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境界を越え、共感するいたみ        画家 Firelei Báez(フィレレイ バエズ)の描く記憶

ドミニカ共和国出身アーティスト Firelei Báez (フィレレイ バエズ)さんの展覧会を観にルイジアナ美術館へ行ってきました。


Fireleiさんの絵はとてもポップな色使いと躍動するモチーフにより、鑑賞者にジョイフルな気持ちを与えてくれます。

地図や建築図面、本のページといったアーカイブ資料の上に描かれる世界にわくわくドキドキ。

けれど、タイトルをじっくり読んで、使われている資料や細部のモチーフをじっくり読むと、彼女の絵は明るく美しいだけではないことに気づくのでした。

↑この絵のタイトルは 奇妙な果実。
ビリー・ホリデイが歌う「奇妙な果実」にインスパイアされた絵です

美しさとグロテスクさの絶妙なバランスで表現される彼女の絵は、
植民地化された土地で生まれ、搾取された人びとの記憶を受け継いで育ってきたアーティストが描く絵

アーティストが世代をつらねて受け継いできた、

目を向けられてこなかった歴史 
忘れ去られた歴史
記述さえされなかった歴史
語ることを許されなかった歴史
歴史として認識されなかった歴史…

が鮮烈に時代と空間を超えて目の前に立ち現れます。

Fireleiさんの絵は、周縁に追いやられた人びとが生きた痕跡を一つ一つ拾い集め、彼女ら彼らの物語を紡いだ絵だと言えます。
巨大なキャンパスは、観る者に絵との繋がりを多次元的に開放します。

自分の経験じゃなくても、親しい誰かの物語じゃなくても、なにかザワザワとした痛みのような哀しみのような生々しいものを観る者に経験させる。
そこに自他の境界を越える瞬間が確かにあります。

鑑賞した後に言いようのない、胸が苦しくなるような、痛みのような哀しみのようなものが残るのだけれど、Fireleiさんの絵がくれたこの経験と感情を大切にかかえて生きていきたいと思わずにはいられないような、そんな気持ちになります。
多分、鮮やかで軽やかな色使いが希望とか未来とかに繋がるような明るいエネルギーを残してくれるからでしょう。

特に印象に残ったのは、奴隷船から捨てられた妊婦の女性や赤ちゃんが『もし水の中で呼吸ができて、海の中で生きていたら』というWhat if の物語を描いた絵。

残酷な、とても残酷な私たち人類の歴史に暗澹たる気持ちになる一方で、 Fireleiさんがいて本当に良かったと感謝したくなります。


亡くなった女性と子どもたちの弔いになったのかなぁ とか、女性たちと子どもたちが形を変えてキャンパスの中で生き生きと躍動する空想の世界に救いを見たり、まぁ勝手な解釈なんですが、そんな優しい気持ちが残ります。写真ではなかなか伝わらないのが歯がゆいですが、本当に素晴らしいのでぜひ観に行ってほしい。
芸術は、言葉や文章が取りこぼす色々な記憶や感情や命をこんなふうに生き返らせられるんですねえ。

絵の解説には限られた文字数のなかでなんとか伝えたい!というキュレーターのあふれる情熱が込められていてそれも展覧会を暖かな空間にしています。

解説を日本語訳してみました

ルイジアナ美術館はコペンハーゲン中央駅から約30分。
向こう岸にスウェーデンを臨むお庭も開放的で心地よいので、ぜひ足を伸ばしてみてください。
展覧会は2024年2月18日まで。

参考

Firelei Báez Instagram


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