#4 炭酸

Masuoの語り 氏発案によりリレー形式で物語を繋ぐことになりました。

※先にコチラをお読みください。


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「でさ、社長なんて言ったと思う?『埃がきつくて』だってよ?」
そういうと彼女はクイっと残りのハイボールを流し込んだ。
「なに飲む?」「ハイボールもういっちょ」タッチパネルで追加注文をしながら、僕は聞いた。
「もう勝手に掃除しちゃえばいいじゃん」
「だめだめ、凹んで仕事にならなくなる」
「もういい大人だろ?そんなことある?」
「残念ながら、彼はまだまだ子供だねぇ」
彼女との会話は、非常に心地よい。たとえその内容が平行線をたどっていようと、そのキャッチボールだけで楽しいのだ。彼女がとても楽しそうに話してくれているのもあるし、まぁ、お酒が少し入っているのもある。しかし、聞けば聞くほど彼女のボスは変人である。なんでも、会議室の部屋を掃除しないそうだ。「なんだっけ、その社長の持論って。」
「ん?『掃除は議論の敵だ。議論のための共通認識を、部屋の臭いから作る』のこと?もうわけわかんないよね。」と言いつつも少し楽しそうである。
「でもね、社長、ついに自分の部屋は奥さんに掃除されてしまったらしいよ。」
自分の部屋まで掃除してなかったのかよ、と面喰いつつもそりゃ大変だと相槌を打つ。
「それでね、相当凹んでたのよ次の日。『今までの俺の歴史がぁ』と言っちゃって。」
「奥さんもそんな人と良く一緒に居れるな…でも奥さん方が一枚上だったわけか。」
「どんな持論を振りかざす男も、女の前じゃ丸腰になるんじゃない?」そう言ってほほ笑む姿に少しドキッとしながら、これは見透かされているのか?なんて考えてしまう。そろそろ次のお店行く?と聞くと、少し紅潮させた顔で、もちろん!と答えたので二人で暖簾を分け外へ出た。散った桜の花びらが街角にたまっている。ボーっとそれを見ていると彼女が急に聞いてきた。「で?今日の相談事はなんなのさ。」
あらら、やはりお見通しでしたか。もう出会って2年半近くなりますからね?などと軽口を叩きながら、いつもの2軒目へ。
「今年入ってきた子たちのことなんだけど。」
「おっと、3年目の先輩の貫禄が出てますね~!」
「ちょっとやめて、真面目なんだから。」
「入社半年でウチに営業に来た時の君とはもうだいぶ違うんだね~。」
「そりゃそうでしょ、成長したわ。そういう牧田だって変人社長に振り回されてたじゃないか。」
もうその話はいいでしょ、私も成長しましたと言って彼女はビールを飲む。
彼女の言う通り、ここ最近営業に行くと、セグウェイを乗りこなす社長になんなく資料を渡したりしているから驚きだ。自分の道をしっかり進んでいる彼女を見ていつも少し羨ましく思ってしまう。そして、こうして相談と言って飲みに誘う手段がいつまで通用するのかなんて考えてしまう。
「俺もビールもう一杯!」と大声で店員に告げる。少し驚いた彼女に、どうしたの今日はずいぶん飲むねぇと言われたが関係ない。今日は苦みと一緒に飲みほすのだ、この気持ちを。


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