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フランス現代思想の解説書5冊を比較、分析〜ルサンチマンにならないために〜

 ジェンダー・セクシュアリティ分野のクィア理論を理解しようと思い、去年からフランス現代思想の入門書、解説書を5冊ほど読んできた。本の整理をしていた時「これら5冊は系統が違うなぁ」と思い、解説書5冊を比べて、それぞれの本の特徴やどこに重点を置いたかを自分なりに分析してみようと思った。

 そもそもフランス現代思想とは何を主張したのだろう。まだ少ししかかじっていないが今現在私はこう考えている。

「社会は今とは別の在り方でもあり得る」

 ここでポイントなのは「世界」ではなく「社会」であること、「あらゆるあり方が可能である」ではなく「いくつか存在する」ということである。これはフランス現代思想が歴史的に西欧近代中心主義批判の役割を持っていることと通ずる。つまりフランス現代思想は、西欧近代中心、異性愛男性中心ではない社会もあり得る!それを示したのだ。これがフランス現代思想の肝であると私は考える。

 解説書の話に戻ろう。日本では浅田彰『構造と力』、東浩紀『存在論的、郵便的』『動物化するポストモダン』がフランス現代思想、ポスト構造主義の解説書として有名である。私も一応持っているが、まだ読みきれていない。今回紹介するのはとっつきやすい内容で、サイズも新書や文庫のものである。またこれらの5冊が全ておすすめというわけではない。ただこれまで読んできた本であり、その本の特徴と筆者がどこに重点を置いていたのかを見ていくだけである。

ラインナップは以下の通りだ。
①内田樹『寝ながら学べる構造主義』
②橋爪大三郎『はじめての構造主義』
③竹田青嗣『現代思想の冒険』
④岡本裕一郎『フランス現代思想史』 
⑤仲正昌樹『集中講義!日本の現代思想』 

では①から順に見ていこう!

①内田樹『寝ながら学べる構造主義』

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大衆講演会のような"カジュアル"な文体と内容で、構造主義(ポスト構造主義)の概要がザっとわかる入門書!芸術、批評の分野のロラン・バルトの仕事の説明がしっかりとしている稀な書である。

「まず最初の入門書としておすすめ!」
「学術的な苦しさはなく、カジュアルに概要を掴める読めるのが本当に良い!」
「込み入った議論は無しで、言い切りで押し通す快楽さ!まさに有限の時間で読める内容」

②橋爪大三郎『はじめての構造主義』

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ソシュールやレヴィ=ストロースなどの初期の構造主義を丁寧にはっきりと解説されている本。レヴィ=ストロースと数学のつながりが説明されている。

「初期の構造主義を簡単に理解するのには最適!」
「理系はとても読解しやすい内容だと思う!」
「出版が1988年であるから、ブーム終わり時期の当時性が出ているところが特徴」
「第5章-結びは、日本の思想はどうあるべきか。そもそも日本はモダニズムが完成されてない。今後どうあるべきかを考察している。」


③竹田青嗣『現代思想の冒険』



哲学の営みとは、社会と我々が生きるとは、その中でのフランス現代思想の位置付けを考察していく。解説書というより竹田青嗣の思想書。

「フランス現代思想の本質が眠っているが、解説書ではなく筆者の思考とフランス現代思想を絡めた一種の思想書である。」
「凝った文芸性の文体の中での緻密な議論には、息が詰まる感覚がある。」
「自分はフランス現代思想とどう向き合えばいいのか、と悩んでいる人におすすめ?」
「筆者の"生きる"ことに真剣さが伺える。」

④岡本裕一郎『フランス現代思想史』 

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フランス現代思想を思想史として外から中立な立場で概観した堅実で説明的な本である。

「冷静沈着に芯と特徴は押さえているが、妙は捉えられていない」
「引用が多いのでそこを読む価値がめちゃある」

骨格的な説明であるため現代思想の妙を掴めていていない感じがする。だが作者が中立な立場ゆえフランス現代思想のユニークさ(オシャレ、文芸的)が指摘されている稀な書。プロローグ、エピローグだけを読んでもかなりこの本があるべき意味が分かる。

⑤仲正昌樹『集中講義!日本の現代思想』

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日本の論壇、アカデミア、政治でのフランス現代思想の輸入、発展、衰退を70年代、80年代、90年代、そして現代と見ている。日本の現代思想の外観書である。その中で「フランス現代思想」の何を、後世のために遺産として書きとめておくべきかを伝えている。いつでも振り返って読みたい。

浅田彰、東浩紀なども出てくる。

ここでいうフランス現代思想の遺産とは「近代の限界」「複雑化しつつある現状分析の道具」と読める。

「フランス現代思想の特徴、性質を的確に捉えており、全貌を掴むのに最適である。」
「そしてフランス現代思想の何を引き継ぐべきかという論点へとつなぎ、フランス現代思想との向き合い方を示唆してくれる」
「ただフランス現代思想の可能性を閉ざしてしまっている傾向があり、フランス現代思想の発展を示唆しない点がある。」

 以上が、5冊の分析である。特に最後の⑤仲正昌樹『集中講義!日本の現代思想』はいつでも振り返って読んでもいいなと思うほど、論点が今生きる上で重要なものである。良かったら読んでみてほしい。

フランス現代思想の意義

 このフランス現代思想は最近あまり聞かないかもしれないが、20世紀のトレンドであった。日本でも1980年代には浅田彰の『構造と力』もあり大きく賑わっていた。しかし最近は衰退してきているように思える。その原因は2点あると私は考える。まず1つは哲学の中心が英米の分析哲学に行っているからだと考える。その世界の移り変わり、分析哲学のことを仲正昌樹は以下のように言っている。

世界的に見ると、哲学・思想のトレンドの中心が、フランスの構造主義/ポスト構造主義から、英米系の分析哲学や科学哲学、リベラリズムをベースにした正義論、責任論などにシフトしており、流行に敏感な日本の知識人たちも、その流れに乗るようになった。これらの英米系の議論のほとんどは、「理性的な主体」という前提を堅持しながら、世界を一つの首尾一貫性のある論理体系によって解明しようとするものである。

 このように今のトレンドの分析哲学は近代哲学の徹底のように思える。近代を批判するフランス現代思想はこの分析哲学とは対立する哲学であり、世界の周縁と追いやられているように思える。 
 2つ目の要因としてソーカル事件(デタラメに科学用語を使ったそれっぽい論文が現代思想系の雑誌に載ったこと)後にフランス現代思想は「ポモ(ポストモダン)」と揶揄されて、ただの言葉の遊びでしょ?と言われて馬鹿にされているという現状である。これに対して東浩紀や浅田彰は「ソーカルの科学用語の誤った比喩表現の指摘は筋は通っているが、本質的批判は筋違いである。その批判は科学主義(分析哲学)の方面の立場からであって、その科学主義も絶対ではない。一方から他方を断罪するのは、全然問題解決にならない。」としている。

 このようにフランス現代思想は中心から周縁へ後退し、現中心の分析哲学からの一方的な非難により、その存在意義が危ぶまれている。これは危機的状況であると私は考える。フランス現代思想の歴史的意義である西欧近代批判、つまり理性的な主体の批判を無視し、反証可能な不安定な真理を暴力的に使っていく。また物事を都合のいいように簡潔化して判断していく。確かにその手法や思想で豊かな生活など得られることは多いが、それをメタ的に自己批判的に見ていく視座がなければ、それはただの西欧近代の暴力ではないだろうか?その自己批判性を持ったり、唯一の真理やマクロを扱う科学では捉えきれないミクロな物語の分析ができるフランス現代思想を無下にしてはならないと私は考える。仲正昌樹もフランス現代思想の遺産をポモと言って手放すのではなく、肝心な部分をちゃんと引き継ごう!と言っているのである。
 確かにフランス現代思想のテクストは難解であり核心を掴むのに骨は折れるが、そこでルサンチマンにならずにフランス現代思想の遺産をしっかりと受け取るべきであると私は考える。その際良かったら上の解説書分析を参考にしていただけたらと思う。

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