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ジェンダーギャップ指数:アイスランド12年連続1位の強さの秘密に迫る

はじめに

 ジェンダーギャップ指数レポート2021年版の発表されました。まずはアイスランド12年連続の1位獲得おめでとうございます。

これまでのnoteでは主になぜ日本の順位が低迷しているのか?の視点からジェンダーギャップ指数の算出方式の誤謬や瑕疵について論考して参りましたが、今回は12年連続で1位に君臨するアイスランドの強さの秘密はどこにあるのか?と言う視点からジェンダーギャップ指数をさらに掘り下げます。

アイスランドを含め、ジェンダーギャップ指数で毎年上位を独占する北欧諸国が上位に居続けられる理由が分かれば、日本を含め毎年下位に沈む国々が上位に浮上する為のヒントや、それを真似るべきかどうか、目標とすべきかどうかの判断材料になるかもしれません。

また同時に、それらを紐解く過程で可視化されるジェンダーギャップ指数の不公正さに着目し、改めて世界の男女格差を比較するには適さない指数であるとの結論に導きます。

本noteの目的

 1つ目に、アイスランド12年連続1位の強さの秘密と題してジェンダーギャップ指数レポートの算出システムをこれまで以上に掘り下げます。

 2つ目に、スコア算出方法の不公正さを指摘し、本指数がジェンダー格差を測る為には不適当である、男女格差や幸福度を示すエビデンスにはなり得ないとの結論に導きます。

本論に入る前にお断り申し上げたいのは、ジェンダーギャップ指数レポートが不誠実なだけで、アイスランドには何の否もありません。またアイスランドが1位でなくとも、その政策や労働実態についてネガティブに評価を変える必要もありません。

 もし本noteが「拙稿の中で初めて読むnoteだ」と言う方は、本文に入る前に下記のnoteにお目通し下さると、よりジェンダーギャップ指数レポートについての知識が深まるかと存じます。

1作目はジェンダーギャップ指数レポートの性質をまとめたもの、2作目は指数の中でも順位が低い経済部門・政治部門についてシミュレーションを交えてや私感をまとめたものになっています。

※例によって例のごとく、名前が大変長いのでジェンダーギャップ指数をGGI、ジェンダーギャップ指数レポートをGGGR(=Global Gender Gap Report )と呼び、断りのない限り2020年版を基準に話を進めます。

※本稿執筆中では2021年版が発表されておりませんので2020年までのデータを使用しています。

1. アイスランドの強さ①

 結論から申しますと二元主義型議院内閣制は一元主義型議院内閣制に比べて非常に有利にスコアを得られます。資料が無駄に長いので巻末にまとめて置いておきました(目次からもジャンプできます)。詳しく知りたい方、本当かどうかエビデンスを確認したい方はご覧ください。不要な方はこのまま読み進めて頂いて結構です。

ー「二元主義型議院内閣制」とは
 
共和制国家に多く見られる議会形態で、大統領と首相の両者に国家代表の役割が与えられています。日本は国家代表が内閣総理大臣一人ですから一元主義型議院内閣制ですね。

アイスランドは二元主義型議院内閣制で大統領と首相がそれぞれ存在し政治的権限が与えられていますので両者の任期がカウントされるようです。GGIではどのようにスコアリングされているか確認してみましょう。

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上記の表は政治部門のサブインデックス、直近50年間で国家代表を務めた女男割合を示しています(female + male ≒ 50)。上図の赤いゾーン(female)と、赤いゾーンのスコアを分解した最右列の赤文字にご着目ください。

female = President + Prime Minister」となります※1。

そして現在公開中のGGGR2020では大統領16.0年+首相5.9年=合計21.9年・・・

あれ?何かおかしいですね?

ー一主義型と二元主義型の算出方式の違い

 下記の図を見ながら話を進めましょう。

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まずfig.1の一元主義型議院内閣制に着目しますと、仮に過去4年間の女性大統領が存在した国家のスコアは4÷(50ー4)=4÷46=0.086となります。女性大統領が合計で25年間を務めたならば25÷(50ー25)=25÷25=1.000です※2。

単純に女性25年:男性25年の合計50年で1:1ですからスコアが1.000と考えて頂いても結構です。

次にfig.2をご覧ください。fig.1に倣って、大統領・首相それぞれが25年づつ任期を務めたケースを想定するならば、(1.000+1.000)÷2=1.000が採用さていると考えるのが自然です。これならば一元主義型でも二元主義型でも平等にスコアリングされているといえるでしょう。

ところが実際に採用さている算出方式はfig.3でした。ヴィグディス・フィンボガドゥティル大統領が16年を務め、5.9年を2名の女性首相が努めて任期合計が21.9年になっています。2020年のスコアはGGGR2020に記載の通り、21.9÷(50ー21.9)=21.9÷28.1=0.779です。

fig.3を採用してしまうと、大統領・首相それぞれが過去に12.5年づつ務めれば、(12.5+12.5)÷(50-12.5+12.5)=25÷25=1.000となりますから、25年間に渡って大統領か首相を女性が務めなければ1.000にならない一元主義型の国家は二元主義型の国家に比べて相当な不利を強いられる事になります。男性首相の任期はどこへ消失してしまったのでしょうか?

今一度fig.2の計算方式に立ち戻りアイスランドの2020年を再計算してみましょう。16÷(50-16)=0.470、6.9÷(50-6.9)=0.160となり、(0.470+0.160)÷2=0.315と算出されました。

0.315(fig.2)か0.779(fig.3)か。公平な算出方式として採択されるべきはどちらでしょうか?この算出システムを利用するならば、アイスランドは近い将来、GGGR2024で女性25年:男性25年の1.000を獲得してしまいますがこれは公平な比較ですか?

ーまとめ:アイスランドの強さ①

 アイスランドの1つ目の強さは「二元主義型議院内閣制」を採用する国家体制にあります。GGIは大統領と首相の任期を不合理に二重カウントするシステムであり、アイスランドはその恩恵を強く受けています。

 これまでをまとめますと、アイスランドに限らず二元主義型議員内閣制を採用する共和国や王国系の国家がGGGRでは高順位になる傾向が見えてきます。またこのサブインデックスは他のサブインデックスと比べてスコア係数(=Weight)が高く設定されておりますので尚更有利です。

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国会議員の女男比=0.310、閣僚の女男比=0.247、過去50年の国会代表の女男比=0.443と、政治的権限の有無インデックスにおいて国家代表を女性が務めた年数のスコアがより重要である事が分かります。

GGIを上げようとして女性国会議員の比率上昇や女性閣僚比率の上昇を掲げても、シミュレーション上では全体の順位が思った程上がらないのはこの為です。拙稿ジェンダーギャップ指数レポートとの決別に詳細がありますが、国会議員の女男比率を50:50のスコア1.000にしても、総合順位は121位から101位へ、全体のスコアは僅かに0.029ポイントしか上昇しません。

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日本は現在の政治体制では女性首相の誕生は考えにくいので、いつまで経ってもゼロが続き、一方共和国や王国は女性大統領や女性首相でダブルでスコアを稼ぐ事が可能。日本はGGIの順位を上げる事が尚更難しいのです。

参考までにGGGR2020政治権限の有無部門トップ20位を見てみましょう。

試しに正式な国名を読み上げてみてください。アイスランド共和国、ノルウェー王国、ニカラグア共和国、ルワンダ共和国、フィンランド共和国、コスタリカ共和国、バングラデシュ人民共和国・・・そして、なぜその中でもアイスランドが突出して強いか、もうお分かりですね?※3

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2. アイスランドの強さ②

 次にアイスランドが徹底した女尊男卑、女性優遇社会にある点をご紹介します・・・と言っても、後ほど説明を加えますのでこの段落に目を通される方は誤解を避ける為に最後までお読み下さるようお願い申し上げます。

GGGR2020よりアイスランドのスコアカードをご確認ください。

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まず上図の専門職・技術職の女男比サブインデックスから女性55.6:男性44.4と言う女尊男卑、男性冷遇ぶりがご確認いただけるでしょう。また下の高等教育の就学率女男比(ここで言う高等教育とは大学以上を指します)サブインデックスでは、就学率が衝撃の女性94.4:男性50.6となっています。

それにも関わらず、両方のスコアが1.000で順位は1位。何かの間違い?著者が画像を加工した?信じられない?いいえ、何も間違ってはいません。

-ジェンダーギャップ指数をおさらい

 GGGRはとにかく良く勘違いされ、知ってか知らでかミスリードに用いられる指数です。しかし恐らく、この指数を安易に用いてしまう方の多くが男女格差を測る指数であると信じて疑わないのです。

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内閣府のホームページから、GGIとはどういう指数か?の説明を引用します。

経済、教育、保健、政治の各分野毎に各使用データをウェイト付けして総合値を算出。その分野毎総合値を単純平均してジェンダー・ギャップ指数を算出。0が完全不平等、1が完全平等。“

これでは一般の方が誤解したままでも仕方がありません。

しかしこのアイスランドの指数をご覧の通り、GGIは女性≧男性で満点(1.000)以上が与えられる指数なのです。以下にイメージ図を示します。

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恐らく、多くの方は上図の上段一般的な男女格差のイメージ(1)のようなイメージをお持ちだと思いますし、内閣府の説明もそれに準じています。女性か男性のどちらかが厚遇・冷遇されて天秤が傾き、不均衡が生じればスコアが下がるものであると。

しかし実際は下段が採用されており、女性が僅かでも男性の立場より冷遇されるとスコア・順位が下がるものの、男性はいくら冷遇されていても1.000の満点が与えられるシステムなのです。

別図で繰り返します。下図上段一般的な男女格差のイメージ(2)のように、1.000を中心に男性・女性のどちらか一方に偏るほどにスコアが下がって0に近づき、それに比例してランクも下がると思われるのが男女格差を天秤に載せる上での一般的なイメージでしょう。

しかし違います。GGIの算出方式はどんなに女性が優位でも1.000以上とカウントされるシステムなのです(下図下段)。

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もうひとつ忘れてはならないのは、1.000以上は小数点以下が切り捨てられて満点になるので同スコアで1位の国が多数発生してしまうのもGGIの特徴です(健康寿命サブインデックスのみ切り捨てられずに比較されます)。

こうして多くの国が1.000とスコアリングされる中、0.001ポイント差の0.999点の国は2位ではなく100位以下にランキングされてしまう事もあります。例えば女性49:男性51の一見微差に見える国もスコアにすると0.960となり、大幅に順位を落としてしまうのです。しつこいようですが、男女逆で女性51:男性49の場合は1.000(1.040)の満点です。

もしかしたら、アイスランドだけ特別扱いされているかもしれませんので、GGI上位5国の専門職・技術職の女男比と、高等教育就学率の女男比のサブインデックスをピックアップしてみました。

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総合21位のイギリスは、専門職・技術職の割合のサブインデックスでは71位のスコア0.990、女男比49.8:50.3です。スコア1.000の70ヵ国が女性≧男性の構図でどんなに女性が優位(=男性が不利)になっていても1.000を獲得し、イギリスは僅かに男性が優位で実質2位とも言えるのですが、順位は71位にされてしまいます。

そしてもしGGIが1.000を基点とした不均衡を示す天秤なら、±0.010=イギリスが1位のはずですが、そうはなっていません。

次に、高等教育(大学以上)就学率の女男比を見てみましょう。

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特にGGGR121位を金科玉条の如く持ち出す方々が大好きなアイスランド・ノルウェー・フィンランド・スウェーデンの男性の就学率が顕著に低い事が分かります。女男比だけ見れば明らかな男性冷遇社会です。しかし、スコアは1.000なんです。

さらにサブインデックス106位のブータン(総合131位)に着目してください。1.000のスコアの国が105ヵ国あり、ブータンは0.992の高スコアで実質2位ながら106位となっています。

そして先程の専門職・技術職のスコアと同様、1.000を基点とした天秤なら、f/m比±0.006のブータンが1位のはずですが、やはりそうではありませんね。これがGGIの正体です(女男比が逆で、女性15.6:男性15.5なら、もちろん1.000で1位にランクインします)。

蛇足になりますが、サブインデックス1位のニカラグアは女性が全体の18.4%しか就学しておらず、高スコアだと取り上げたブータンに至っては15.5%しか就学していない事に気が付きます。

日本はこのサブインデックスでスコア0.952の108位です。大学進学率で男女共に55%を超える日本が、これらの国々よりも下位にランキングされる指数を基準に用い、ニカラグアやブータンの何を参考にして上位を目指せば良いのでしょうか?

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下記はGGGR2020の教育部門インデックスの中等教育進学率サブインデックスです。やはり同じように103ヵ国が1.000のスコアで上位層を陣取ります。そしてそこから0.001~0.005ポイント刻みで104位以下を争うのです。

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1000点満のテストで953点とスコアリングされながら「日本は128位で下から数えた方が早い後進国」と揶揄されるのが妥当ではないのは明らかです。

999点のリトアニアに対してスコアを無視し「なんて酷い順位かしら?104位なんて恥ずかしい!」と言い放つ人が居たならば「それは違いますよ」と諌めたくなりませんか?

-アイスランドを再確認

 おさらいが長くなりましが、改めてアイスランドのスコアカードを確認してみましょう。

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専門職・技術職の女男比=女性55.6:男性44.4
高等教育の就学率女男比=女性94.4:男性50.6

著しく女性厚遇=男性冷遇の比率であったとしても、満点の1.000が与えられていますね。集計ミスではありません。

最早疑う余地もありません。男女格差と言うキーワードは一般的に男女不平等=男女のいずれかの性別が不利益を被っている状態を指すでしょうがGGIは女性が如何に男性よりも優位であるかを測り、国別に比較した指数なのです。

ーアイスランドは女尊男卑社会か?

 ではアイスランドは男性が生き抜くのが難しい社会でしょうか?答えはNoです。アイスランドは人口36万人ながら、水産物の漁獲量は日本の1/3にも登ります。

人口比で日本の1/340の国家が、日本の漁獲量の1/3を稼ぎ出す漁業国家なのです(日本の都道府県で最も人口の少ない鳥取県が57万人、東京都北区の人口が35万人です)。

つまり、1人あたりに換算すると「日本の100倍以上の漁獲量」という事になります。物価や為替の違いもあるので単純に比較が出来ないとは言え差は歴然です。今の日本で、仮に漁業事業の稼ぎが控えめに見積もって10倍となるならば、漁師を目指す人が増え、その周辺の経済状況が上向くのは間違いないでしょう。

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世界の水産物の漁獲量・生産量 国別ランキング・推移より引用

従って男性の大学就学率は低いのですが、漁業や水産物加工業等関連する職業につけば高給が(ある程度)約束されるのでQOLは下がらず、またこうして男性が危険な仕事に集中する事で多くの女性が大学に進学し、自ずと専門職・技術職に就く割合も増え、GGIで1.000以上のスコアを獲得する事に繋がっているのです。

さらには、このような分業体制なので女性のSTEM教育も進んでいます。OECD加盟国(2017年)でアイスランドの女性比率は平均以上の28%、日本は平均を大きく下回り19%となっています(STEM教育の男女比はGGIの構成要件には含まれていません)。

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OECD Education:How many students study STEM ?より引用

こうしてアイスランドの女性は水産加工業の管理者や会計業に携わったり理系の知識を生かしてIT業務に就き、経営者となることでQOL、ワークライフバランスは向上します。また大卒者は女性が圧倒的多数の為、国会議員や首相になる人材も豊富でGGIの政治部門で無類の強さを発揮するのです(アイスランドの強さ①で指摘したGGIの不公正な算出方式を差し引いても尚強いと評価出来ます)。

ここでアイスランドの1人当たり名目GDPを確認してみましょう。日本と比較して好成績なのは言うまでもありません(人口規模が全く違うので、あくまで参考程度にどうぞ)。

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世界の1人当たり名目GDP 国別ランキング・推移(IMF)より

ーまとめ:アイスランドの強さ②

 アイスランドの2つ目の強さは、男女の働き方=役割分担がGGIの算出システムとマッチして高得点が出やすからです。

 従いましてアイスランドは女尊男卑社会か?は端的にNo。しかしその男女の就学や労働、その役割分担を含めたワークライフバランスGGIのスコア算出システムの特性上、加点を得やすい国の一つになっていると言えます。

男性は成人と共に民間企業で主に肉体労働へ。女性は大学へ進学し、STEM教育・経営学を学び公務員や管理職へ。またそれらの学歴・職歴を生かして経営者や国会議員の成り手となるのです。

日本であれば男性は力仕事へ、女性は学問へと言うような強いジェンダーロール(=男らしさや女らしさ)を求められたなら「多様性の否定だ」「家父長的だ」「ジェンダー自認の著しい無視だ」との批判の声が上がるでしょう。にも関わらず、GGIで1位を獲得し続けるアイスランドをジェンダー平等を標榜する上での理想の国に掲げ、真似ろと主張するのです。

昨今ではクオータ制の導入について賛否が語られる事が多くなりましたが、こうして欧州各国の就学率や労働参加率の男女比を確認すれば、GGI上位の国々が男女の人数のバランスを闇雲に50:50に整えようとしている訳ではない事も分かります。それでいながら一部の層は「50:50の男女比率こそがジェンダー平等」であると訴求するのです。

GGIの上位国を参考にして上位を目指すと言う主張には、必ずこうした矛盾がつきまといます。なぜならGGIは男女平等を示す指数ではないからです。

そして敢えて付け加えるならば、こうした著しい女尊男卑と疑われるような社会システムであっても自国が置かれた環境を精査し、独自の目標により持続的国家を構築する姿勢を貫けるマインドこそがアイスランドの強さなのかもしれません。

3. 結論ーアイスランドの強さの秘密とは?

 アイスランド自身は何一つ悪くないのですが下記の理由がアイスランドに有効に機能して12年連続で1位に君臨していると言えます。

○GGIでは大統領と首相の任期が二重にカウントされる
(二元主義型議院内閣制が圧倒的に有利である)
○GGIでは女尊男卑でも1.000の満点が得られる
(性別間格差ではなく女性優位度の指数であるので男性差別は無視される)

いくつかのシミュレーションを行った所、大統領と首相の計算方式を前項fig.2方式に変えただけで1位ではなくなってしまう年があります。さらには、女男比で女性優位なスコアを1.000以上とせずに、男性不利として再計算したのであれば、多くの国で順位が入れ替わる事になります。※4

しかしながらGGIは評価に値しない指標である、参考にする必要性は皆無であると考えれば、順位は大きな意味を持たず、気に病む必要もありません。

4. GGIは男女格差や幸福度を示すエビデンスにはなり得ない

 GGIが男女格差を示す指数ではない事はお分かり頂けたと思いますが、また同時に男女の幸福度が直結しない事も忘れてはいけません。人々が平穏に暮らすためには、

・治安状況(殺人や暴力、銃や麻薬、窃盗や詐欺、レイプや放火等の犯罪の少なさ)
・交通網の整備と交通事故
・水道や電気、ガス、通信インフラの整備
・大気汚染や生活ゴミの収集などの整備
・医療や福祉、年金サービス(医療費の水準や救急車の利用し易さなど)
・税金の使い道や重税度

と、様々な条件が絡み合います。GGI

・経済部門の男女の参画割合
・就学率の男女比
・健康寿命の男女比
・政治部門での男女の参画割合

の指標に基づいて、独特の算出方式によって順位付けを行っているに過ぎません。

既にいくつか紹介しましたがダメ押しで例を挙げますと、健康寿命サブインデックスにおいては、誰しもが知る所である長寿大国のシンガポールや日本が、ブラジルや南アフリカ、ウルグアイ以下にランキングされてしまう指数でもあります。

下図はWHOの最新版の健康寿命(Healthy life expectancy)のグラフです。青色の分布がアフリカ大陸ですが、52~60歳がボリュームゾーンで70歳を超える国は一つもありません。アメリカ大陸ですら数カ国が70歳を超えるに留まります。日本・シンガポールは調査がある度に1位・2位を争う優良国であるのは世界中が知る所の常識中の常識です。

who_健康寿命

それがGGGR2020では下図のように評価されています。「女性の健康寿命ー男性の健康寿命」の差が大きいほどに順位が高いのです。日本59位、シンガポール133位。日本やシンガポールは1位諸国の何かを見習いGGIを改善する必要がありますか?本当に、この指数を信頼して上位を目指すべきでしょうか?

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 話しを戻しまして、アイスランドの強さ①では、過去50年間で国家代表を務めた年数のサブインデックスが余りに強力であり、同国はその恩恵を受けている事が判りました。

既に10~20年以上の任期を積み上げている国家が存在しますから、日本を含む一元主義型議院内閣制の国家が上位進出を狙うのであれば半世紀単位で計画を練らねばなりません。アイスランドのヴィグディス・フィンボガドゥティル大統領の任期16年の効力は2030年まで継続しますのでね。

アイスランドの強さ②では数値上は著しい男性冷遇を示したにも関わらず、スコアは下がるどころか1.000の満点でした。

これらを総括すれば、最早GGIが男女平等を表す指数ではない事は明白です。

提示した資料の通り、GGIはジェンダー問題や男女差別を語る上では何の参考にもならず、却って混乱を招くだけです。特に政治的・法的な決定をする場合において、GGGRを参考にしたり、GGI改善をベースに政策を練る事は断じて避けねばなりません。

5. おわりに

 以上をもちましてアイスランド12年連続1位の強さの秘密に迫るをベースにした、GGGRはジェンダー格差を測る為には不適当である、男女格差を示すエビデンスにはなり得ないの論考は終了です。

ここで強く申し上げたいのは下記の違いについてです。一見似ているようですが「指数」と言う単語がつく・つかないで話の内容が全く変わってくる事に注意したいものです。

未だに日本には男女格差があり「ジェンダーギャップは是正されるべき」との意見に賛同する方は少なくないでしょうが、「ジェンダーギャップ指数を改善すべき」と言った瞬間に、主張や物事は全く別の方向に進んでしまうのです。

○ジェンダーギャップは是正・解消すべき
ジェンダーギャップ指数(=GGI)は改善すべき・順位を上げるべき

 また、国家が国として持続的に生存する為の戦略を決める時に、他国の良いシステムを参考にするのは良いとしても、それを盲信して取り入れるのは好ましくないでしょう。同じ地理的条件の国が一つとして無いように、その国によって天然資源や気候風土、隣国との関係が異なるのに、ただ真似をして上手くいくはずがないのです。

広大な土地の中から様々な資源を入手したり隣国とシェア出来る国々と、国境を海で囲まれた日本の戦略は異なるでしょうし、同様に人口動向が異なれば労働環境も教育戦略も全て異なります。

持続可能な国家運営の為に何を成すべきか、どういう姿勢で臨むべきかについてアイスランドの毅然とした強さを見習うのは決して悪くないでしょうが、単に真似るのではなく、日本の人口、立地、強さや弱さを総合的に勘案して日本独自のスタイルを模索・追求しながら後進へバトンタッチする事こそがSDGs=持続可能社会の実現に繋がるのではないでしょうか。

この度も最後までお目通しいただきまして誠にありがとうございました。また、これまでサポート頂いた皆様に改めまして心より御礼申し上げます。


資料:アイスランドの大統領と首相

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-2006~2008年の16.0ポイントについて(大統領)
 サブインデックスのスコアに16:34=0.470が並んでいます。ヴィグディス・フィンボガドゥティル大統領が1980年に当選してから4期16年を勤めたデータが反映されています。

アイスランドの歴代大統領をWikipediaより拝借します。

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-2009~2013年のポイントについて(首相)
 2009年、16:34の女男比率は変わらないものの、サブインデックスのスコアが0.470から0.490へと0.02ポイント上昇しています。同年、ガンで任期を満了出来なかったゲイル・ホルデ前首相に代わり、ヨハンナ・シグルザルドッティル氏が首相に就任、3ヶ月と短いながらも務めた為です。

そしてその後、1期4年を努めます。2009年には約0.5年分が任期として認められ、4年間で1.0年づつ加算されます※1。

同様にアイスランドの首相の一覧をWikipediaより拝借します。先の表の最右列にそのポイント獲得の変遷を記します。

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-2017年以降のポイントについて(首相)
 2017年年末からはカトリーン・ヤコブスドッティル氏が首相に就任し、サブインデックススコアで0.005ポイントの上昇を認める事が出来ます。2018年以降は現職であるカトリーン・ヤコブスドッティル首相のポイントが1年づつ加算されている事が分かります。

こうしてGGGR2020ではアイスランドの過去50年の国家代表の女性比率は21.9年とカウントされるのです。

出典

WEF:Global Gender Gap Report 2020 ( PDF )
WEF:Global Gender Gap Report 2021 ( PDF )
Wikipedia:アイスランドの大統領
Wikipedia:アイスランドの首相
Wikipedia:議院内閣制
Wikipedia:List of countries by system of government
Wikipedia:Forms of Goverments
外務省:国・地域
ITmedia:ジェンダーギャップ指数2019で集計ミス? 日本は本当は何位だったのか
内閣府男女共同参画局:男女共同参画に関する国際的な指数
社会実情データ図録:日本の「高校・大学進学率の推移」
グローバルノート:世界の水産物の漁獲量・生産量 国別ランキング・推移
グローバルノート:世界の1人当たり名目GDP 国別ランキング・推移(IMF)
OECD Education:How many students study STEM ?
Healthy life expectancy (HALE) at birth (years)
EIGE:Gender Equality Index
The Economist:glass-ceiling index
でじぽっと:天秤のイラスト(画像)

※1 小数点以下の扱いは各年度のGGGRの小数点の扱いに準じています。2009~2016年までの任期は整数表記なので、首相のポイント加算はサブインデックスのスコアからの逆算になります。2017年以降は確からしい数値になります。

※2 GGGRでは整数表記ですが小数点以下も計算しているようです。女性比率と男性比率を足すと合計50年ではなく51年と表記されている国もあります。

※3 共和国、王国の全てが二元主義型議院内閣制ではありません。詳細はWikipedia:List of countries by system of governmentをご確認ください。概ね、赤・青は一元主義、オレンジ・黄色が二元主義(1.5元主義?)です。

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※4 GGGR2020トップ10の中で、過去50年間で女性の国家代表が選出されていない国がスウェーデンとスペインです。他のインデックスで女性優位の状態を作り出せば、国家代表が男性であっても上位進出は不可能ではありません。

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