なぜジェンダーギャップ指数はバカ発見器なのか

2023年現在、インターネットではバカ発見器として定着しつつあるジェンダーギャップ指数。

ジェンダーギャップ指数がいかに「男女平等」を示す指標として不適切であるかは、優れた記事がすでに多く存在するので、ここでは議論しない。たとえば、以下のものがわかりやすくまとまっているので、そちらを読んでほしい。驚くべきことに毎年記事が出ている。

その代わりに、ここではなぜジェンダーギャップ指数がバカ発見器として適切なのかを議論したい。なお、これより先ではジェンダーギャップ指数をGGI(Gender Gap Index)と略すことにする。


興味、あるいは知的好奇心の欠如

「GGIがバカ発見器」と説明する前に意味するところを定義しておく。「GGIの中身がめちゃくちゃであることを知らずに、日本の順位が低いことを指して、日本を男性有利国家だと嘆くバカを引き寄せる」くらいの意味である。

ポイントは上で挙げた記事で説明されているように「GGIの中身がめちゃくちゃである」という点にある。中身を見るだけ、たとえば順位を上からさらうだけでも違和感を呼ぶと思うのだが、その程度の確認もせずに非難するあたりバカと呼んでも差し支えないだろう。

ということで、基本的には「中身を確認しないからバカなのだ」という話をし、「なぜバカと呼んで差し支えないか」を説明する。

さて、GGIの中身を確認する原動力のひとつにまずは興味を挙げたい。

それは、「日本が男女平等で世界的に下位であることは本当か?」と検証することにも等しい。疑問をいだいて行動に起こす点を以て知的好奇心と呼んでも良いかもしれない。

その発露には様々なパターンがある。例をいくつか挙げてみよう。

  • GGI上位にはどんな国がある?なぜ順位が高い?

  • 逆に下位には?

  • 日本とよく似た文化の韓国の順位は?

  • 日本と同じような120位の国の男女観はどうなっている?

など。指数や順位が発表されたら、それが何であろうと抱いてしかるべき当たり前の興味だと思う。

だが興味自体はなんでもよい。男女平等自体に興味がなくても構わない。そして、GGIレポートを見に行くまではいかなくとも、疑問に感じたことを自分で調べて解説を探すだけでも立派なものだろう。私も初めからGGIの中身を見に行ったわけではないし。

翻って、男女の不平等とやらの是正に興味があるにも関わらず、何の疑問を持たない人間がいたらどうだろうか。GGIという指標が正しいのか検証する気も起こさず、ただアップされた記事のタイトルを鵜呑みにして憤る人間が、いたとしたら。

GGIで示される事象に興味があるのに、何が書かれているのかには興味がない。これは知的とも誠実とも言えない。よって、GGIはバカ発見器と呼ぶにふさわしい。

見たうえでGGIに憤っている場合もバカと呼んでよいと思うが、それは後述する。


解決型思考の欠如

男女平等の精神が見についている大和男の皆様は、GGIにおける日本の順位の低さを見てどう思っただろうか。男女不平等に心を痛め、GGIの詳細を確認してどうにか解決をしなければならない。そうは思わなかっただろうか。私がそうだった。

ただ、見れば酷いと気づく。GGIの算出がおかしいことに始まり、大虐殺のあった国が上位になるようないびつな順位付けになっているなど、何に手を付ければ仲良く男女平等になるのかわからなくなってしまう。

解決とは、現状を理解し、目標を設定し、現状と目標のギャップとなる課題を解決する営みである。だからGGIを見て男女平等を達成(=目標)しようとするならば、まず中身を見て男女不平等っぷり(=現状)を確認することが不可欠だ。

しかし、GGIの中身を参照し、現状と目標とのギャップを認識したうえで男女不平等を嘆く人間がどれほどいるだろうか。日本の男女不平等に憤る人間はいわゆるフェミニストであると思われるが、「GGIの順位が低く、是正が必要だ」と嘆くだけでどの数字を改善すべきか提言をするケースは極めて少ない。つまり、中身を見ないで非難しているか、中身を見たうえで具体的な行動を思いつくことができないのである。

男女不平等に憤り、男女平等を目指すのがいわゆるフェミニストの主張である。ならば、目標と課題の共有は必須事項のはずだが、あった記憶がない。要するに解決を目指していると口で言いながら、能力はともかくやる気すらもないのである。これを解決型思考の欠如と呼んで、バカと判定する基準としてよいだろう。

もっとうがった見方をしてみる。一般的に、男は解決型、女は共感型と言われる。解決型には行動と、それに伴い責任が発生するが、共感型はそもそも行動すらしない。これを上記のフェミニストの主張に当てはめると、行動すらしないが共感はしてほしいという怠惰な思考が透けて見えてこないだろうか。

解決する気も能力もないのにぎゃあぎゃあ騒いでいる。よって、GGIはバカ発見器と呼ぶにふさわしい。


データを読み解く能力の欠如

興味にしろ解決型思考にしろ、GGIの中身を見ることが重要であるとこれまで説明した。だが見たうえで、GGIをもって日本の男女不平等に憤る人間も中にはいるだろう。

そういった人間にはデータを読み解く能力が欠如している。あるいは、自分の読みたいようにしかデータを読み解くことができないと言ってもよい。

真に解決を望み、その熱意があるならば、データを分析して課題を発見することが何より重要だ。

だがGGIを使って何か言いたい人間は「西洋国家のどこどこを見習うべき」「やっぱり日本は女性が差別される国」「家父長制」くらいしか言っていない。

データを読み解く以前の問題でもあるが、そこはおいておく。

たまに「教育や健康寿命(といった日本が得意なはずの分野)でも順位が低い!」など何か言っているような発言も見られるが、たとえば教育の計算手法がいびつであることは下記の記事が詳しい。

一応詳述しておくが、2023年の日本の教育と健康寿命のGGIはそれぞれ47位と59位だが、先進国の仲間入りをしている割には、確かに低い。G7に名前を連ねていることを鑑みると、できれば10位、最低でも20位以内に入ってほしいところだ。

しかし、GGIの教育と健康寿命に10位や20位という順位は存在しない。教育は1位が25か国あるため1位から漏れれば即座に26位。一方の健康寿命は1位の次に27位が来る。

では1位とその次の順位が大差があるかGGIを見てみると、教育は1位が1.000で26位が1.000(!?)、健康寿命は1位が0.980で27位が0.979だ。小数点第四位がたった1違うだけで20番台に入れられてしまうのである。ちなみに日本はそれぞれ0.997と0.973である。順位だけ見れば低いが、むしろトップと同等くらいにいってもよいのではないか。

しかし、この問題提起には「GGIは有効数字5を超える精度を必要とする」という反論が可能だ。有効数字が3を超えても意味を持つケースにあまりであったことはないが、そこはまた、データを読み込んで改めて反論をしなければならないだろう。


いかがだったろうか。これがデータを読むということである。程度も精度もまだ低いが、それでもGGIの順位に意味があるのか?という問題提起くらいは可能だ。

悪口を言いたいわけではないが、フェミニズム信奉者が以上のような具体的な数的な分析に耐えうる反論をしているケースを見たことがない。反対者がデータを示してGGIのゆがみを指摘しても、ほっかむりか「でも差別されてるのは確か」といった反論という名の我儘を口にするのが関の山である。

示されたデータの意味がわからない、不都合があるからデータを無視するなど考えられるが、何にせよ褒められた態度ではない。GGIをバカ発見器と呼んで差し支えないだろう。


でもみんなそうでしょ?

以上3つの角度でバカ発見器ことGGIについて話してみた。この記事を読んだあなたもGGIをバカ発見器だと思うことに同意しているだろうか。しかし、以上の3つのケースはほとんどの人間に当てはまると思わないだろうか。

ほとんどの人間が「女性は差別されている!」と聞いても瞬間的に同情するだけですぐに興味を失い、(仮に)差別が真実であると知っても直接的な行動に移さない。あるいは移すほどの余裕も権限もない。また、データを読む訓練を受けた人間などごく少数だろう。

つまり、GGIがバカ発見器だったとしても、発見されたバカを嗤えるほど多くの一般人も賢くないのである。

だが、それでいいと思う。自分に直接影響しないものに進んでかかわろうとしないのは、一般人として当然の反応だ。

ただ、フェミニズムの信奉者との決定的に違うのは、フェミニズムの信奉者はGGIを知りもしないし知ろうともしないのに我が意を得たりと棍棒のように振り回すという点だ。要するに、言行不一致の上に自身の感情を優先して他人をけなす姿が反感を買っているのだ。

何を言いたいかというと、GGIをバカ発見器だとせせら笑うだけでは同じ穴の狢になってしまう、ということだ。言い換えれば、中身を見ずに「GGIはバカ発見器wwww」と嗤うのは控え、フェミニズム信奉者と同レベルに堕ちることは避けるべきだ。令和五年はフェミニズムを嗤ってこき下ろす時代ではなく、フェミニズムに違和感を抱く人間を冷静に説得し、増やし続ける時代であるからだ。

だから、GGIを軽蔑する人間もちょっとは中身を見てほしい。「見なくても間違ってるってわかるわw」「自分は読んでないけど他の人も言ってるし、明らかでしょ」といった不誠実な態度をとっているのであれば、ちらっとでも見てほしい。「japan」で単語検索して出てきたページをさらうだけでもだいぶ違う。

そして、データによる完全な理論武装があるに越したことはないが、リソースが有限である以上、非常にハードルが高いと言わざるを得ない。だから、GGIのいびつさを正確に指摘したいときには、自分が参照した文献(noteや個人ブログ、ツイートでもなんでもよい)を引用するか、GGIレポートのうち読んだことのある部分のみに言及を絞ることが重要になると思う。たとえば、「GGIは男女平等を示す指標として適切でない"らしい"(といって参照文献を提示する)」「7位のニカラグアに日本が倣うことは?(順位は数分あれば確認できるためハードルが低い)」「健康寿命が47位であることはどう思う?(上述の内容を参照してほしい)」くらいにすべきではないだろうか。

GGIを嗤うあまり、あなたもバカとして発見されることのないよう、ゆめゆめ注意していただきたい。

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