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ジェンダーギャップ指数レポートとの決別

はじめに

 note処女作となりましたジェンダーギャップ指数レポートとの向き合い方はお陰様で皆様より大きな反響を頂戴し、名もない素人が書き連ねたnoteでありながら100を超えるスキを頂戴しました。記事の引用やツイッターRTなどで頂いた通知には極力お礼の返信をさせて頂いたものの、返信出来なかった皆様にはこの場をお借りして失礼をお詫びいたします。またサポートを下さった皆様、RTにて拡散して頂いた皆様に対しては御礼の言葉もございません。改めまして重ねて感謝申し上げます。

 さて2020年末、年も暮れて残りも僅かと言うタイミングで既に波が終わったかと思われた拙著にスキがつきはじめ、ツイッター通知が賑やかになりました。頂戴したツイートを遡ると、どうやらハフポスト様のこちらの記事に起因しているようです。

執筆者を確認しますと直様「あぁ、この方だな?」と、下記の記事を思い出す事が出来ました。互いにジェンダーギャップ指数レポートに興味がありながらも、それに対する所感は大凡真逆と言った所でしょうか。

 個人的にこのジェンダーギャップなるキーワード、またはジェンダーギャップ指数なる指標と決別するタイミングが近々到来しつつあるのではないかとの機運の高まりを感じながら昨年末に筆を取り、年が明けました2021年新春、再び皆様のお目を拝借したい次第でございます。

本noteの目的

 前置きが長くなりましたが、このnoteで得られる情報・知見は下記の通りです。

ジェンダーギャップなるキーワード、並びにジェンダーギャップ指数がジェンダー論を議論する上での指標に相応しくない事を論考し、決別を提案いたします。

 注意事項としまして、ハフポスト様の見解を何ら否定するものではなく、ジェンダーギャップ指数121位の日本は男女差別がまかり通る地獄である、とご主張される方の翻意を促したり、期待するものでもございません。

あくまでも”私個人の視点ではこう見えています”との主張の元、ご賛同頂ける皆様と情報を分かち合い、分析をしようと言う主旨でございます。それでは、今回も長旅にお付き合い頂けましたら幸いです。

※例によって例のごとく、名前が大変長いのでジェンダーギャップ指数をGGI、ジェンダーギャップ指数レポートをGGGR(=Global Gender Gap Report )と呼び、断りのない限り2020年版を基準に話を進めます。


1. 国会議員の女性比率35%でGGIはどう変化するか?

 局所的な題材から入りますが、冒頭の記事のように国会議員の女性比率を35%にすると、2020年版GGGRでは、果たして日本は何位に順位を上げる事が出来たのか?をシミュレートしてみます。

シミュレートは非常に簡単で、現在のスコア0.112を0.350に入れ替えるだけです。

図では赤が現在のジェンダーギャップ指数総合121位・政治的権限部門144位の詳細で国会議員の女性比率が0.112、青がこれを0.350にした場合のシミュレート結果です。

まずGGGRからサブインデックスのスコア0.350の上下を見やりますと、56位のベトナム=0.365と、57位のブルガリア=0.348が目に入ります。従って0.350ならブルガリアに変わって57位になりそうです。新しいスコアを元に、定められたスコアウェイト(GGGR/P.48)を掛けるとメインインデックスのスコア0.122が算出されます。

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0.122は政治的権限部門では111位となり、他の3部門=経済部門における参画度(0.598)、教育達成度(0.983)、健康と生存(0.979)と合わせて総合しますとGGIが0.671=109位と上昇しました・・・この結果(総合121位から109位)に満足出来ましたでしょうか?また、これは狙い通りの結果だったでしょうか?

いいえ、かなり物足りませんよね?

今年2020年の目標で女性比率30%は確かに達成出来ませんでした。しかし恐らく、2025年に女性比率35%を達成したとしても、GGIの大幅上昇は望めず、また同じ事の繰り返しで2025年版:日本のジェンダーギャップ、グラフでみたらこんなに遅れていたが再び記事にされるだけ、未だジェンダーギャップ109位のヘルジャパンがどうたらこうたらと揶揄される繰り返しではないでしょうか?

2. 女性議員数を増やすだけでは大きな上昇は望めない

 前回のnoteからのおさらいになりますが、GGGRの政治的権限部門において、日本が不利な状況にある点をサブインデックスに着目しながら簡単に列挙します。

■過去50年で国会代表を務めた年数
・議会制民主主義の日本では、国家代表が国会議員の中から選出される
⇒大統領を直接選挙で選出する国家のように女性の国家代表が生まれにくい

■閣僚中の女性の割合
・国家代表の選出に派閥の存在が不可欠だが、大きな女性派閥がない
⇒国家代表選出のキャスティングボードを握らない限りは閣僚に選出され難い
⇒直接選挙で女性が国家代表に選ばれた国家では、女性閣僚が選出されやすく尚更スコアに反映される傾向がある

・・・と、ここまでがおさらいとなります。

■極端に増やしてみる
 女性議員の割合が増えれば、閣僚や女性総理大臣が生まれ易くなるのか、もう少し考察してみましょう。例えば前章1を例に、主に野党側の女性国会議員が増えて35%を達成したケースを想定してみます(この場合、野党議員の殆どが女性に変わります)。

内閣総理大臣が確定し、新たに組閣する際、果たして野党内から閣僚が選出されるでしょうか?システム上は可能であっても常識的に考えられません。つまり、野党側の女性国会議員が大幅に増えて全体で35%を達成しても女性閣僚は増えないのです。

同じ事を言い換えるなら、日本の政治形態上、与党の女性国会議員比率が上がらない限りは女性閣僚は増えないし、総理大臣も生まれないとなります。

従って言わずもがな、与野党全体で35%を達成したとしても、女性閣僚が劇的に増えるような話しにはなりません。

ならば極端に、男女比率を50:50にしてみるとどうでしょうか?

今度は先程と同じ手法を用いて国会議員の女性比率をGGI1位(=Score 1.000、女性比率50%以上)になったケースをシミュレートしてみます(国会議員の半分が女性であれば流石に閣僚も増えるでしょうが、シミュレーションという事で閣僚については同じ数値を採用させて頂きます)。

結果は下記の通りで国家議員の男女比率が50:50になったケースでさえも、総合順位では101位に上昇するに留まってしまいます。

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女性比率11%=121位
女性比率35%=109位
女性比率50%=101位

この結果を見れば、ただ単に国会議員の女性比率を上げただけではジェンダーギャップ指数の上昇に殆ど寄与しない事がお分かり頂けると思います。また、与野党平均的に女性議員比率が増えたとしても、大きい派閥に属さない限りは女性閣僚数は増大しないでしょう。

従いまして、もし”GGIの格付け方針に真正面から向き合うならば”と言う仮定の話しをすると、こうなるのではないでしょうか。

ー直ちに女性総理大臣が生まれないとしても女性総理大臣を選出すべく与党女性議員が派閥を形成し、その数の力で総理大臣選出のキャスティングボードを握る事で始めて女性閣僚が増え始める。また女性閣僚が増える事で国会議員になりたい女性が増え、より有能な人材が集まり、また派閥が大きくなり女性閣僚が増える。

この上昇スパイラルを発生させる事こそがGGIを上昇させる為の正攻法であり、数字合わせの為に女性議員を増やしても高順位(50位以内、30以内等)にはならない。

と、私は考えます。

3. 目的と手段

 日本のニュースサイトや著名人等がGGGRを持ち出して121位だ、是正すべきだと主張され、それに呼応するように政策方針を決定する。しかし一歩下がった所から見れば、GGIを上昇させるのが目的なのか、弱者たる女性の就労環境やワークライフバランスを改善させるのが目的なのかが曖昧で、寧ろGGIを上昇させる事が目的のようにも見えてきます。

そもそも”ジェンダーギャップがあります⇒是正しましょう”の流れが辿り着く目的地はどこにあるのでしょうか?

日本のような議会制民主主義を採用する国家においては、とある国会議員が男性であっても女性からの支持が大半を占め、その応援を以って当選したならば女性の声は反映されるでしょう。しかし逆に当選した女性国会議員の支持層の多くが男性であるならば国会議員としては彼らの声に応えねばなりません。

代議士なる職業は国民の付託を得て代表し、代弁するものですから、国会議員に当選したからには掲げた選挙公約を実行せねばなりませんし、行動が伴わなければ次回の選挙戦は危うくなりましょう(現実問題、マニフェスト選挙と呼ばれた2003年の衆議院議員選挙以降、マニフェスト・公約は形骸化してはいますけれども)。従いまして、

女性の声を国政に反映させる為に女性議員の比率を上げる事はマストではないのです

先の2例のシミュレーション結果が示すように、2025年に女性比率35%を目指す目的は単なる数字合わせにしかなりません。多少言い過ぎますけれども、GGIが改善されましたから、ジェンダーギャップは解消しましたよね、と言う既成事実を作るだけの成果しかなく、目的と手段が入れ替わっているのではないかと懸念を抱かれるのは当然だと思います。

仮に、よしんば女性総理大臣が生まれた4年後にGGIが猛烈に上昇したとしても(過去50年中、4年間が女性代表)、男性国会議員が多数派を占める派閥から支持を受けたのであれば選ばれる閣僚は男性中心になりましょうし、またその男性国会議員の支持者の大半が男性であれば、弱者たる女性の環境が劇的に変化する法整備や法改正、予算の獲得を期待しても望みは希薄です。

今一度問いましょう。みなさんの目的地は、女性の就労環境やワークライフバランスが改善された日本ですか?それともGGGRでスコアや順位が上昇した日本ですか?

4. 起業意欲・昇進意欲・国政への意欲

 前回のnoteにて、女性が起業をして社長や役員となる事に関心が薄い事、また国会議員職への関心が薄い事をいくつかの資料と共に指摘しました。今回はもう一つ、ITmediaビジネスONLINE様より女性の昇進意欲を左右する基幹的職務経験の記事を引用し、女性の昇進意欲について触れてみます。

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こちらも図表を見れば一目瞭然ですが、管理職への昇進希望意欲、または現在より高い地位への欲求が男性の方が顕著に高い事が読み取れます。

起業意欲については、女性起業家に対して政府より支援金が拠出されたものの、20年来に渡り起業の欲求の高まりは見られませんでした。また国会議員についても議員職への就労意識は高まらず、さらには同性である女性が立候補していても、女性立候補者と言うだけでは投票行動に繋がっていません。

それでは、女性は労働意欲がないと言うことでしょうか?いいえ違います。

下記の男女共同参画局のデータによれば、 女性の就業率の上昇は明らかです。共働き世帯が増えた背景も忘れてはなりませんが、女性が男性に比べて労働意欲が低い訳ではありません。現役世代の女性は妊娠・出産・子育てと言う就労要件からはマイナスの要素がありながらも7割を超える女性が就労しているのです。

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先のnoteでの指摘も含め、

・自ら進んで起業して社長や役員になろうとしていない
・昇進欲求が男性に比べると低い
・国会議員を目指す女性が少ない

と言う事実があるにせよ、これは男女それぞれのライフスタイルの違い、選択の違いによる結果でしかありません。多くの女性が女性自身で数十年に渡り選択し、推移した結果が今見えているのです。従ってこれらを総括するなら

多くの女性の幸福像が、企業の社長や役員、国会議員にない、と考える方が自然です(個別になりたいと思う方は当然いらっしゃるでしょう)。

にも関わらず、根拠なく男女比率の目標値を設定し、増やそうとして増える訳がありません。2020年、国会議員の女性比率が目標の30%に届かなかった・・・政府の広報が足りなかった?それとも女性が差別されているから?なぜだ?!

単純に、それを目標にする女性が少ないからです

全ての女性に問うてください。あなたが望む幸福像はどこにありますか?企業の役員や管理職になる事ですか?国会議員になる事ですか?GGGRで上位国になる事でしたか?

5. 管理職になれなかったもう一つの理由

 日本は戦後目覚ましい復興を遂げたもののバブル崩壊後の経済、特に労働者の賃金面では低迷の一途を辿っています。その最中、多くの中小企業が廃業・閉業に追い込まれましたが、管理職や役員の女性の割合が低いのは、女性の昇進意欲・起業意欲がないからだけではありません。ここではその一例を紹介したいと思います。

戦後復興と言えば土木工事や大型公共事業を思い起こしますが、末端の現場で労働したのは誰だったでしょうか?男性ですね。なぜ女性はいなかったのでしょうか?

1つ目には単純にパワーやスタミナが違います。体力自慢の女性と運動の苦手な男性を比べたなら一人づつの差は小さいかもしれませんが、男性100人と女性100人の作業効率は比べ物になりません。

2つ目に労働環境の過酷さが上げられます。女性専用トイレもなく、現場に建てられた仮設住宅で就寝を共にしなければなりません。これらは後に3K労働(=きつい・汚い・危険)とマスコミに揶揄される事になりますが、当時は女性を安易に受け入れられる環境ではありませんでした。

3つ目は過去軍隊がそうであったように、ほぼ100%男性しかいない労働環境に女性を加えるとどうなるかは予想がつくでしょう。例えば湿地帯を一日中行軍する。女性隊員はついて来れるのか?置いていくのか?何とか野営地まで辿り着たとして意識の高い男性ならまだしも、それが10人、20人となるとどうか?極限状態の中で女性を狙う隊員はいないのか?悪い予感しかしません。規律が乱れた部隊を待つのは敗北と死です。

女・子供はすっこんでいろ!

昔の大工さん、特に棟梁が、女性や子どもに対して言い放った言葉です。この言葉を耳にして気持ちの良い女性や子どもはいないでしょう。怒るのも無理はありません。

しかし、こうも考えられます。大工さんの現場には、刃物が沢山あり、木っ端が飛び交い、高い所から木材が落ちてくるかもしれません。大工さんの事故としては、指が飛んだ、木っ端が目に刺さって失明した、顔に傷がついた、高い所から落ちて骨折した、高い所から何かが落ちてきた、柱や壁が倒れて下敷きになった・・・等が考えられますが、これを子どもや女性に味わって欲しくないと言う優しさが見えてきませんか?

優しく説明した事で却って懐いてしまったり、度々現場に遊びにくるようになっては大変です。それを一喝して二度と近づかないようにする。それが棟梁=管理者の役割だったとしたら・・・

そしてこの優しさは、日本の3K労働の殆どに浸透していたように思います。トンネル工事、炭鉱掘削、ダム工事、河川工事、鉄道の整備、電線・電柱、水道管、下水管、ガス管、道路の舗装、砕石現場、林業、鉄鋼業、造船、製造業・・・

生活の根幹を支えるこれらの労働の多くは男性が担い、作業中の事故により多くの犠牲者を出してきた歴史があります。長年に渡って携わった事で手は肥大し、手指間接は変形し、タールや鉄粉が染み付き、肌は日焼けで荒れました。

男性ですら途中で逃げ出したり、ヒロポン(覚醒剤)に手を出したり、また弱い男性が強い男性にレイプされる事もありました。

そんな現場に女性は相応しくないと考えた日本の社会は、女性に冷たくしたのでしょうか?

次に、こうしたほぼ男性オンリーの労働環境で新たな管理者を選出してみましょう。一癖も二癖もあり、口煩く、酒と女が好きそうな荒くれ連中をまとめ上げる管理者。現場のイロハを知っていて、彼らの心理を理解して上げられる管理者。

あなたが社長なら、この現場の中から男性を選出しますか?それとも、現場の外から男性を充てがいますか?それとも、女性を抜擢しますか?

もうお分かりだと思います。学歴や資格、論文等で抜擢を可能とする大企業は当てはまらないでしょうが、中小企業では現場や段取りを知らない、下積みのない女性を抜擢して管理職や役員には出来なかったんですね。

現場の末端の労働者のリーダー、またはそのリーダーをまとめる管理者。この役割を、外部の男性を招聘するのも難しい所へ、女性を選ぶと言うのは尚更考えにくかったのです。

近年、女性の管理職や役員が少ないと批判の声があがります。しかし私は、前章4を含めて、女性自身がその立場を望んでいない事、そして本章の日本の復興の歴史上の側面から推察するに、女性差別が根底にあるが故に女性管理職や役員が少ないとは思えないのです。

もちろん、個別の事例として現代社会で女性差別やパワーハラスメントがあり昇進出来ない事案があるのは事実ではありましょう。しかし理由の大半を占めるとは思いません。

6. 女性労働者の受け入れとGGI

 3K労働、力仕事や体力勝負、高効率化が求められる中小企業において女性が下積みをする場がなく、下積みが出来ない故に管理職にもなれないと言う一面を紹介しましたが、GGGRのメインインデックス「経済部門における参画度と機会」で日本よりGGIで優れるアメリカやカナダでは女性を積極的に雇用しようと言う動きが既に始まっており、サブインデックス「労働力の男女比」のスコア上昇に一役買っています。

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背景としてはアメリカやカナダでは低用量ピルが日本に比べて圧倒的に入手しやすい事もありましょう。生理痛の緩和が女性全体の生産性の上昇に寄与する事は兼ねてから指摘されていた通りです。

少々話が逸れますが、低用量ピルによる生理痛の緩和や生理周期コントロールが日本では遅れ、オリンピックに出場するような一流アスリートですら海外選手の本番に向けた調整に驚いていた、と言う話題がニュースになったのはつい数年前の話です。この分野での日本の立場は決して褒められたものではないので、早々に指針を決めて性教育分野に裾野を広げる事が望まれます。

さて話を労働部門に戻しますと、アメリカやカナダでは女性を肉体労働者としてチームに組み入れる非効率化やサブメンバーの冗長化を社会として受け入れようとしているようも見えます。前章5でも触れたように、過酷な労働環境に女性を組み入れる事はすなわち作業を非効率化させます。それでも尚、受け入れようとしているのです。

スポーツ界に目を向けますと、女子のプロスポーツであっても男子の大学生~高校生と同レベル、または男子高校生相手に全く歯が立たないと言う男女のフィジカルの差が顕著にある中、一企業がそれを受け入れるならば、受け入れない企業に対しては圧倒的に戦力で劣り競争力を失う事になり兼ねません。それを政府や社会が道筋を立てて支援しようと言うのです。

所謂3K労働に女性が参画し、女性比率を上げる。女性専用の休憩所や更衣室、トイレを設ける等の設備投資を行い、女性が体調不良や妊娠・出産により労働出来ない場合に備えてバックアップ要員を確保する。こうすれば女性も道路のメンテナンスや土木工事に安心して従事できるでしょう。

しかし忘れてはならない要確認事項があります。

日本の女性の大多数は、肉体労働に参画してまでGGIを上げたいのでしょうか?男性と一緒に肩を並べて汗を流し、埃まみれになる事を望んでいますか?

7. エッセンシャルワーカーと女性就業比率

 遠からず、日本は戦後100年の節目を迎えます。第一次産業・第二次産業が占める割合が減少し、三次産業が急拡大する現代では昔のようにフィジカルを必要としない仕事が増加しています。

さらにはコロナ禍によって一昔前までは聞いたこともなかったリモートワークなる労働形態すら身近になり、ジェンダーフリーな労働環境が益々成長を見せています。次の国勢調査が示す通りですが、食料調達先をアウトソーシングに頼る我が国では第一次産業は徐々に衰退し、付加価値の高いサービス業が躍進、中でも女性の第三次産業就業率は眼を見張るものがあります。

男女,産業(3部門)別 15 歳以上就業者数及び割合の推移(PDF/P.161)

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そうした背景の中、昨今注目されるようになったのがエッセンシャルワーカーなるワードです。直訳的に不可欠な労働者を意味し、高齢化社会を支える労働力として一気に拡大した医療・介護部門はコロナ禍によりさらに注目されています。また通信販売や出前業務などの増加など運輸部門が間接的に労働力が求められるようになりました。

さて下記の表は日本政策金融公庫論集第23号(2014年5月)女性起業家の実像と意義(PDF/P.35)からの引用です。男女による開業傾向の違いを示すものですが、女性は男性に比べ、個人向けサービス業、医療・福祉、飲食店・宿泊業での起業が目立つ傾向があります。

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つまり、前章4、5と合わせて男女の嗜好の違い、ワークライフバランスの違いを考慮するならば、

女性は昇進や起業で代表者や役員になったり、国会議員になる事に男性よりもネガティブであるが、現在エッセンシャルワークとして取り沙汰される業種についてはポジティブである

と言う傾向を見出す事が出来ます(もちろんこれは全ての女性に当てはまる事を意味しません)。

繰り返しになりますが、男女参画社会において女性が男性と肩を並べて肉体労働をする事が望ましいか、はたまた望みもしない昇進で管理職になる事や会社役員になる事を多くの女性が希望しているのか、国会議員になる為に現在の地位を捨てて立候補する事が望みなのかを徹底的に分析する必要があるでしょう。

これらを精査し、方向性を見定めて政策や予算を決定する事こそが多くの女性のワークライフバランスを整える解決策であると私は確信しています。そして多くの女性が幸せであると感じる社会になったのであれば、GGGRのスコアや順位に一喜一憂する必要はないのです

また、前章2~5まで話題が遡りますが、こうして多くの女性が第三次産業、中でもエッセンシャルワークを中心としたサービス業で下積みをし、リーダーや管理者となれば自然と役員や代表者の増加も期待できます。

他にもコンピュータが一般化した現代ならソフトウェア開発やWebデザイン、Webプログラミング、CAD・CAMを使った製造業も、男女のフィジカル差は無関係です。その結果、女性代表者同士で大きな政治組織の応援も可能となり将来的にはその組織の付託を得た国会議員が生まれ、さらに女性がエンパワーメントされる環境が整っていく・・・

これが女性労働者が望む、女性の為の国会議員として、女性から応援されるのではないかと私は考えます。

数合わせの為に女性立候補者を増やしても、女性候補だと言うだけで票を得られる程、女性有権者は愚かではないのは、過去の選挙戦において既に証明されています。

8. 結論ーGGGRとの決別を提案します

 社会変革は一朝一夕では成し得ません。今現在の強固な社会システムがそうであるように、長い時間を掛けて環境に応じて少しづつ緩やかに変化し、アップデートされ、最適化された歴史の積み重ねが今現在の日本を作り上げているからです。簡単には変わりませんし、変わらないし、変えられないのです。

確かにこれまでは男性中心の社会であったでしょう。しかしそれは戦後復興の中で致し方のない選択だった一面もあったように思います。前章7でまとめたように労働力と政治への影響力はリンクしており、現在の日本が政治・経済の両部門において男性社会なのは、労働力の多くを男性に依存している裏返しでもあります

では今後はどうか?戦争に巻き込まれるリスクは限りなく低く平和な社会生活を営める日本では、多くの女性が望むのであれば、女性も男性と等しく平等な経済活動を営める社会が到来する可能性があります。将来的に女性の総合労働力が男性の総合労働力と拮抗するならば、影響力も同等に無視できなくなるからです。

しかし、その方法が男性社会を真似、労働環境や国会議員の男女比率をイーブンにし、数を整える事や肉体労働に参画する事、すなわちGGGRで上位国となる事が、女性も含めた社会全体を幸福に導くでしょうか?否である、と言うのが本noteでの結論となります。

 前回と今回のnoteで再三指摘したように女性国会議員の比率をいくら上げようとも、現在の政治方式の日本がGGGRで上位に食い込む事はほぼ不可能です。さらに、GGGRの上位進出にこだわって数値を上げようとすれば、大多数の女性が望まない労働環境を構築してしまう懸念が発生します。

さらにはGGGRの採点方式には疑問点が多く、スコア0.001と言う微差でも猛烈に順位が下がります。順位の良し悪しが女性が社会的に不利であり差別されている事を何ら裏付けません。これまで何度も言及してきたように、GGGRは女性の幸福度を客観的に図る指標として相応しくありません。これらを詳らかに分析したならば、

GGGRとの決別こそが多くの女性のワークライフバランスをより良いものにし、より多くの女性を幸福に導く第一歩である

との結論に多くの方が自然と到達すると私は信じております。

 以上になりますが、前回のnoteも含めまして皆様の叩き台となり、論考、分析の材料の一つとして少しでも機能したならば幸いでございます。この度も最後までお付き合い頂きありがとうございました。

出典

World Economic Forum:Global Gender Gap Report 2020
ハフポスト:日本のジェンダーギャップ、グラフでみたらこんなに遅れていた
ハフポスト:「すごく昭和感」 岸田文雄氏が投稿した夫婦写真への強烈な違和感、理由を考えてみた
ITmediaオンライン:女性の昇進意欲を左右する基幹的職務経験 (1/6)
男女共同参画局:就業率の推移(昭和61年~平成28年)
平成22年国勢調査:男女,産業(3部門)別 15 歳以上就業者数及び割合の推移(PDF/P.161)
日本生活習慣病予防協会:女性の健康の支援が置き去りに 働く女性の病気で年間6兆円の損失
予防会:避妊効果だけではない低用量ピルの利点
日本政策金融公庫論集第23号(2014年5月)女性起業家の実像と意義
(PDF/P.35)

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