見出し画像

【読書記録】ジェリーフィッシュは凍らない/市川憂人

21世紀の『そして誰もいなくなった』登場! 精緻に描かれた本格ミステリにして第26回鮎川哲也賞受賞作、待望の文庫化。

中学生のときに『そして誰もいなくなった』を何十回も読み返していた自分にとって、こんな謳い文句を掲げた本を手に取らないわけにはいかなかった。クローズドサークルものは、何本読んでもまったく飽きない。

舞台となるのは、私達の世界とは異なるパラレルワールド。そこで発明された「ジェリーフィッシュ」という小型飛行船の中で、発明者を含む6人が次々に惨殺されていく。雪山に遭難し、完全に閉鎖された状態のジェリーフィッシュで一体誰が殺人を行っていくのか?船内の様子、操作中の警察官たち、そして犯人の独白と、3つのパートが織り交ぜられた形式のミステリだ。


※ここからネタバレを含みます※

率直な感想としては、面白かったけれど、世界観には今ひとつ入り込めなかったかな…という印象。SFを普段あまり読まないことが原因だと思うけれど、それなりの文字数が割かれている"ジェリーフィッシュの仕組み"についてはお手上げ状態。とはいえ「比較対象実験」をはじめ、重要なキーワードはしっかりと(それでいてさり気なく)提示・解説されていたので、ド文系の自分が読んでもちんぷんかんぷんということはなかった。

トリックは大胆ではあるが、どこか「え、そんなこと?」と思ってしまったというか、ちょっと運任せの要素が大きいかなあという感想。たとえば、いくらパニック状態だからといっても、遺体を他者と、それも見知った人物と誤認するだろうか?など。まあでも、自分がそんな状況に置かれたことはないので想像できないのが正直なところではある。

なにより印象的だったのは、最後に明かされた犯人像。犯人が"誰"なのか、は割と早い段階で予想がついていて、だけどマリアの「あんた、誰?」という一言は読み進める中で自分自身が抱いた疑問と一致していて。結局最後まで名乗らない犯人が淡い想いのもとに計画・実行した復讐劇、という筋書きは、とても綺麗だと思った。

快楽殺人系のドラマばかり見ていたからか(某日テレ系ドラマの悪口)、きちんとした動機がもとで事件を起こす作品を読むと安心する。大量に人が死んでいる小説を読んで安心する、という言い方もひどいけれど。叙述トリックならではの伏線に気づけていない部分もありそうだから、積ん読本を片付けたらもう一度読み直してみたい(いつになることやら)。

※トップ画像は「みんなのフォトギャラリー」からお借りしました。水族館のくらげの水槽は、何時間でも見ていられます。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?