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ジェンダーギャップ指数を男女共同参画に関する国際的な指数から除外すべき5つの理由

はじめに

 今日ではジェンダーギャップ指数の構成要件や計算方式が明らかになり、この指数に対して懐疑的・否定的な声があがる事は珍しくなくなりました。

しかし一方で日本における男女格差が存在する理由やエビデンスにジェンダーギャップ指数の低さを用いられる様子も根強く残っています。

特に男女共同参画事業に携わる大学教授や議員職、弁護士等が情報発信をすると、男女共同参画局のウェブサイトの説明と相まってジェンダーギャップ指数が低いから日本には男女格差が存在するという言説をより強固にし、また、こうして形成された固定観念を払拭するのは容易ではありません。

そんな中、今回のnoteを執筆する契機になった出来事が2つありました。1つは日経新聞社の月曜日のたわわ掲載問題の発生、そしてもう1つは同問題に端を発してUN Womenのアンステレオタイプアライアンスとは何か?と疑義を突きつける国会議員が現れた事です。

※下記動画を閲覧せずとも話は通じます。

これまで、多くの国会議員はジェンダーギャップ指数の低さを論拠に日本には男女格差が存在すると筋道をつけ「どうしたらこの数値を改善出来るのか?数値改善は待ったなしである!」と主張する側ばかりに存在してきました。

ジェンダーギャップ指数に疑義を持つ我々側は防戦一方で為す術もない状況が続いていたのです。

またこの動画の一週間前に、杉田水脈衆議院議員がジェンダーギャップ指数の扱い方について国会で質疑をされました。奇しくも国連が編纂するジェンダー開発指数(GDI)やジェンダー不平等指数(GII)では比較的高順位にも関わらず、なぜか問題にされるのはジェンダーギャップ指数(GGI)の低さばかりであり、当該指数に疑義を持たれるのは不思議ではありません。

 そこで今回はジェンダーギャップ指数を男女共同参画に関する国際的な指数から除外すべき5つの理由と題し、ジェンダーギャップ指数の性質を詳らかにすると共に、男女共同参画局のあり方や、これまでこの指数を御旗の錦に展開してきた事業を見直す契機になる事を願い、執筆に当たるものです。

※例によって例のごとく呼称が大変長いので、以下ジェンダーギャップ指数をGGI、ジェンダーギャップ指数レポートをGGGR(=Global Gender Gap Report )と呼びます。

1. GGIの性質と本質

  まずは内閣府・男女共同参画局のホームページからGGIがどういう指数であるかを引用します。

男女共同参画局:男女共同参画に関する国際的な指数
男女共同参画局:男女共同参画に関する国際的な指数
https://www.gender.go.jp/international/int_syogaikoku/int_shihyo/index.html

経済、教育、保健、政治の分野毎に各使⽤データをウェイト付けしてジェンダー・ギャップ指数を算出している。

0が完全不平等、1が完全平等

を表している。

内閣府・男女共同参画局

明確に、0が完全不平等、1が完全平等と紹介されていますね。ではここで、最新版のGGGR 2021より、12年連続で1位を獲得したアイスランドのスコアシートをご覧いただきます。

The World Economic Forum : Global Gender Gap Report 2021
GGGR2021よりアイスランド(総合1位)のスコアシート
https://www3.weforum.org/docs/WEF_GGGR_2021.pdf

赤色でハイライトした専門職・技術職部門の男女比の男女比をご覧ください。女性59.0:男性41.0ですから、女男比(f/m)はスコアシートの通り1.44となり一見正しく見えますが、スコアは1.000と小数点以下が切り捨てられている事が分かります。

次に緑色のハイライト部分をご覧ください。初等教育の就学率部門では女性99.4:男性99.5と微差で男性が多くなるとスコアが0.998に下がってしまうのです。

つまり、女性側が有利な場合はどんなに大差であっても1.000の完全平等のスコアが与えられ、微差であっても男性が有利であれば0.998とスコアが下がってしまう事を意味します。

下図はこの性質を概念化したものですが、上段が男女共同参画局のイメージ、下段が実際のGGIの算出方法となります。

男女共同参画局の説明と実際のGGIの算出方法の違い(1)

恐らく、GGIを男女格差を示す指数であると信じて疑わない方は、上段のイメージをお持ちではないでしょうか。男女格差指数であるから、女男比が51:49でも49:51でも等しく0.960のスコアを示すであろうとの認識です(1.040の±0.04との認識も同様です)。

しかしこのスコアシートが示す通り、実際に採用されているのは下段。当事国が一国だけでは再現性の担保が出来ませんから、総合1位のアイスランドに加えて他国の事例もご覧ください。

GGGR2021より専門職・技術職の女男比と実際のスコアの抜粋
GGGR2021より専門職・技術職の女男比と実際のスコアの抜粋

総合順位1~5位の国は明らかに女性優位な比率にも関わらず1.000部門1位にランキングされ、オランダは部門74位に留まっています。

もしGGI1.000を基点とした不均衡を示す天秤なら、女男比±0.003のオランダが最も1.000に近く、部門1位にランキングされるはずです。しかし実際は上図の通り僅かでも男性比率が高くなるとスコアが下がってしまうのです。

下図は男女共同参画局の説明と、実際のGGIの算出方法の概念の違いです。

男女共同参画局の説明と実際のGGIの算出方法の違い(2)
男女共同参画局の説明と実際のGGIの算出方法の違い(2)

 従いまして、男女共同参画局の0が完全不平等、1が完全平等と言う説明は端的に誤りで、女性が優位以上でなければ(=最低でも女男比50:50)スコアが落ちてしまう性質の指数なのです。

GGIのスコアや順位を上げようと1.000を目指すには明らかな女尊男卑の社会構造が必須ですが、これでは男女共同参画局が目指すジェンダー平等のベクトルとは異なった方向に進んでしまいます。

このGGIの本質こそが、GGIを男女共同参画に関する国際的な指数から除外すべき1つ目の理由です。

2. スコアと順位が乖離する性質

 どんなに女性が優位であっても… 言い換えれば女尊男卑の状況であっても1.000のスコアが得られるGGIではスコアと順位が乖離するケースが散見されます。

先に示した下記図表から、オランダは0.997と高スコア(1.000に近いと言う意味)でありながら156カ国中74位と全体の順位のほぼ真ん中にランキングされている事が分かります。0.003差2位ではないのです。

GGGR2021より専門職・技術職の女男比と実際のスコアの抜粋
GGGR2021より専門職・技術職の女男比と実際のスコアの抜粋

さらにもう一つ、中等教育への進学率部門のランキングをご確認ください。1.000で同率の1位が104カ国あり、0.001差のリトアニアが105位とランキングされてしまいます。

GGGR2021より中等教育への進学率の女男比と実際のスコア

このように、1位1.000の国が多数発生すると微細な差で大きく順位を落としてしまいます。この部門では日本が0.953129位とランキングされていますが男性1,000人を基準に女性の数を比較した場合

  • スコア1.000=女性1,000人以上

  • スコア0.999=女性999人

  • スコア0.953=女性953人

と言う差でしかありません。しかしこの順位付けの方法では1.000を獲得しない限り低い順位に甘んじてしまうのです。

また別の弊害もあります。156カ国中、1~134位までが下記図表の表示範囲とすれば、日本の表示位置は概ね真ん中で、順位は下位あると認識されがちです。この0.900~1.000の範囲に134位タジキスタンまでが表示されてしまうので、残りの22カ国の存在は無視されがちになります。

狭いスコープでの弊害

しかし日本のスコアが0.953である事から正確に図表を作成すれば、低順位を殊更深刻に考えずとも気に病まずに済むのではないでしょうか(下図)。

スコアのスケールに従ったポジション

日本のマスコミを中心にGGIを御旗の錦に使う人々は概ね狭いスコープで日本の低順位を嘆き、改善が必要だと訴えます。しかしこのように、GGIがアウトプットする順位はスコアと大きく乖離する性質があるのです。

そして、そのスコアも1.000を起点とした天秤ではない事も忘れてはなりません。

これらのスコアと順位が明らかに乖離する性質がGGIを男女共同参画に関する国際的な指数から除外すべき2つ目の理由です。

3. 事実を反映しない順位

 次に、健康寿命部門を取り上げます。ご存知の通り日本・シンガポール・韓国は世界に名だたる長寿国として知られており、健康寿命については調査の度に世界トップ3を争います。下記に最新版のWHOのグラフを示します。

Healthy life expectancy (HALE) at birth (years)
WHO:健康寿命

今回の調査では世界1位から順に日本、シンガポール、韓国の順となりましたが、GGIではどのポジションであるかを確認してみましょう。

GGGR2021より健康寿命の女男比と実際のスコア
GGGR2021より健康寿命の女男比と実際のスコア

WHOの調査では1位日本、2位シンガポール、3位韓国であったはずが、GGI部門順位ではそれぞれ72位88位62位と落としています。

この三カ国は男女共に健康寿命70歳を超えるにも関わらず、例えばレソトのように健康寿命40歳代の国にスコアで破れてしまうのです。

GGIの性質と本質で示した通りGGIは男女格差を示す指数ではなく、単純に女性÷男性の女男比を算出、上限を超えた場合は数値を切り捨てて順位づけしているに過ぎませんので、実態としては優良な国が女男比で劣る国に水をあけられてしまう現象が発生します。

2021年の健康寿命は1.060を上限とし、それ以上は切り捨てます。結果として39カ国が1位となり、健康優良国である日本・シンガポール・韓国を上回るのです。

承前のスコアと順位が乖離する性質に加え、順位も事実を反映しない。これがGGIを男女共同参画に関する国際的な指数から除外すべき3つ目の理由です。

4. 選挙方式の違い

 GGIで順位が低い・スコアが低いとの話題では、誰しもが「政治部門と労働部門が弱い」と口にします。しかし、GGIが信頼に足る指数だと仮定しても、どうすればスコアが上昇するかまで考える人は多くありません。

政治的権限の有無のサブインデックスから構成要件を検めましょう。スコア0.000過去50年間で国家代表を努めた年数ですが、日本の選挙方式=間接選挙が女性総理大臣の誕生をやすやすとは許しません。

GGGR2021より政治的権限の有無
GGGR2021より政治的権限の有無

先の自民党総裁選では高市早苗衆議院議員と野田聖子衆議院議員が立候補したものの、いずれも選出されなかったのは記憶に新しいところです。

総裁選は各メディアで中継され、ニュースにもなり、派閥の力が大きく左右すると痛感なさった方も多かったのではないでしょうか。

つまり間接選挙で国家代表を選出する我が国は、女性国会議員の数が少ない為に女性派閥がなく、派閥がないから総裁選で勝てず女性総理大臣が誕生しない構図を作り出します。

さらには男性が総理大臣だから男性中心の組閣になり閣僚中の女性の割合も増えず、さらに男性畑の環境になりがちで国会議員を目指す女性も増えない・・・と言うGGIのスコアを上昇させるにはいささか不向きな、所謂負のスパイラルを作りやすい選挙方式を採用していると言えます。

それに比べて直接選挙で大統領を選出出来る方式では、女性大統領が生まれる、任命権を持つ大統領が女性閣僚を選出する、女性閣僚が多いから女性国会議員を目指す人も増える・・・と、GGIのスコアにとっては好都合の材料が揃います。

これら、国会議員の男女比閣僚中の女性の割合過去50年で国家代表者を務めた年数はそれぞれが密接にリンクしており、一朝一夕には変えられない要素であるにも関わらず、GGIは156カ国を一律に比較しているのです。

このような条件を整えないままで比較し、スコアリング・ランキングするのはアンフェアであるのは言うまでもありません。GGIを男女共同参画に関する国際的な指数から除外すべき4つ目の理由がこちらです。

5. 人口規模の違い

 選挙方式の違いに引き続き、人口規模の違いが無視されている事も忘れてはなりません。

初版のGGGR2006にはこのような記述があります。

 ”このカテゴリの明確な欠点は、地方政府における女性と男性の参加の違いを示す変数がないことです。将来、世界レベルでそのようなデータが入手可能になればGGIに含めることを検討します。”

GGGR2006 P.13よりPolitical empowermentの解説
GGGR2006 P.13よりPolitical empowermentの解説
https://www3.weforum.org/docs/WEF_GenderGap_Report_2006.pdf

しかし残念ながら、実現しないまま現在に至っており、欠点は取り除かれないまま比較され続けています。

一都道府県の人口と肩と並べるような小国と、1億人を超える大国とでは組織の大きさや役割が異なるのに、変数による調整もなく、同じ土俵に立たされているのです。

男女共同参画局より全国女性の参画マップ (地方議会編)をご覧ください。都市部と地方では自治の役割が異なり、人口規模も異なるので女性議員の比率には大きな差が生じコントラストが認められます。差がついて当然です。

内閣府・男女共同参画局:全国女性の参画マップ (地方議会編)
内閣府・男女共同参画局:都道府県別全国女性の参画マップ
https://www.gender.go.jp/policy/mieruka/pdf/map_chihougikai.pdf

こうした諸条件を無視し恣意的な基準で比較する様は、分母が明らかに違うのに分子だけを見て優劣をつけているような居心地の悪さを感じずにはおれないと言ったところでしょうか。

単純には比較出来ない事案を比較してスコアリングしている。これがGGIを男女共同参画に関する国際的な指数から除外すべき5つ目の理由です。

6. GGIのスコア・順位を改善するには

 以上の5つの指標の性質を踏まえながら、このGGIが男女格差を示す指標でありスコアや順位の上昇が男女格差=ジェンダーギャップの解消に寄与すると仮定した上で、スコアアップの有効な手段を考えてみます。

それでは遅まきながら、2021年版の日本のGGIのスコアシートをご覧ください。以降、皮肉が入った粗野な物言いになる事を予めお許しください。

GGGR2021より日本のスコア全体と順位

健康と生存部門

 例えば健康と生存部門で日本が1位になる為には、男性と女性の健康寿命の差をより広げねばなりません(女男比1.060以上が目標)。しかし女性の健康寿命は世界最高レベルでこれ以上の上昇は望みが薄い。ならば男性の健常寿命を下げる、すなわち何らかの方法で男性に早死にして貰えばGGIは上昇するのです。

教育達成度

 最良の方法は男子中学生や高校生を受験から遠ざける事です。とにかく受験活動を妨害して進学を諦めて貰いましょう。女性が進学し、男性が進学しない社会構図を作り出せばGGIは上昇します。

下図の通り、総合順位1~5位の各国のスコアを見れば、女尊男卑で男性が高等教育(日本で言う大学以上)を修める比率の抑制に成功している事に気が付きます。

スコアは足切りされて1.000になるとは言え、1位のアイスランドや5位のスウェーデンは素晴らしい女男比で、これであれば少しでも男性が女性を上回り、スコアが0.999以下に下がる心配はありません。スコア0.999では順位は40位以下と猛烈に下がるので余裕を持った計画が必要です。

GGGR2021より高等教育就学率の女男比
GGGR2021より高等教育就学率の女男比

経済部門における参画度と機会

 まず前提条件として、女性が男性に比べて昇進意欲が低い事がいくつもの調査で結果が出ている事を念頭におきます。

ITmediaオンライン:女性の昇進意欲を左右する基幹的職務経験
ITmediaオンライン:女性の昇進意欲を左右する基幹的職務経験より
左図:管理職に就いていない総合職正社員の管理職への昇進希望。
右図:管理職に就いていない総合職正社員の今より高い地位・役職へ就く希望の有無
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1811/13/news018_2.html
パーソナル総合研究所:「管理職になりたがらない女性」を「意欲が低い女性」と同一視してはいけない ~時間や場所に縛られない職場が未来の管理職をつくる~より管理職になりたい人の割合<性年代別>【ベース:正社員(非管理職)】
パーソナル総合研究所:「管理職になりたがらない女性」を「意欲が低い女性」と同一視してはいけない ~時間や場所に縛られない職場が未来の管理職をつくる~より
管理職になりたい人の割合<性年代別>【ベース:正社員(非管理職)】
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/column/201901250001.html
仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層の実情や本音を探る調査機関『しゅふJOB総研』
仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層の実情や本音を探る調査機関『しゅふJOB総研』より
あなたは管理職になることを希望していますか?
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000645.000003176.html

すなわち、現在優位に男性側に昇進意欲がある状況で、その男性らを差し置いて、本来やりたくもない管理職や役員を女性に押し付け、とにかく数合わせの為に女性を重用するのです。

さらには、土木やインフラ整備を始めとする3K労働(=きつい・汚い・危険)に女性が率先して就労するのも有効ですし、昇進の為に専業主夫を希望する男性と結婚するのも有効です。

女性の希望はさておき、男性から所得の獲得機会や昇進機会を奪い、それらを女性が獲得したならばGGI上昇を強力に後押しするでしょう。

政治的権限の有無

 承前の通り日本の現在の政治形態のままでは女性の国家代表の誕生は望めません。大統領と総理大臣両者が政治的権限を有する半大統領制(二元主義型議院内閣制)の実現を目指すのが良いでしょう。

拙稿「ジェンダーギャップ指数:アイスランド12年連続1位の強さの秘密に迫る」で述べました通り、大統領と総理大臣両者が女性になる事でスコアを二重にカウントする事が可能になります。

また、いずれかが女性になる事で女性閣僚や女性国会議員を増やす呼び水にもなるでしょう。

さらには、いくら日本の国家代表が女性になったからとは言え、過去50年間の任期は早々には覆せません。日本が半世紀の間女性の国会代表を維持しつつ、他国には男性に変わって貰えるような根回しも必要になります。

そうでなければ既に女性の国家代表を努めた経験がある国には、いつまで経っても追いつく事が出来ませんから・・・

 既に繰り返した通り、GGIの本質は女男比で1.000(健康寿命部門では1.060)を超える事です。スコアを0.001落とすと順位を著しく後退させますから確実に1.000を狙うのであれば、ゆとりを持って女尊男卑の構図を作っておく必要があるのです。

では、辛辣な物言いはここで終わりにしましょう。

7. GGIは幸福度と直結するのか

 これまでの論考から、GGIのスコア・順位の上昇が一般に広く求められるジェンダー平等とイコールでない事はお分かり頂けたのではないでしょうか。

GGIをステレオタイプに盲信し、GGIで上位を目指す事がジェンダー平等を実現すると言う理路は破綻しているのです。

そもそも冒頭の動画小山紘一弁護士が仰るように、ジェンダー平等の追究の先に国民全体の幸福がある(はずだ)という図式の元に始まった男女共同参画事業ですから、ジェンダー平等を推し進めた結果、極めて平等にはなったものの国民全体としては不幸になったと言うのでは本末転倒です。

したがって、これまでGGIが内包する多くの瑕疵に気づかず、疑問にも感じず、男女共同参画事業でエビデンスとして使い続けた議員・弁護士・大学教授の皆様には一旦ご退場いただいてスタッフを刷新し、日本国民の幸福とジェンダー平等を再考する必要があるのではないかと思うところです。

8. 男女共同参画に関する国際的な指数

 こうしてGGIがジェンダー平等に無関係であったと判明した以上は、内閣府・男女共同参画局は直ちに当ウェブサイトからGGIを除外すべきです。

ここで下の2つの図をご覧ください。これらは男女共同参画局の同URLのスナップショットです。1つ目は2021年のスナップショットで、2つ目が2022年現在のものになります。現在では人間開発指数(HDI)が男女共同参画に関する国際的な指標から除外され、レイアウトが変更されているのがお分かり頂けるでしょう。

このページにGGIが掲載され男女共同参画局によって権威付けされる限り、ジェンダーギャップ指数が低いから日本には男女格差が存在するというステレオタイプは存在し続けます。

ですからHDIが除外されたように、GGIもまた同様に除外されるべきではないでしょうか。

内閣府・男女共同参画局 :男女共同参画に関する国際的な指数(2021年)
内閣府・男女共同参画局 :男女共同参画に関する国際的な指数(2021年)
内閣府・男女共同参画局 :男女共同参画に関する国際的な指数(2022年)
内閣府・男女共同参画局 :男女共同参画に関する国際的な指数(2022年)

9. ジェンダー平等は論点整理が必要

 GGIが除外された事でGDIGIIが残りますと、他国に比べると凶悪犯罪や交通事故が極めて少なく、規範意識が高く安全で文化的生活を送れる幸福度の高い国であると言う現状から、ジェンダー平等の終着駅を探る事になります。

  • ジェンダー開発指数(GDI55位/167か国

  • ジェンダー不平等指数(GII24位/162か国

多くの資料はGGIがベースとなり日本はGGIが低く男女格差が大きいジェンダー後進国であるとの論調で記述されていますから、まずはこうした意識から刷新しなければなりません。

例えば国立女性教育会館ー男女共同参画の現状・課題では、冒頭からGGIが低い事を指摘し、スコアの改善を求めています。

国立女性教育会館:実施の手引き(Ⅱ男女共同参画の現状・課題)
国立女性教育会館:実施の手引き(Ⅱ男女共同参画の現状・課題)
https://www.nwec.jp/about/publish/n2ih1m000000072c-att/n2ih1m00000007xx.pdf

内閣府男女共同参画局が作成した女性活躍・男女共同参画の現状と課題では1ページ目からこの有様です。ご丁寧に0が完全不平等、1が完全平等の部分を赤い太字にしてアンダーラインまで引いています。

内閣府・男女共同参画局:令和3年 女性活躍・男女共同参画の現状と課題
内閣府・男女共同参画局:令和3年 女性活躍・男女共同参画の現状と課題
https://www.gender.go.jp/kaigi/renkei/kikaku/53/pdf/s2.pdf

同じく令和3年度にリニューアルされた広報誌「共同参画」においても、ジェンダーギャップ指数が低いから、我が国のジェンダー平等は通遥かであると冒頭から語りはじめています。

「共同参画」2021年5月号
「共同参画」2021年5月号
https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2021/202105/pdf/202105.pdf

ここまでお読みになった皆さんは、GGIを重用するあまりステレオタイプに凝り固まり、アンコンシャス・バイアスに気が付いていない男女共同参画事業に呆れてしまったのではないでしょうか。

しかもこれを是正する作業は膨大な手間が掛かります。

その全てでないにしても、ジェンダーギャップ指数を政策決定の指標とした文献は現時点で500件以上にも上るのですから・・・

内閣府共通検索:「ジェンダーギャップ指数」の検索結果
内閣府共通検索:「ジェンダーギャップ指数」の検索結果
https://nsearch.cao.go.jp/cao/search.x

まとめ

 以上をもって今回のnoteのまとめに入ります。冒頭のように現役国会議員から直接ジェンダーギャップ指数に対する問題提起があった事は私にとって大変なインパクトがありました。しかも、二人ほぼ同時にです。

これまでも多くの方がGGIの瑕疵や誤謬を指摘されましたが、男女共同参画社会基本法の施行から20余年、多額の予算を注ぎ込みながら混乱は招きども明らかな成果を実感できない現状を忸怩たる思いでご覧になっていた方も多いと思います。

そこで今回、山田太郎参議院議員杉田水脈衆議院議員GGIの性質、本質を探ろうとなさるならば、微力ながらnoteで役に立てるのではないかと思い立ちました。もちろん、既に大筋は把握されていると動画から伺えますので、このnoteがあろうがなかろうが時間の問題でありましょう。

また、月曜日のたわわに端を発した一連の問題では、山田太郎参議院議員の働きかけが、日経新聞社やスポンサーである内閣府や外務省とUN Womenとの契約であるアンステレオタイプアライアンスの内容を詳らかにしようとしています。

アンステレオタイプアライアンスの設立理念にもGGIが用いられ、先進国中最下位である(=改善が必要)と主張されるからにはUN Women日本支部側はGGIの精査は当然済んでらっしゃるでしょうが、内閣府や外務省がGGIを男女共同参画局の指標から除外するのであれば、日経新聞社も含めてその契約を見直す契機になるやもしれません。

そして大手マスコミの一角として日経新聞社が「GGIとは何か?」を精査し直したならば、GGIの性質ではジェンダー平等の指針足り得ないと結論づけられる可能性もあり、報道姿勢の大転換期の到来も現実味を帯びてきます。

余りに先を見ても仕方がありませんので、まずは現在、この問題に興味をお持ちの山田太郎参議院議員、同事務所の小山紘一弁護士杉田水脈衆議院議員のお目に止まる事を期待しつつ締めたいと思います。

繰り返しますがGGIは女男比49:51(=0.960)よりも女男比60:40(=1.000)の方が高評価を示す性質の指数です。

この指数で確実に1.000を狙うのであれば、女男比50:50の見込み運用では確定時点で女男比49.9:50.1(=0.996)と結果が出る危険性がある。そして0.996では部門順位100位以下になってしまう可能性も・・・

ならば常に女男比51:49以上になるように心がけましょう、いやいやなんなら女男比60:40くらいが安全ではありませんか?これがGGIで上位を狙うと言う将来の姿です。

本当にGGIのスコア上昇はジェンダー平等に寄与しますか?

もう、日本がGGIで何位であろうとも右往左往する必要はありません。

GGIを男女共同参画に関する国際的な指数から除外すべき5つの理由

  1. GGIは女男比50:50以上で1.000の最高スコアを得られる指数です

    • GGIは男性優位でスコアが下がりますが女性優位では下がりません

    • つまりGGIは男女平等を表す指数ではないのです

  2. スコアと順位が乖離する性質があります

    • 1.000の同率1位が多くなり、微差で次点でも大きく順位が後退します

  3. 実情と順位が乖離する性質があります

    • GGIは女男比の比較に過ぎず、客観的事実は順位に反映されません

  4. 選挙方式の違いを考慮しません

  5. 人口規模の違いを考慮しません

    • 4、5では単純比較が出来ない事案を条件を揃えずに比較しています

その他のGGIにまつわる誤謬と修正希望事案

  • 男女共同参画局の0が完全不平等、1が完全平等の説明は完全に誤りです

  • 男女共同参画局はウェブサイト上の男女共同参画に関する国際的な指数からGGIを除外すべきです

  • GGIを除外後、ジェンダー平等は論点整理が必要です

  • GGIを重用してきた議員・弁護士・大学教授・マスコミは意識改革が必要です

おわりに

 毎度長丁場になる所、今回もお読みくださった皆様にお礼を申し上げます。

また重ねて、これまでジェンダーギャップ指数がニュースで取り沙汰されジャパンバッシングに利用される中、ツイッター上では多くのアカウントからシェアや啓蒙を賜り、拙稿が伝播された事に改めまして感謝を申し上ます。

端的に申しまして「シェアされているのを見掛けるとめっちゃ嬉しいです!

そして念の為、執筆当初から断っておりますように我が国に男女格差=ジェンダーギャップがないと主張する意図は全くございません。

一連の問題は、ジェンダーギャップ指数(GGI)が、あたかもジェンダーギャップ(男女格差)を定量化・格付けしているような呼称でありながら実態はそうでない事、さらには多くの方が誤用し、広まり続けている事にあります。

中でも国会議員・地方議員の皆様、マスコミ、弁護士、大学教授と権威あるインフルエンサーの皆様に自信満々に拡散し続けられましたから、この固定観念を打ち破るのは容易ではありません。

GGIのスコアを上げる事のみに注力すれば誰が考えても頓珍漢で皮肉に溢れた施策になってしまうのに、当人達は大真面目にGGIを上げろと訴え、疑義を唱える声には耳を貸さず、政策決定の判断材料にしてしまっているのです。

先の杉田水脈衆議院議員と男女共同参画局・林局長の質疑応答を視聴すればそれもそのはずで、国会議員や議員秘書が男女共同参画局に直接尋ねたとしても、0が完全不平等、1が完全平等、ジェンダー平等実現の為にはGGIで1.000を目指しましょうと返答されてしまうとの想像は難くなく、考えようによっては尋ねて回答を得た方々も被害者なのかもしれません。

しかし気がつけば巨額の国家予算を投じながら、GGIのスコア上昇ばかりに目を奪われ、ジェンダー平等の実現から遠のいてきたのも事実ではないでしょうか。

すなわち正しい政策決定をする為には、ジェンダーギャップ指数が低いから日本には男女格差が存在すると言う固定観念を一刻も早く取り払う必要があるのです。

最後に、いつもサポート下さっている皆様に心より感謝すると共に、スキのお気持ち(タップ/クリック)だけいただければ十分であります故、何卒お心付けはお控えいただければと存じます。

つまるところ私は、ジェンダーギャップ(男女格差)を正確に分析して改善する為には、ジェンダーギャップ指数(GGI)を物差しに用いてはいけない、と言う話を長々としているだけに過ぎないのですから。

参考文献

The World Economic Forum : Global Gender Gap Report 2021
The World Economic Forum : Global Gender Gap Report 2006
男女共同参画局:男女共同参画に関する国際的な指数
Healthy life expectancy (HALE) at birth (years)
ITmediaオンライン:女性の昇進意欲を左右する基幹的職務経験 (1/6)
仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層の実情や本音を探る調査機関『しゅふJOB総研』
パーソナル総合研究所:「管理職になりたがらない女性」を「意欲が低い女性」と同一視してはいけない~時間や場所に縛られない職場が未来の管理職をつくる~
国立女性教育会館:実施の手引き(Ⅱ男女共同参画の現状・課題)
内閣府男女共同参画局:女性活躍・男女共同参画の現状と課題
内閣府男女共同参画局:「共同参画」2021年5月号

ジェンダーギャップ指数にまつわる過去記事

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