見出し画像

GSにて

 湖畔のガソリンスタンド。薄暗い店内から非常灯の明かりだけが漏れている。その明かりが天井からぶら下がる給油用の管をうす気味悪く浮かび上がらせている中で、ギターをしょって座っているのが俺だ。そうこうしている内にベースをしょった友人・ケーゴがやってきた。来るなり「タバコ」とぶっきらぼうに言うのにムッとしながらも1本差しだす。長髪、学ラン、タバコ、ベースとはたから見たら完全なる不良だが、根は真面目な奴である。「お待たせ」と言ってやってきたのはユキヒサである。「寒い、早く開けろ」と言うケーゴの言葉を流しながら、じゃらじゃらした鍵でシャッターを開ける。このガソリンスタンドの店主の息子であるユキヒサは、店舗の1室をドラム練習スタジオに改造している。そこに我々もアンプを持ち込んで練習させてもらっているわけだ。つまり我々だけの特設練習スタジオである。

「そろそろライブがしてみたい。」
と唐突に呟いたのはケーゴである。確かにこのバンドを結成して早半年、練習ばかりを繰り返してまだ人前で披露したことはない。いかんせんまだ少し恥ずかしい。人前でギターを弾き、歌う、それはとても気持ちいのだろうけど…。
「急にどうしたのさ」とユキヒサ。
「うるせぇ、いつまでもウダウダしてられない!やるんだ俺は!」
「ははぁ、さてはアミちゃんに『演奏見たい』とか言われたな?」
アミちゃんとはケーゴが一方的思いを寄せている女の子である。
「はぁ!そんなんじゃないわ!」
と言いながら焦ってタバコに火をつけ、アッチと言っている。ケーゴは根が真面目で、非常にわかりやすい男である。
「最初からそう言ってくれればいいのになぁ、そういうことなら仕方ない。やってみますか。」と俺は威勢よく言ったものの、はて?ライブをするにはまず何をすればいいんだ?

 ケーゴは「知らん」の1点張りだし、ユキヒサは「そうだねぇ」とニコニコしているだけで埒が明かない。やむを得ない、明日学校でマイ先輩に聞くことにしよう。

 結局僕らの初ライブは決行するに至ったが、肝心のアミちゃんは予定があるとかなんとかで見に来なかった。しかしそれはまた新たな物語の始まりでもあった。

続。

もしよろしければサポートお願いします。 糖分補給の財源とします。