いて、そして自分の気持ちも伝えることの積み重ねがとても大切です。


●サキュバス特有のコミュニケーション

 サキュバスと恋人レベルの親密な関係性を持った際に避けては通れないのが、サキュバス特有のコミュニケーションである「生気の吸収」になります。
 生気はサキュバスが魔族として摂取する魔素の一種です。サキュバスはその能力を第2発育急進期より以前には殆ど使用する事が無い為、幼少期にはほぼ魔素の吸収を行う事はありません。しかし能力開花後は元々体内に蓄積されていた生気を少しずつ消費していき、個人差はあるものの、概ね20代前半までには外部からの生気の吸収を欲するようになります。体内の魔素が減っていき、外部からの生気を求めている状態は、一見すると通常の人類における欲求不満や発情のような兆候とよく似ていますが、そうした性欲由来の感情的な欲求以上に、「喉が渇いた」「お腹が減った」「眠気」といった生理的な欲求に近い現象です。しかし、サキュバス当人も、生気への欲求と性欲の間にはあまり感覚的な差異を感じ取っていない事も多いです。
 基本的にサキュバスによる生気の摂取は、人類と密着する事による皮膚伝播で行われます。また、粘膜接触によってより効率的に吸収を行う事ができることからも、サキュバスは伝統的に人との性交渉中に主な生気の摂取を行います。また、この時に摂取する生気の量は、その時点でのサキュバス体内の魔素枯渇量に比例することが近年の研究で分かっています。
 またその逆に、皮膚伝播による生気の移動を利用してサキュバス側から人間に生気を伝える技術もありますが、総合的に見て、サキュバスが吸収する量の方が圧倒的に多くなります。


●サキュバスの生態と魔素消費について

 基本的に、サキュバスの魔素消費量が増える要因としては、「ストレス」と「感情の昂ぶり」の2種類があります。いずれもサキュバスに関わらず多くの魔族が体内での魔素消費量を増やす要因になりますが、特にサキュバスの場合、後者の「感情の昂ぶり」、つまり恋愛感情や対人関係での「好き」という気持ちの度合が強い程、他の魔族種に比べて魔素消費量の増加が顕著であることが分かっています。
 こうしたサキュバスの生態は、やはり淫魔族の発露に「人類社会との共生」という目的があった事が強く影響していると考えられています。
 サキュバス当人は勿論、サキュバスが近い環境にいる全ての人々が協力してストレスの無い生活環境を作る事がなによりも大切です。


第3章 幸せに生活するために気を付けるべきこと

●人間にとっての適度なスキンシップ

 サキュバスと人間が恋人関係になる上で最も大きな問題となるのが、パートナーとのスキンシップや性生活を行う際に「サキュバス側が人間側の生気を1度に摂取しすぎてしまう」現象です。この問題は、サキュバス側が過度のストレスに晒され、体内の魔素消費量が増加した結果、体内の魔素が枯渇した状況、または人間側が過度に疲労して体内の生気が足りない状況で行為に及んだ際に陥る可能性があります。
 こうしたトラブルを起こさない為にも、サキュバス側は、人間のパートナーの負担を抑える為、日頃から適度に近しい距離で過ごし、生気を沢山摂取したいという欲求を少しだけ我慢しながら、細目に少しずつ触れ合う事で生気の吸い過ぎを防ぎましょう。
 平均的なサキュバスは殆どの人類よりも潜在的にスキンシップに積極的である事が調査で分かっています。相手の負担にならない為にも、独りよがりにならないように気を付けましょう。


●サキュバスにとっての適度なスキンシップ

 サキュバスのパートナーを持つ人は、自分のパートナーが一般的なカップルに想像されるような交流よりも「より積極的に触れ合う機会を持ちたい」と潜在的に考えている事を意識に留めている必要があります。
 サキュバスにとっての生気の摂取を目的としたスキンシップは、人が「喉が渇いたから水分補給をしたい」と感じるのに近しい欲求です。水分補給が1日1回大量に水を飲めば良い訳ではないように、あなたのパートナーも1日数回はあなたと触れ合って、少しずつ生気を吸収したいという「サキュバスとしての健康的な生活」を望んでいます。こうした生活を実現できるように、お互いを支え合って生活を送りましょう。
 また、付き合いたての段階のサキュバスは感情の昂ぶりが多い事もあって当初想像していた以上に積極的に感じられるかもしれません。しかしそこで驚いてしまいパートナーを傷つけてしまわないように、寧ろそうした状況を少し楽しむくらいの心つもりでお互いの絆を深めましょう。


●セックスのルールは概ね人間同士と同じ

 恋人同士、さらには相手がサキュバスである場合、性生活の面では非常に充実した生活が期待できるだろうという事は、過去に実施された『サキュバスを恋人に持つパートナーの意識調査アンケート(HHRI)』の結果からも断定する事ができます。
 しかし、世間的に何かと誤解される事の多いサキュバスに対する勘違いの1つとして「セックスにおける避妊は必要ない」というものがあります。これは明確な間違いです。
 サキュバスの身体構造は、「第1章 ●サキュバスの能力」で紹介された能力に由来する部分以外、通常の人類と全く同じです。女性体のサキュバスと性交を行った際、サキュバスの生殖器構造に精子の侵入を魔法的に防ぐ能力はありませんから、避妊すべき場合は一般的に推奨される避妊具を必ず着用するようにして下さい。


●人間側は日頃から健康的な生活とトレーニングを行い、生気を蓄えておく

 サキュバスのスキンシップに対する積極性、そして性生活における熱量と費やす体力については、実際にサキュバスの恋人を持つとすぐに実感すると思われます。
 その際、より2人で充実した生活を送る為にも、理想的には、人間側はパートナーの満足できる体力と生気の量を維持する為、日頃から中強度の運動と身体つくりを習慣化させる事をHHRIは推奨しています。生活習慣については、一般的にサキュバスは夜間も活発に活動できる生態が知られてはいますが、あくまで健康的な生活を維持する為、お互いの生活リズムについて事前に示し合わせることも効果的でしょう。


●サキュバス側は一度にパートナーから大量の生気を吸い取ってしまわないように注意する。

 この冊子内でも度々触れられていますが、サキュバス側は好きな時に好きなだけパートナーから生気を吸い取ってしまうと、パートナーの過度な疲労に繋がってしまい、最悪の場合医療による回復が必要となるケースがあります。サキュバスの血が濃い方の中には意図的にパートナーに生気を注ぐことができる場合もありますが、それでも本格的な疲労時には応急処置程度にしかならない場合もあります。
 そうした事態に日頃から備え、近隣の医療機関の場所、連絡先について調べておくことが推奨されます。

  • ハードすぎるプレイは避ける(人類側には通常でも激しく感じる場合があります。)

  • 少し挑戦的な事をする時は事前に相談する。

  • 予定を決めた上で人類側のパートナーには数日前から栄養補給と予防用トレーニングをして貰う。

  • 頻度を増やして1回1回をカジュアルにする。


●幸せの形はそれぞれ

 現代においてはあらゆる物事に多様性が重視されるようになり、それはサキュバスの生活にも良い形で現れていると言えるでしょう。しかしそんな中で、恋人やカップルの関係性というのも少しずつ多様化し、複雑になってきています。大事なことはお互いが納得し幸せになれる関係性を見つけ出す事です。焦らず、冷静になって、自分たちの最良の生活を実現しましょう。
 もし、サキュバスとしての悩みや相談がある場合は、所定の公的機関でのカウンセリング、補助の相談窓口が整備されており、またHHRIを代表とする民間機関の中にも独自の支援制度を運営している場合があります。是非、溜め込み過ぎる前に周りの協力も頼ってみましょう。


●決め付けない、よく話し合う

 サキュバスの社会生活における人間関係については、恋人の視点から見た時、多くの場合でサキュバスのパートナーが多くの人から好意的な反応やアプローチを受けている事に気が付きます。これは「人間と良好な関係になれる」ように種族として進化した魔族である以上、ある意味必然であり、人類側の恋人が心配している程サキュバスのパートナーにとっては特別な事にも感じていません。
 性格に個人差はあるものの、概ねサキュバス族は、本当に好きな人に「好き」と伝える事をとても幸せに感じる事がアンケート調査から明らかになっています。もしあなたが普段の付き合いの中できちんとパートナーから好きだという気持ちを伝えられていたり、特にパートナーから求愛を受けたのなら、現在の関係の良好さを特別心配する必要はないでしょう。
 兎にも角にも、サキュバス以前に、好きな相手同士でお付き合いする訳ですから、自分の欲望を勝手に押し付けたり、相手の事を偏見や憶測で決め付けたりせず、その都度良く話しあって良好な関係性を構築できるように心がけましょう。


〈コラム〉サキュバス特有の能力に対する簡単な対処方法

・変身した恋人を見分けられるか不安

 サキュバスは変身能力を使える一方で、殆どの場合変身後も身体に残り続ける部分が幾つか存在します。
 まず代表的なのが瞳の色です。サキュバスの瞳は通常の人類よりも若干赤紫がかった色を帯びている事が分かっています。
 そして次に特定のアクセサリーを身に着けてもらう対策があります。サキュバス文化には、娼館時代からの名残で大切な人から送られたアクセサリーを常に身に着ける習慣があります。実際、現代でも指輪、ピアス、イヤーカフ等を送り合っているサキュバスのカップルはかなりメジャーでしょう。
 また、さらに関係性が深まったサキュバスの中には、相手の生気に催淫の魔素を折り込みながら彫った伝統的なタトゥーを身体に刻む事もあります。これは現代では少し珍しい光景にはなっていますが、いわゆる「トライバルタトゥー」の1種として一部のサキュバスの間では大切に継承されています。

・意図せず催淫をかけられそうになった / かけそうになってしまったら。

 人類側がサキュバスの催淫魔法を受けてしまうと、それ以降魔法が完全に解けるまでは、強い性的興奮を伴った泥酔状態に近い状態になり、自力で行動できず、サキュバス側の命令によってしか行動出来なくなってしまいます。
 もし自分が催淫をかけられそうになった場合は、まずは催淫魔法の発生源であるサキュバスの目を見ないようにしながら、身体が動かせるうちに肩などをしっかりと掴んで密着した身体を引き剥がしましょう。
 そしてもしサキュバス側が不意に催淫魔法を発動し、相手に不本意な催淫を書けてしまった場合、自主的な催淫解除を習得していないのであれば、催淫が解けるまでは被催淫者を1人にせず、無暗に性交渉を続けずに、一旦落ち着いて回復を待ち、覚醒後は積極的に介抱しましょう。催淫状態の場合、基本的に被催淫者は術者の命令が無ければそのまま睡眠に近い状態が続きます。しかし催淫中の意識は若干残っている場合が多い為、その場を離れたり、強引な行為を取ったりするとそれをきっかけにパートナーとの信頼関係に不和が生じてしまう事があります。
 最も大切なのはアフターフォローです。きちんと謝った上でお互いの望む関係性について話し合いましょう。

・もし若返り能力を使うサキュバスを目撃したら

 まずは自身の身の安全を確保し、該当する公的機関への通報、またはHHRIの特定保護対象魔族対策局へご連絡下さい。
 おおまかな連絡先の判別は下記の通りです。

  • 状況が逼迫していない場合:公的機関への電話通報を。

  • 状況が逼迫しており、救助、または迅速な解決を必要とする場合:HHRI(TEL:xxx-xxxx-xxxx)への発信を行って下さい。音声による説明を待たずに該当部隊を派遣致します。


第4章 もしもQ&A

Q.サキュバスは恋人にはエッチに振舞わなければいけない?

 いいえ、サキュバスだから、という理由で必要以上にエッチに振舞う必要は一切ありません。
 たしかに、歴史的、社会的認知として、サキュバスにはどうしても「エッチである」「性的なことに長けている」といった印象がまだまだ根強く残っています。しかし、実際のサキュバスは殆どの社会生活を普通の人類と変わらず生活していますし、同じように価値観も殆ど普通の人類と変わりありません。
 生気を吸収するようなスキンシップや普段の性生活を通して、どうしても周囲にそのような印象を与えてしまう事もあるかもしれませんが、まずはそうした印象を与えすぎないように努め、その上で周囲に理解を示すようにお願いしてみる事が環境改善に繋がるでしょう。

Q. もしかしたら自分が(恋人が)サキュバスかもしれない

 基本的にサキュバスは第2発育急進期を迎える10歳前後で能力を開花させる為、その際に検査を通してサキュバスである事が確定する場合が殆どですが、稀に能力が開花したものの、自身でも気が付かないレベルで小さな変化だった為、そのまま大人になるまで自身がサキュバスである事に気が付いていなかったパターンが存在します。
 もし、自身のパートナーや自分自身にそのような疑いが出てきた場合は、所定検査機関に連絡して検査受付をする事で、医療機関による淫魔族判定検査を受診する事が可能です。
 実際にこの検査を通してサキュバスだった事が判明した人が訴えていた受診理由としては主に下記のとおりです。

  • 慢性的な疲労感とそれに反比例するようなムラムラ感

  • 疲労した状態で人と密着した際に、自分は体力が回復したのに相手は極端に疲労感を訴えた

  • 美容院で髪を切った直後に髪の毛の長さやスタイリングが変化していた

Q. 相手も魔族の血が濃いけど大丈夫?

 問題ありません。
 もし好きな方が人類ではなく他の魔族種だった場合、パートナーが人類だった場合と比べて次のような違いがある場合があります。

  • 人類に比べて催淫魔法の影響が少なくなる、または完全に効果を出さない。

  • 相手の魔族種が人類から種族として乖離している度合が強いほど、一度の生気吸収で摂取できる魔素の量が少なくなる。またその反対に多くなる。

  • 同じ環境に長く一緒にいる事で、変身能力を使った際に人類よりも若干パートナーの魔族種に寄った外見に変化するようになる。(ヒレ、犬猫のような長い髭、長い耳、トサカに似た髪型、鋭利な爪、嘴に似た形状の口、触手に似た皮膚、極端に柔軟な身体etc.)

  • もし性交渉をして妊娠出産した場合には高確率でパートナー側の魔族種として血の濃い子供が誕生する。(サキュバスの能力が開花する事は非常に稀です。)

Q. サキュバス同士のカップルでも問題ありませんか?

 サキュバスの感性の範囲における交友関係や粘膜接触を伴うスキンシップを行う分には問題ありません。
 ただ、サキュバス同士でお互いに生気の摂取を行っても、吸収した分の生気をまた同時に相手にも供給する為、純粋な魔素補充の観点からはあまり推奨されません。中には円満なカップル生活を維持する為に、生気を吸収する為の十分な体力がある人類にスキンシップをお願いする方々もいらっしゃいますが、生気を吸収される側の負担が大きい為にトラブルの原因にもなるケースがあります。
 近年、社会的な恋愛の多様性が推奨され発展していく中で、共感する事の多いサキュバス同士の友人がいつの間にか恋愛感情を持って交際を始めるケースが増えています。こうした状況に、HHRIを初めとする世界中の機関が「サキュバス同士のカップルの付き合い方やそれに伴う結婚、妊娠、出産、育児」について調査研究を進め、そうしたデータを元に健全な付き合い方のセミナーを開催しています。もし好きな相手が同じサキュバスだった場合や、現状の関係性に不安がある場合は受講される事をおすすめします。
 また、前述したようにサキュバス同士の間に誕生した子供はほぼ確実にサキュバスの能力を濃く発揮する事が確認されている為、妊娠、誕生の際には公的窓口を通したHHRIへの報告書類提出の必要があります。詳しい説明については、サキュバス、魔族の受診が可能な産婦人科のある医療機関を受診してください。

Q.もしも好きな人の性別と自認性別の間にギャップがあったら

 お互いでよく話し合い、これからの生活についての感情と実際の容姿について折り合いの付く点を探しましょう。
 基本的に自認性別にギャップが出る場合、サキュバス側に外見の性別を変えられる程度の能力が開花している事が殆どですから、その場合は自分の好きな人の気持ちに寄り添う事で、より感覚的にも抵抗なく相手の望む容姿に変化できたというケースもあります。ただ、やはりお互いの信頼関係あってこそのカップルですから、一概に正しさを押し付け合わずに、落ち着いて解決を目指しましょう。

Q.もし行為をした結果人間側の生気を吸い過ぎてしまったら?

 サキュバス側が好きなだけパートナーから生気を吸い取ってしまうと、パートナーの過度な疲労に繋がってしまい、最悪の場合医療による回復が必要となるケースがあります。サキュバスの血が濃い方の中には意図的にパートナーに生気を注ぐことができる場合もありますが、それでも本格的な疲労時には応急処置程度にしかならない場合もあります。
 そうした事態に日頃から備え、近隣の医療機関の場所、連絡先について調べておくことが推奨されます。
 もし救急搬送が視野に入るような場合、いきなり救急車を呼ばずに、救急安心センター事業(♯7119)へご相談下さい。

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?