見出し画像

三島由紀夫「美徳のよろめき」

山田詠美さんの解説が追加された新版です。この解説、私はとても好きです。(それにしても、なんてチャレンジングな帯なのでしょう)

三島由紀夫作品は、初めて読みました。読後、感じているのは、ひたすら美しかったな、、という以上に、「男の理論だな、、」ということ。
当たり前の話だけど、作中で、どんなに達観した老女に喋らせたセリフであっても、やはり三島由紀夫のーー男の言葉なのだ。女の本能をわかっていない人なんだな、と感じた。
対象的な太宰治を思い出した。三島由紀夫の無駄のないシンプルな美しさは、確かにどんどん読み進めていける。太宰のような柔らかで伸びやかな感情表現とはまた違う美だ。私はそもそも、小説を読むことを好まない、リアリストで合理主義者なのだが、冗長を感じてしまうことを差し引いても、私は三島由紀夫よりも太宰の方が、好きだ。太宰は、女の本能をわかっているのだ。
それでも、もっと三島作品を読んでみたいと思ってしまうのは、彼の文才と、彼自身の魅力のせいだろう。

===

作中では、主人公節子は、堕胎を繰り返すのだが、一回ごとの堕胎で、道徳が一段階ずつ崩れていく様が描かれている。ひとつひとつの堕胎に、違う道徳や美徳が描かれており、そこは読み返してみたくなるポイントだ。

この不倫と堕胎の恋愛劇を見て、私が結局思い至った感想は、「結婚」という制度への疑問であった。「女が一等惚れる羽目になるのは、自分に一等苦手な男相手でございますね」ーーたしかにそうかもしれない。惚れた男の子を身籠りたくなる(身体を欲する)のは、女の本能だ。惚れた男の子どもを、産み育てることは、本来女の幸せで、また人類の幸せであったはず。産む決断ができない社会の不自由こそ、囚われの檻だ。(フランスにはすでに結婚という檻が存在せず、子育ても国が責任を負うので、大人達は、働き、愛し合い、子どもを安心して産める。)

しかし一方で、作品中で、結婚という檻の中で支え合う、夫婦の美しさも、私には感じられた。それは確かに甘美なものではないかもしれない。でも、夫婦の穏やかな良識や、現実的な親切さも、存在感を放っていた。

不倫というのは、「命懸けの遊び」なのだと思う。そして、遊びもそこまでくれば、人生の醍醐味とか、生きがいとさえ、言えるのではないだろうか。おちたくなくても、おちざるをえなかった恋。学びのない恋なんてない。大切な人ーー配偶者にとっての、人生における大切なことを邪魔する権利なんて、誰にもあるんだろうか。

節子の父親も、悔しいほどに、よかった。三島由紀夫は、男を描くのは上手い。でもーー。
他の作品も、読んでみたいと思います。本当に三島由紀夫が女を理解してないのかどうかなんて、そうしないと、わからないですもんね。

この記事が参加している募集

#読書感想文

190,092件

#これからの家族のかたち

11,372件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?