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♭3恋敵

※先にこちらをお読みください

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私は、港区にオフィスを構える会社に入社し、10年目を迎えた29歳である。29歳の若さで幹部にまで昇進した。

高校を卒業して直ぐに、社会の荒波に揉まれる道へと進んだ私は、セグウェイを社内で移動手段として採用している頭のネジが1本抜けた社長の元で働いている。

風変わりな社長を印象付けるエピソードを紹介しよう。私たちの会社の決まり事として以下のものがある。

「掃除は議論の敵だ。日頃の汚れの蓄積が変化を表し、我々はその変化に敏感でなければならない。」
「議論のための共通認識を、部屋の臭いから作る」

このような意味不明な自論を社内の取り決めとされ
、私たち部下は常日頃困惑させられている。


話が少々脱線してしまった。
私は、10年もの間、働くことのみに生きがいを求めていたせいか、ろくに恋愛もしないまま気づけば29歳になっていた。

毎年のように来る結婚式の招待状にも辟易とする。
日本の文化は、結婚式に参加できない場合、「御」という文字を消し、出席に2重線を引き、欠席に丸をした後、空欄には、参加できない理由やお祝いの言葉を付加する事が節度ある礼儀とされている。

「こんな文化糞くらいだ! 嗚呼、苛立たしい!!
欠席を2重丸で囲んでやりたい!いや「御」の字は3重丸がいいな...
それだけならまだしも、なんで誰も思ってもいないようなお祝いの言葉や、嘘の欠席理由をわざわざ記載しないといけないんだ!
日本人は、嘘が書かれた紙を見て本当に喜んでいるのか?
とにかく、こんな文化はふざけている!!
自分の幸せを不幸者に見せびらかし、不幸者をなお不幸に陥れる文化でしかないじゃないか!
こんな所にまで資本主義を反映してなるものか!」

私は、恋愛というワードにアレルギー反応を示すほどになっていた。


こんな私も、突然、恋をしてしまった。
その相手は、3年前に入社してきた子で、風変わりな例の社長の秘書をしている。

私は、人目見た時から彼女に惚れた。
巷では、一目惚れというやつだろうが、それは違う。 みんなが思っているようなトキメキとは全く異なる。 この思いを一目惚れという一般市民と同等の概念にして言い訳がない。失礼にあたる。
このはち切れそうな愛。寝ても醒めても彼女のことが脳内に映し出されるこの感じは今まで味わったことがない!

彼女は、ショートカットで、美人とは言えないがしっかりした顔立ちで、男性をイチコロにする笑顔を持っている。体型も少し丸いが、男性が大好きなムチムチ肌をしていて、肌に毛穴なんか1つもない。男性諸君のみんなは分かるだろう? 完璧だ。。。

彼女の名前は、牧田ななといった。
彼女と話すきっかけを、何処かで持ちたいと思いながらも如何せん恋愛をしてきていない代償がここで現れた。

話しかけられない。。。

話しかけられず、もどかしいまま、はや3年がたってしまった。



ある日、会議が行われた。
この日は、社長自らが行う新たな事業プレゼンテーションがあった。
このプレゼンの中では、

ZoomやTeamsといったアプリが飛躍的に普及しているため、我社のCMを友達がミーティングルームに入る前や、メンバーの1人がネットの回線を悪くさせる時などの空白の時間に流せばどうだろうか

ということであった。

掃除が行き届いてない会議室で、いつものようにセグウェイに乗っているため、埃が室内を充満する。
あちこちから、咳き込む声が聞こえる中、その後、私たちに「任せる!」といったっきり、颯爽と社長1人だけが会議室を後にした。

「なんと勝手な社長だ...」

この場をなんとか終息させ、会議室を出た。


会議室を後にすると、女子トイレから出てきた牧田ななと出会った。
彼女は、やけにニヤニヤしており、頬はやんわり紅潮していた。

「あっ、おはようございます!社長のプレゼンいかがでした?」

「あっ....えっと...その..、いつも通りあの感じでしたよ。。」

「ですよね笑 1人だけが颯爽と出ていったんでそうだと思いました笑
でも社長って、本当面白い人ですよね!笑」

せっかく、牧田ななと話せた私だったが、非常に複雑な気持ちに陥った。

彼女がトイレからニヤニヤしながら出てきて、少し紅潮していたのは、あの社長のお茶目な姿をみて、そうなっていたのではないか?
確か、少し前に社長は1人で会議室を出たはずだ...
ならば、牧田ななは会議室を出た社長とここで会ったのではないか?
会議が終わって、2人っきりで会うことができた嬉しさそして、社長の行動のかわいさから顔が紅潮し、少しニヤニヤしていた...
そう考えれば、彼女の症状が説明つくのではないか?

もしかして、、、
牧田ななは社長のことが好き....?
秘書の彼女の立場なら、重役の私なんかより接する機会がうんと多い。
あんな風変わりな社長のすぐ側にいて、彼女の母性本能が発揮され、社長の幼児性を守ってあげたい。
このように思うようになったのではないか。

だから、彼女は社長のことを好きになったのではないだろうか?

嫌な予感が脳内を激しく蠢いた。

「それじゃあ、私行きますね! お仕事頑張ってください!」

「あっ..うん..ありがとう。」

私はせっかく話せた彼女との貴重な時間を台無しにした。
それどころか、より重大なことを知ってしまった。

牧田ななは、社長を愛している!!!

私は、立ち直れそうにないまま、俯きつつ仕事デスクへとトボトボと戻っていった。


p.s.
牧田ななが社長のことを好きで紅潮していたのではなく、自分の社長への返しの上手さ、社長の馬鹿さかげんに爆笑したことによる、紅潮であることに彼は気づけないのであった。
牧田ななはトイレから出る瞬間は、平然とした顔で出ていたつもりだったが、彼は、彼女のわずかな表情の変化に気づいたのだった。
このさり気ない勘違いが今後の進展にどのように作用していくのであろうか。乞うご期待。



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