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ゲームデザイナー Saashi の仕事部屋〜2020年8月後半

Saashi & Saashi(サアシ・アンド・サアシ)のSaashiです。今回は2020年8月後半の何日かの分。『フィルムを巻いて!』の再版リリースもできたし、後半はわりと通常の業務とゲーム開発にいそしむことができた期間でした。

「ゲームデザイナーSaashi の仕事部屋」シリーズについて
京都でアナログゲームを作っているんですが、手書きで日記書くのがだいたい滞って記録が記録にならないので、noteで綴ってみようかと思い、書き始めてみてるシリーズがこちらです。半月に一度くらいで載せてます。
ただ、わりと忙しくしている気がしているわりに、特に変わり映えしないので地味すぎる日常ですが、自分の備忘録的に書いています。全日の日記でもないし、その時思ったこと書くだけの日とかもありそうですが、「こういう人もいるのだな」と気楽な感じでお目通しいただけると幸いです。

8月後半某日

今月前半はいつもよりゲームを遊ぶ日を設けられたのだが、その他の日は生産重なっていることもあって妙にメール仕事ばかりしていた。それで進んだことも多いのだが、クリエイティブ面は反省の余地あり。

8月の後半は創作面を充実させていきたい。

と思いつつも、9月にリリースする再版ものの営業的案内など、資料整えてメールしたりなんだり。

夜に少しゲームデザイン的なミーティングを貴子さんと行なう。アイデアを何度か形にしているゲームの方向性について改めての話し合い。いくつかの解決策があって、そのどれがそのゲーム本来の魅力に似合うのかを考える。

8月後半某日

また起きる時刻が遅いモードに。荷物の受け取りにも影響するなぁ。

そういえば、dlp gamesから『旅のあと(Remember Our Trip)』が、この秋ドイツのdlp gamesより欧州版としてリリースされることが発表されていた。今回はアートグラフィックはオリジナルのままでの出版となるので、契約からリリースまでのタイムラグがすごく短かった。

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dlp games版『旅のあと(Remember Our Trip)
ドイツ語/英語・2020年秋リリース予定

今年はCOVID-19の影響も大きくある中で、契約して出版まで計画通りにしていただけるのはありがたいことだと思うし、また 『コーヒーロースター』に続いてdlpからのリリースとなるわけで、評価してもらえてとても光栄です。そして、今作の共作者であるダリルさんにも感謝です。

8月後半某日

起きてから、急ぎのメール数件返す。ごはんのあと、読書とコーヒー。海外へ発送するために関東の倉庫から取り寄せたゲームの受け取り。

あとは急ぎでもないがゆっくりでもいけないメールの処理。海外出版社への返事、海外工場からの輸送の手配、海外倉庫の問題の解決策提示、夕食。

ちょっと息抜きに自転車で夜の書店に。リラックスして店内巡る。梁啓超の文集が岩波文庫から新たに出ていた! モリッシーの自伝も! すかさずゲット。サッカー雑誌も買う。

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汗だくになってしまったので、帰宅後すぐにお風呂に入る。コーヒーを淹れてジタバタと用意。夜は24時から朝戸さんと2人でお送りしている深夜のジレンマラジオ】の放送でした。

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今夜はゲスト回で、カワサキファクトリー川崎晋さんをお招き。川崎さんとゆっくりお話するのは、『創造的な習慣』第3集の超ロングインタビュー以来なので楽しみにしていましたが、想像以上に濃密なデザイン談義になって、楽しかったですね〜。

8月後半某日

リズムが逆転している。夕方に起きてシャワーのあとメール。夜にSさんが車でうちに来てくれたので、2人ゲーム会。ゲームの後、ゆっくり話していたら真夜中になり解散。

その後ごはん食べて、海外のショップへインボイス送ったり、各種の確認がいくつか。朝までに荷造りして出荷の依頼を終える。(体感ではまだ昼過ぎくらい)

モーニングにカフェヴェルディへ行き、ついでにコーヒーサーバーを購入。いつもここのを使っていたのだが、数年使っていたのが昨日割れてしまったのだ。だいぶもったほうでしたが。

帰ってから荷物出し。からのアイデア出し。
ゲーム作る中でだいたい3段階に分けていて、

1. 頭の中のアイデアをリーガルパッドに書き出す。(視覚化して認知するため)
2. リーガルパッド上でその案を展開していく。(同時に記録としてデジタルのメモに残す。後日中断したあとなどに履歴として参照するため)
3. PC上でテストのためのプロトタイプを作成する。

3.まで来たら、ほぼゲームとしては出来ていて、あとは開発状況次第ということになるので、肝要なのは1.と2.の段階なのだ。特に、1.から2.への間はボーダーレスなのだが、2.から3.が果てしなく遠い時がある。

もちろん、無理にでも3.に移行してテスト用のプロトタイプを作ってしまうことはできなくはないのだが、自分の中で「まだだな」と感じている時に焦って形にしても、テストしてみれば、やはり「まだ生煮えだった」という結果がとても多いのです。

よく練りこまれたゲームも、形になりそうなだけで生煮えというゲームも、どちらもテスト用のプロトタイプを作成するための時間は同様にそれなりにかかるので、やはりある程度は自分の中で期待というか手応えがあるものに育ってからその作成に時間を使いたいところだ。(手応え薄いままプロトタイプ作りに時間をかけて「なんだかなぁ」を繰り返してきたからこそ思うことでもありますが)

8月後半某日

一昨日はほぼ寝ていなかったので、昨夜は20時頃に就寝。熟睡して真夜中に起きたので、明け方からUCLの決勝「パリSG 対 バイエルン・ミュンヘン」を生放送で堪能。そのあと、ごはん食べる。

しかし、中断明けのCLの試合はどれも濃密だった。戦術面・体力面ともに通常のシーズンより余裕もって準備できたからなのかな。

さて今日はクリエイティブな作業進められるのかなの朝。(その後それなりに進めることができました)

8月後半某日

海外の倉庫でのトラブルが、いろいろあって各方面のおかげでようやく解決。あとは通常の注文対応で各国に送ってもらうやりとり。

Saashi & Saashi 補完計画の第1弾として8月末に『フィルムを巻いて!』の生産が完了する。日本生産なのですぐに入庫ができる。その連絡など。

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『フィルムを巻いて!』日本版の新版(2020年9月)

『フィルムを巻いて!』は初版が2016年で、Saashi & Saashiとして2年目にリリースした3作目の作品になる。実は2年くらい前から在庫を切らしていて再版のタイミングを測っていたのだった。

というのも、海外版権の話がリリース当初からあって、その絡みもあり、日本でわたしたちが再版する販売範囲やタイミングで良い時期を測っていたということなのだが、海外での出版がいろんな事情で遅れていた。

いつもまでも再版しないのも困るので、とりあえず現行の日本版を日本と中国語圏だけで販売に限定すれば契約内容にも違反しない形になるので、それを今年行なうということになった経緯がある。また、このあたりは別の記事としてnoteに書いてもいいかもしれない。

また、別件で、香港からの輸送の件も輸送会社と印刷工場とで連絡とりあってもらう段取り。

8月後半某日

『フィルムを巻いて!』の再版リリースの件を取引先に一斉に連絡。受注後はそれらの発送の手続きを各所に連絡して調整。

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『フィルムを巻いて!』新版のサンプル写真。
カードには色のためのアイコンが追加されている。

工場からの発送はカートン単位になるので、カートンでの直送でない場合(少量の場合や他の商品との混合の場合など)はSaashi & Saashiから取引先へ送る作業を自分たちで行なうし、海外への発送は現在契約している倉庫からは直接やってもらえないので、一旦京都のうちのスタジオに送ってもらってから梱包し直して発送しなければならい。

この海外分がありがたいことに徐々に平年並に戻ってきていて、京都からの出荷予定分が溜まってきた。(もちろん商品によって海外での出版契約に違反しない範囲内での販売しかできない。そこは細かく管理しなくてはならず、その対応のためのメールでの作業コストも商品数が増えるに従って増えるのでなかなか大変)

出荷の合間に、できることを進めていく。以前から開発中の何件かを同時的に進める。もう少しでテストする段階に運べそうなのが、3つ4つ増えてきたのは良い流れ。

8月後半某日

クニツィア作らしい新作ゲームを朝戸さんにルール説明して一緒に遊んで、そのプレイ後に「これはよくできた良いゲームだが、このまま参考にしちゃうとパクリになってしまいますね」と話していた。いくつか自分で別案を考えて話したり、その後しばらく改善案を検討した。

という夢を見た

目覚めてから思うに、「あれ?! すべてが全部夢だったなら、あのゲームのルールを全部そのまま使っても真似にはならないのでは!」と気付いたのが真夜中のベッドの上。

そのまま寝ようかと思ったけど、頑張って起き上がり、階下の仕事部屋へ降りていき、デスクに腰掛けて急いでメモにとりました。

実は夢の中では2つのゲームを遊んでいて、その時には、その2つのゲームのルール概要を覚えていたので、素早くノートに書いて残すことができました。あのまま寝ていたら、すっかり忘れていた可能性は高いですねぇ。

一仕事終えたような気になって、寝室戻って眠りに就きました。

さて、翌朝、そのメモにとったゲームのルールと概要を見直すと。寝ぼけた頭で書いていた可能性もあるので、若干不安はあったものの、翌朝カフェヴェルディでノート片手にしばらく考察してみたところ、幸い整合性は取れていたようなのでとりあえず安堵。とは言え、まだまだ道のりは長くて、完成度なんてのはまだ上の句が固まったくらいのものです。

8月後半某日

深夜のジレンマラジオ】も今夜でもう第8回。ゲスト回が続いていたので、朝戸さんと2人で話を進める通常回は久しぶり。ゆっくりのんびり話せる通常回は深夜ラジオぽくて好きなんですよね。

深夜のジレンマラジオは通常回が60分。ゲスト回が90分としていて、それは話し手の人数が増えればそれぞれ話す時間が同じなら時間は増えるべきだろうということから来ているが、どうなんでしょうかね。長すぎるのかどうか、視聴してくれてる方々からするとどうなのかなとはいつも考える。

あとは、事前に今日のお題というか、テーマがわかっているほうが良いと思うのですが、良いお便りが直前や放送中に来たりして急遽変えることもあるし、またそういうのがライブ放送の醍醐味でもあるかもしれず、と思うとどちらも良いところがあって難しいところ。

そして通常回とゲスト回の兼ね合いも。ゲストにお招きしたい人がいろいろいらっしゃるので、そのあたりも考えていかねばですね。

8月後半某日

Saashi & Saashi始める前に買った自分用のmacが、いよいよもたなくなったので代替わりで新しいものを導入。

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画面の光具合とかサイズ感を確認したくて店頭でも見て決めたのですが、ぼくのマシンは大きなサイズのほうではないほうを選択。後日貴子さん用はおそらく大きな画面のになるだろう。

大きな画面のほうがおそらく確実に作業的には便利なんですけど、ぼく的に平面の大きななにものかに囲われてる感がしてしまって、なんか「ウッ」と圧迫感を感じたのでパスしちゃったんですよね。閉所が嫌いなのと通じるものがあるのかな。わからないけど。

それはそれとして、ちょっと仕事部屋を配置換えというか、貴子さんとぼくが別々の部屋で作業しているのを、同じ部屋に機能集約しようかと思い、机なども新たに買ったりして整え始めているところ。すぐに全部を綺麗にする時間が取れないので少しずつですが、改良していきます。

8月後半某日

先日ぼくが夢の中で遊んでいたゲーム、メモをとり、その中身の整合性はとれていることがわかったものの、もしかして既存のゲームのなにかを思い出していただけか、そうでなくてもほぼ同じようなゲームがあるのを知らないだけかもという不安を取り除くための確認フェーズに入る。

こういう時はゲーマーの先輩方に聞いて回るのが一番で、新たなアイデアが浮かんだ時にも、ぼくはは毎度「こういうルールで、こういう感じの動きをするゲームって過去に似たのがありました?」と聞くことにしている。

そもそも、自分の経験や知識などたかが知れていると思っているので全然信用していないのだ。似ているものがあるかどうか、というのはすでに二番煎じかどうかというよりも、知らないでまま同じのを出す事故を避けるという意味が大きいけれど、実際のところルールも体験もコンポーネントの種類的にも「同じ」などということはそうそう起こらない。

けれど、作者同士の狙いどころがかなり近いところで交差していたりすると、自分自身は知らないまま作っていて意識していなかったにも関わらず、他者からすれば「実はそのゲームを遊んでから、ちょっとアレンジして一部分を変えて出しただけだ」というような見方がなされる可能性もあるわけで、そういったことは避けたいということ。

そして、ほんのちょっとしか似ていなくても、それに関するゲームをいくつか自分も調べ直すことで、「なるほどこの作者はここのこの部分に着目していたのか」ということを、実感をもって「知り直すこと」ができる。その時に受けた別の刺激がまた別のゲームへの創意として発動することもあるので、そういった二次的な効果も期待している面もある。

結果的に今回の「夢で見たゲーム」は、「あのゲームのここと、このゲームのこことそっくり」というほどはないにしろ、「あの雰囲気とこの雰囲気とその雰囲気くらいには通じるところがある」というくらいで、それほど心配するような結果ではなかったので安堵。

だけれど、それはぼくがクニツィアのゲームかと思って夢の中で遊んでいたくらいだから、それはクニツィアのルール的であるかもしれないのだが、果たしてそれが「Saashi & Saashiから出す傾向のもの」になるのかどうかは、これからの開発次第。

それはそうで、ライナー・クニツィアがうちにゲームを持ち込んできたとして、まったくSaashi & Saashiぽくないとぼくらが感じたなら闇雲にリリースするわけは当然ないので(そこは質の話から逸脱する価値観の話だし長くなるので割愛しますが)、ともかくそのあたりはシビアに見ていかないといけない部分になる。でも感触は良いんですよねぇ。

8月後半某日

宝井貴子さんと2人でレストランでSaashi & Saashi 会議をする。夕食がてらのミーティングは時々している。主に将来的な計画についての話の時。仕事部屋ではもっと事務的な事柄を決めるが(財政的な話など額面に関わることや契約に関わる話などは外ではできませんしね)、半年後1年後2年後といった先々のことは、外で話すほうがいろいろ可能性を広げる話し合いができているように思って、最近はそうしている。

リリースの順番とか時期とか。そんなに先々のことを決めるのは、自分自身はそれほど好んではいません。でも必要だからやっておくという感じ。

いま開発中のゲームを洗い出してみたら、わりと数があって自分でも驚く。この内のどれを順番に出すかというのは、わりと難しい問題なんですよね。というのも、興味だけの問題ではなくて、先々のことを踏まえて想像して計画しないと、直前に徹夜続きとかになるのも困りますし。

かといって、いま時点でネタがたくさんあっても一度にそう何作も出すことは避けたいという思いもある(新作の出荷とか契約のやりとりとか新規で一気に増えるのをできれば分散したい)ので、おそらく小出しが良いのだろうけど、問題はぼくに「飽き」が来るのも避けねばならないというところ。

リリースの時点ではおそらくその作品は数年前や少なくとも半年1年くらい前のアイデアであるわけで、当人には新鮮さはだんだん薄れてきてしまっている。そうしているうちにもさらに新しいアイデアがその時々で出てくるわけだから、その時々での「熱いうち」のアイデアのほうに、その時にすぐ取り掛かった開発中のゲームのほうに、より情熱を注ぎ込みたくなるのが人情で、しかし前もって段階的に計画していたスケジュールがあるとやはりそちらを優先させねばならず、という入れ違いの構造がずっと続く。それをどうにかしたいなぁという悩み。

いや、悩みというほどではないな……、作り手のわがままかな。できるだけそれを自分に許してあげられる体制作りを行なっていければ、とはずっと考えています。

8月後半某日

フィルムを巻いて!』の再版リリース情報をTweetして、自サイトにもアップする。

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アイコンが追加された『フィルムを巻いて!』新版(2020年9月)のカード

今回の再版バージョンは、海外との出版契約によって日本国内と中国語圏のエリアにしか出荷できない。つまり北米や欧州へSaashi & Saashiから出荷することができないので、海外からの問合せが来るをできるだけ少なくしたい意味もあって、Tweetの末尾にわざわざ「※諸契約によりこのゲームの販売範囲は日本と中国語圏に限定されます。」という一文を入れた。

その一文は日本のみなさんには全然関係がないテキストだったんですけど、書いた効果は少しはあったようで、「わたしの国へそのゲームを送れますか?」ではなく「いつになったら送れるようになりますか?」とか、「いつ欧州版が発売されるのですか?」という質問に変わりました。返信せなばらないのは同じだけれども、前提としてわかってもらっていて話が始められるのはありがたいのでした。

さて、この週末。台湾は高雄市で「ムーンライトフェスティバル」というゲーム販売イベントが開催されました。昨年このイベントにSaashi & Saashiとして出展したものでした。

それはわたしたちにとって初の海外出展でした。昨年その出展によっていろんな体験ができて有意義でしたので、実は今年は台湾を始め数カ国を連続的にイベント出展で回るアジアツアーを敢行しようと計画していたんですね。アジアのいろんな国のイベント主催者からお招きをいただいていたので、一気に回ろうかと考えていたのでした。もちろん今年は新型コロナの問題があって、敢行することは不可能になりましたが。

日本では例年通りのゲームマーケットが秋には開催できるのか、できないのか、現時点ではひたすら見守っているような状況ですが、すでに台湾では通常通りに近い形で大型イベントが開催されていて素晴らしいなと思います。

今年の「ムーンライトフェスティバル」ではビッグファン・ゲームズヤンさんのご協力によって、わたしたちの『エレベータ前で』がこのイベントのビッグファンのブースで販売されていました。作者は会場へ参加できなくても、作品は届いている、ということで幸せなことでした。

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国によって、人気の出るゲームが少しずつ違っているというのはあるようなんですね。『エレベータ前で』は昨年に出展した「ムーンライトフェスティバル」の会場でも感じましたが、とても受け入れてもらっているなと感じられて、特に同じ中国語圏の香港では継続的に出荷することができていて、現地でとても人気なのだと聞いています。それが文化的な背景が影響しているのか、それともアート面でうまくマッチしたのか、ルール的にしっくりくる難度だったのか、それはまだぼくもよくわかっていませんが。受け入れていただけていることは作者として大変ありがたいことだと感じています。

というわけで、今回はこのあたりで。

Saashi

2020年8月下旬

Saashi & Saashi
Twitter / WEB


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