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弥生

眠い。嗚呼、眠い。春だからなのか眠い。

ときは3月末日。職場では年度末を迎え、最終目標に向かってなんとしても達成するぞとの意気込みが溢れてはいたが、自分の業務にはほとんど関係がなく、定時上がりというゆるい日々を送ることができた。

付け加えるならば毎週にわたり、週40時間の仕事では疲れず、週3時間のトレーニングで疲れるということを繰り返している。肉体的ストレスを与えるというのは、健康志向ということもあるけど、心が暇というかなにか刺激が欲しいのかもしれない。

おっさんということもあり、使用重量も100kgを越えてくると、疲労が抜けきれず徐々に溜まっていくパターンも繰り返している。最近は8週間おきのディロードよりも、丸々休息に当てたほうが上手く回復することを発見した。

トレーニング翌日は筋肉痛とか疲労感があり、ゆっくり歩くことが多い。女性に抜かれるくらい遅いこともある。そんなおじいちゃんのようなペースで駅構内を歩いていたときに、道を尋ねられたのが月初めにつぶやいた中国の方とのエピソードだ。

私はよく道を尋ねられる。最高記録はかつての勤務先で利用していた上野駅。改札に入ってから電車に乗るまでに3組の観光客に道案内をしたことがある。しかも全員が外国人だった。韓国人、インド人、中国人。3組共に、「にほんこ、わからない」って言われて、お互いにカタコトの英語でやり取りした記憶は今でも強く残っている。もちろん最後の別れは皆笑顔だ。

毎年、富士登山をやってたときは両手の指では足りないほど忙しかった。道案内もあれば、具合が悪い人の介助、救助の支援や誘導、応急処置なども行った。これまで教官、講師、インストラクターと呼ばれる仕事をしていたことが関係在るのかもしれない。もしくはただ単にニンゲンとして隙だらけなのかもしれない。

知らない場所で道に迷うのは楽しくも不安だと思う。若かりし頃、この国を守る仕事をしていた関係で、原生林の中をコンパスと地図で昼夜問わず踏破する訓練を受けたことがある。途中、追跡を避け、襲撃に備える訓練だ。その影響なのか、いまでも無意識に方角を確認することが多く、人よりも迷子になりにくい気がする。

ときには道に迷うことが羨ましくなることさえある。なぜなら、この国はまだまだ治安が良い(この先は怪しいけれども)。だからこそこの国での迷子はちょっとした冒険を安全に味わうことができるのだ。

道を尋ねてきたひとが、時間に追われていたり、余裕がない場面だってあるはずだ。そんな困ったときこそお互い様だと思う。時間があれば手助けをするのが道理ではないか。

このようなちょっとした手助けや道案内とは、誰かの人生、誰かの冒険の隙間に登場する無名のエキストラ役だと思う。ゲームでいうところのNPC(ノンプレイヤーキャラクター)だ。ノーギャラだし、特に台詞は用意されてはいないが、なにか重要な手がかりをもっているかもしれない人々。なかには特定のキーワードを入れた質問を加えると冒険の選択肢が広がる情報をもっているNPCもいる。私も誰かに道を尋ねられたときは、何者でもないごく普通のNPCだ。でも、たまには特別な何かを用意できたら面白いかもしれない。まぁ、私からは声をかけないけれども。

それにしても眠い。ときは3月末日。冬が終わる。暖冬とはいえ今年も寒かった。人生で初めて取り入れた電気毛布は大正解だった。もっと早く使えば良かったとポジティブな後悔をしている。

眠い。嗚呼、眠い。

この眠さはしばらく続くだろう。なんたって春なわけだし。


おしまい。




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