さだりり

昭和生まれ喫茶店育ち

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マガジン

  • 純喫茶リリー

    純喫茶リリーのお話

最近の記事

ジジと律子と笑っていいとも

萩原のジジは一人暮らしだった。 息子さんがいるらしいが、嫌われている、あまり仲良くないと噂されていた。 きっと今までにいろいろやらかしてきたのだろう。 息子さんは結婚したばかりと言っていたから、元ドロボーのジジに奥さんを会わせたくないのかなと、律子は考えていた。 「あいつはいかんでぇ」 と、ある日ジジがリリーにきて、大きな声で話し始めた。 どうやらタモリさんの悪口を言っているようだった。 新しく始まった「笑っていいとも!」という番組を見てからリリーに来たのだ。 律子に向かっ

    • 狙いは早朝

      「お祭りがあった次の朝は、よーけ お金が落ちとるでよー  りっちゃんも拾いに行ったらいいにぃ。」 萩原のジジは、毎朝5時くらいに起きて、開店前の近所の大型スーパーに散歩に行ってた。 開店前のスーパーにわざわざ?毎朝?とあるとき聞いたら、 お金が落ちてないか探しにいっているらしい。 「7時に行ってはもう遅い。先に誰かに拾われてしまう。6時には行っとかないかん!早起きはサンモンノトクって本当だに。」 「そんなに簡単にお金がもうかるなんてすごい!拾いに行きたい!」と、律子は瞳

      • 赤い女

        「私のママなのに、なぜみんな“ママ”って呼ぶんだろう」 と幼い頃の律子は不思議に感じていた。 純喫茶リリーのママは律子の母でもある。 ママは赤が好き。 リリーの壁も床も全部赤い。 もともと別の名前の喫茶店だったこの店を、そこで働いていたママが譲ってもらい、栓抜きさんに頼んで赤い店にしてもらったそうだ。 ちなみに車も真っ赤なブルーバードに乗っていた。 「ブルーバードなのに赤ってなんだよ」と、律子は6歳ながらに思っていた。 ママはいつも車のドアを勢いよくバンっと大きな音をさせ

        • 大巻工務店の2代目社長

          「ママ!いつものね」 モーニングサービスの時間が終わってから来るのは、リリーの斜向かいにある小さな会社、大巻工務店の2代目社長の大巻さん。 大巻工務店は、社長と社長のお父さんとお母さん、そして若い美人の事務員が1人いるだけの小さな工務店。 社長は派手なストライプのスーツを着ていて、髭を生やし、大きな焦げ茶色のサングラスをしていた。 律子は、口に出したことはなかったが、テレビのコントの社長みたいだなぁといつも思っていた。 大巻工務店では、社長のお父さんもお母さんも会社では薄

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        • 純喫茶リリー
          10本

        記事

          濡れ衣を着せる山田のババ

          「りっちゃん、ええもんやろかぁ」 と、バッグの中からゆで卵をそのまま出して律子にくれる山田のババ。 「今ブーケに行ってきたから」 「ブーケ」とは、リリーから歩いて3分くらいのところにある喫茶店だ。 リリーのモーニングセットはトーストだけだが、ブーケのモーニングはトーストの他にゆで卵もつく。 オババは「ブーケ」でモーニングを頼んで、トーストだけ食べてゆで卵は食べずにカバンに入れて持って帰るのだ。 平日の朝から喫茶店のハシゴ。 別のお店でもらってきたゆで卵を、別の喫茶店の娘に

          濡れ衣を着せる山田のババ

          ヤンキーのみどりちゃん

          リリーに来る大人の中で一番若いお客さん、それがみどりちゃんだ。 律子をかわいがってくれる派手でちょっと太ってるお姉さん。 金髪でよくオーバーオールを着ていた。 名前を意識しているのか、緑色のトレーナーをよく着ていた。 リリーに来るお客さんの中ではめずらしく、真っ赤じゃないピンクの口紅をしていた。 律子はみどりちゃんは大人の女の人だと思っていたけど、後から聞いたら、高校を中退して妊娠中と言っていたから17〜18才だったのかもしれない。 起きる時間がバラバラなみどりちゃんはいつ

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          半分寝てる小熊さん

          純喫茶リリーの近くに、大きな会社の小さな支店がある。 そこに勤めているひとりの女性が毎朝リリーにやってくる。 大きめのべっ甲のメガネをかけて、チリチリのパーマ頭、背が高くて細くて猫背。年は30代半ばくらいの小熊さんだ。 騒がしい店内に、1人ぬぼーっと黙って入ってくる。 一言も喋らない。 目が覚めるような真っ赤な口紅と真っ赤なマニキュアを塗っているのに、雰囲気はすごく暗く、話しかけるなオーラ全開。 うつむいたまま、4人がけのテーブルの端っこに座る。 ママは、小熊さんが来ると「

          半分寝てる小熊さん

          栓抜きさん

          カランコロンカラン ドアが開き、ドアベルが鳴る。 「ママおはよう、ホットね」 近所の大工さんが一番乗りだ。 いつもコーヒー牛乳みたいな色をした作業着でやってくる。 細っこくて、日焼けしてまっ黒い。 顔の形が平べったくて顎が小さくて、栓抜きみたいな形をしてる。 律子はこのおじさんを心の中でこっそり「せんぬきさん」と呼んでいた。 ちなみにこのせんぬきさんが、後に律子の家を作ってくれる人だ。 いつもニコニコして優しそうな人。 常連さんは、何も言わずともモーニングセットなのだ。

          栓抜きさん

          純喫茶リリーの朝

          純喫茶リリーの駐車場は2台分しかない。 朝7時、そのうちの片方に赤いセダンが停まる。 車から降りてくるのはリリーのママだ。 つまり、この時点でお客さんが停められる場所は1台分しかなくなる。 ママが、カッカッカッとツッカケを鳴らして歩き、店の鍵を差し込んで扉を開ける。カランコロンカランとドアベルの金属音が響く。 たぶん、となり近所まで聞こえていそうなリリーの朝の音だ。 店に入ると、コーヒーと油が混ざったような朝の喫茶店独特の匂いが漂う。 ママはタバコに火をつけ1本吸いながら

          純喫茶リリーの朝

          純喫茶リリー

          “石を投げれば喫茶店に当たる” この辺りの地域はそう呼ばれている。 大通りから一本奥の路地裏の角にひっそりと佇む赤いテントの喫茶店。 そこに純喫茶リリーはあった。 カウンターに4席、4人がけのテーブル席が2つ、3人がけのテーブル席1つ。 そして、一番奥の窓際に、インベーダーゲームが1回100円で遊べるゲームテーブルが1台。 お客さんが17人で満席になるこじんまりとした赤いお店だ。 ママの趣味なのだろう、床も椅子も壁紙も全部真っ赤だ。 新聞と週刊誌が並んでいる本棚までも赤い

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