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純喫茶リリーの朝

純喫茶リリーの駐車場は2台分しかない。
朝7時、そのうちの片方に赤いセダンが停まる。
車から降りてくるのはリリーのママだ。
つまり、この時点でお客さんが停められる場所は1台分しかなくなる。

ママが、カッカッカッとツッカケを鳴らして歩き、店の鍵を差し込んで扉を開ける。カランコロンカランとドアベルの金属音が響く。
たぶん、となり近所まで聞こえていそうなリリーの朝の音だ。

店に入ると、コーヒーと油が混ざったような朝の喫茶店独特の匂いが漂う。
ママはタバコに火をつけ1本吸いながら、
エアコン、FMラジオ、おしぼりウォーマーのスイッチをオン。
そしてコーヒカップ10杯分のお水が入る大きな白いポットに、お湯をたっぷり沸かす。
店にあるスイッチというスイッチをオンにしてから掃除を始める。
と言っても、小さなお店なのですぐに終わってしまうが。

お湯が沸くまでの間に全部のテーブルを拭いて。
昨夜のうちに洗って乾かしておいたスプーンを、シュガーポットにセットしつつお砂糖の量をチェック。
そしてそれぞれのテーブルに1個ずつ、灰皿を置く。

そして店の裏口に届けられている新聞を取りに行く。
この地域の日刊新聞と日経、そしてスポーツ新聞が2紙、全部で4紙だ。
それぞれの新聞の端を、バラバラにならないようにホッチキスで3カ所止めて、赤い本棚の上に並べる。

この辺りでちょうどポットのお湯が沸く。
そしてコーヒーを ゆっくり淹れ始める。
ここで一気に店が新しいコーヒーの香りでいっぱいになる。
朝は出勤前に寄ってくれるお客さんがいっぱい来る。急いでる人が多いので、お待たせてしてはいけない。
すぐに出せるようにオープン直前に淹れ始めるのだ。
これが1人で黙々とこなす、毎朝のルーティーン。
さぁ、開店の時間だ。

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