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訛った発音のせいで、上海でずっとド田舎者と思われていた

上海を拠点に中国で過ごした4年間、
私は日本人とも外国人とも思われていませんでした。
日本人と見抜かれて、声をかけられたことも一度もありませんでした。

私の外見が、目は一重で超薄味の典型的な東アジア顔であることが第一の原因だったのでしょう。
しかし、中国語をしゃべっても、私を外国人とは気付かずに、中国人の方々は接してくれました。
数年間日本で週末、中国語教室に通ったのが功を奏したようでした。

これをいいことに、私は中国語ができると勘違いして、中国語の発音の精進を怠ってしまいました。

上海の安食堂では注文のときに、
「外地人だね。」
と声をかけられることが何度もありました。
「外地人」とは「本地人」の反対語で、本来、よそ者、他の地方の出身者という意味ですが、
上海では田舎者、出稼ぎ労働者の意味合いが含まれます。

旅先の瀋陽では、
「蒸し暑いね」といっただけで、
「あんた、普通話(北京語に基づいた標準語)下手だね。」と返されました。
中国東北地方は普通話を綺麗に発音する地域だから仕方ないと思っていました。

シルクロードを旅行中、
バス観光での帰りに、
「駅で下して」といったら、
他の乗客に「訛ってるね。あんた、田舎どこ?」といわれました。

長距離バスでの移動中も、日本人とは思われませんでした。
公安が乗り込んで来て、身分証明書をチェックするとき、
私がパスポートを出すのを見て、始めて、私が日本人だと気づくのでした。
そのとき、隣の乗客が
「危ない目に合うといけないから、日本人だと明かてはダメだよ。
あんたの訛りなら、(中国の)南方出身者でとおるからね。」と忠告してくれました。

上海でアパートのテレビ修理を電話で依頼したら、
「広東人?香港人?訛りで分かるよ。」といわれました。



中国を離れベトナムを訪れた私は、中国語ができるから、
ベトナム語は簡単にしゃべれるようになるだろうと楽観していました。

しかし、学び始めたばかリとはいえ、
簡単なベトナム語の単語さえ通じないし、何度も聞き返されるしで散々でした。

まず、ミルクコーヒーの注文が通りません。
何度も聞き返されました。

ヨーグルトも買えません。
何度言っても通じず、店の奥の冷蔵庫まで行って指さしました。

コムスン(ブタばら肉のグリルとごはん。ベトナムではどこででも供される。日本の牛丼のような存在。)
を注文すると必ず聞き返されました。

私はやっと、
ベトナム語を学ぶ過程で、曖昧母音[ə](schwa)の発音ができていないことに気づきました。
ミルクコーヒーもヨーグルトもコムスンもベトナム語の発音では、曖昧母音を含むのです。

そして、なぜ、中国でド田舎出身者と思われていたか、その理由の一つも分かりました。

振り返ってみると、中国語を話すとき私は、
曖昧母音[ə]の発音ができずに、唇を横に引いて発音する「ウ」と「ア」の二重母音で代用していました。
この訛った発音で、恥ずかしげもなく私はしゃべっていたのです。
今ではこれが、ド田舎者と思われていた最大の原因だと推測しています。

中国語でもベトナム語でも[ə]の音は正規の母音の一つです。

中国は広く、方言もたくさんあります。
たまたま私の重い発音(中国語では訛りがあることを形容するのに「重」の字を使います。)が、
南方方言話者のしゃべる重い普通話に似ていたのです。

一方、ベトナムでは主要な方言が南部方言と北部方言の2つしかないため、
そのどちらかに当てはまらなければ、聞き取ってもらえません。
どちらの方言でも[ə]の発音は[ə]です。
しかも、通常の長さの音と短い音の二種類があります。
これを他の母音と区別して発音できないとベトナム語は通じません。

もし、ベトナム語を始めていなかったら、
私は曖昧母音の発音ができないことに気づかないまま
残りの人生を送っていたことでしょう。

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