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編集作業は「捨てる」が8割

文章を編集するときは、客観的な視点に立ち、まっさらな気持ちで読む必要があります。

そうしないと、文章のうまくいっていないところ、余計な部分、足りない部分が見えてこないからです。

そのため、編集者という第三者の視点から見てもらうのが有益なわけですが、文章を書く機会がこれだけ増えたいま、自分の文章を自分で編集する機会も多いですよね。

その際は、どうすればよいのでしょうか。

具体的な対策は、「内なる編集者を育てよう」というnoteにも書きましたが、書いてから時間を置くことが大切です。

そうすることで文章から自分を引きはがし、客観的に読むことができるようになります。


いらない部分を捨てることで本質が見えてくる

客観的に文章を読むことによるいちばんの効用は、文章のいらない部分に気づけるようになることです。

冗長な部分、余計な言い回し、自意識が邪魔をしている部分……。

時間を置くことで、それらが浮かび上がって見えるようになり、潔く捨てることができるようになります。

編集作業において、「捨てる」ことはとても大切です。

いらない部分を捨てることによって、本当に伝えたいこと、その文章の本質がクリアになってくるからです。

もはや古典ともいえる、外山滋比古さんの『思考の整理学』という本に、考えを寝かせる大切さについて書かれている箇所があります。

どうして、「一晩寝て」からいい考えが浮かぶのか、よくわからない。ただ、どうやら、問題から答が出るまでには時間がかかるということらしい。その間、ずっと考え続けていては、かえってよろしくない。しばらくそっとしておく。すると、考えが凝固する。それには夜寝ている時間がいいのであろう。

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なぜ、作家の幼年、少年物語にすぐれたものが多いのか。素材が充分、寝させてあるからだろう。結晶になっているからである。余計なものは時の流れに洗われて風化してしまっている。

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一時の思いつきは、当座は、いかにもすばらしい。しかし、それは、生木のアイディアである。早く水分を抜いてやらないといけない。メモに書く。書けば安心する。安心すれば忘れやすい。しばらくして、見返す。ほんの十日か二週間しかたっていないのに、もう腐りかけているのがある。どうしてこんなことをことごとしく書きつけたりしたのかと首をひねる。風化は進んでいるのである。

【出典】『思考の整理学』外山滋比古(ちくま文庫)

つまり、時間を置くことで、いらない部分をあえて風化させる、必要な部分を結晶化させることが大切だということですね。

風化してしまったものは最初からいらないものだった、ということです。

そして、「時間が経っても風化せずに残っているもの」こそ本質的なものだったといえるのでしょう。

作品として長く残るかどうかも時間が決める

これは、何も1つの考え、1つの文章に限った話ではありません。

ぐーっと引いた視点から見てみましょう。

世の中にある本は、ご紹介した『思考の整理学』のように古典として残り、いつまでも書店に置いてもらえるものばかりではありません。

忘却の濾過槽をくぐっているうちに、どこかへ消えてなくなってしまうものがおびただしい。ほとんどがそういう運命にある。きわめて少数のものだけが、試練に耐えて、古典として再生する。

持続的な価値をもつには、この忘却のふるいはどうしても避けて通ることのできない関所である。この関所は、五年や十年という新しいものには作用しない。三十年、五十年すると、はじめてその威力を発揮する。放っておいても五十年たってみれば、木が浮び、石は沈むようになっている。

【出典】『思考の整理学』外山滋比古(ちくま文庫)

ここまで思考を巡らせたところで、別の本の一節を思い出しました。

村上春樹さんの『職業としての小説家』の中にある「オリジナリティーについて」という文章です。

村上さんは、ある表現者を「オリジナルである」と特定する3つの条件を挙げたうえで、一人の表現者なり、その作品なりがオリジナルであるかどうかは、「時間の検証を受けなくては正確には判断できない」と書いています。

僕がどれだけ「僕の作品はオリジナルです!」と大声で叫んだところで、あるいはまた批評家やメディアが何かの作品を「これはオリジナルだ!」と言い立てたところで、そんな声はほとんど風に吹き消されてしまいます。

何がオリジナルで、何がオリジナルでないか、その判断は、作品を受け取る人々=読者と、「然るべく経過された時間」との共同作業に一任するしかありません。

【出典】『職業としての小説家』村上春樹(新潮文庫)

ここまで考えを巡らせた私は、

「時間こそが最強の編集者だ」

という結論に至りました。

いい文章、いい作品とは、最終的に時間が生み出すものだといえるのかもしれません。

時間を味方につけて、いい文章、いい作品を残していきたいですね。

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