【読書記録】よもつひらさか/今邑彩

会社の人から「軽めのホラー短編集」と言われて借りた一冊。身構えつつ読んでみたけれど、怖いのが苦手なわたしでもさくさく読み進められた。

ミステリが好きな人なら、いくつかの話は途中でオチが読めてしまうかもしれない。けれど、結末に至るまでの過程が非常に丁寧に描写されているからか、先が読めることをマイナスには感じなかった。

個人的なお気に入りは、「遠い窓」と「よもつひらさか」だ。

「遠い窓」は、絵の中に誰かが住んでいると信じてやまない女の子の、ちょっと幻想的なお話……と思いきや、親子のすれ違いが思わぬ悲劇を生んでしまう。
少女の視点で語られ続けた物語が途中で父親の視点に変わるのだが、その独白は少女の内心とは正反対のもの。個人的にはこれが一番、結末に驚いた話というか、救いがない。なさすぎる。

「よもつひらさか」は、「一人でのぼると黄泉の国に連れて行かれる」という言い伝えのある坂のお話。
この短編では、主人公がどうなったのか、明確には描かれていない。ただし、嫌な予感だけは満載だ。そして、予感が諦めに変わりかけたところで物語が終わる。
これもめちゃめちゃ後味が悪い。読んでいる側としては、はじめから「えっ水飲んで大丈夫?!」という感じなんだけれど、その嫌な感じがどんどん加速していく。
娘さんはなぜ、この坂のことを主人公に伝えなかったのだろう。単に言い伝えを本気にしていなかったからか、それとも恣意的に伝えなかったのか…と思わず勘ぐってしまう。前者だとしたら、自分のまわりにも“本気にすべき”言い伝えが無いとは言い切れないような気がして背筋が寒くなる。後者だとしたら……恐ろしい話であるのはいうまでもない。

人から借りた本を、文句のつけよう無く面白いと思えたのは久しぶり。今邑彩のミステリは何冊か読んだことがあったけれど、こういうテイストなのであれば、ホラー寄りの作品ももう少し読んでみたい。

※トップ画像は「みんなのフォトギャラリー」からお借りしました。我が家の書斎もこのくらい綺麗にしたい。

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