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日本、こんな所に都会人。ぽつんと山の中。(台詞のみ)

「ねえ、、、私、死にたい、、、、、何とかして。」

  東京、あるシティーホテルのベッドの上。


「さっきまで”イクっ”とか”死ぬっ”とか言ってたのとは別か?……訳を聞かせろ。なんとかするのはそれからだ。」
「人間が嫌い、、、見た目で私を決めつけるし、、、自分じゃ正しい事言っても、『似合わねえっ』て言われるだけだし。」
「なら、着る服、普段からそうしろよ。立ち居振る舞いからそうしろよ。お嬢様。」
「してたわよっ!ず~っと、そうしてたわよ、、、噂が広まるまでは、、、」
「あ~、、あいつか、、、一晩、ヤッタとかで言いふらしてたボンボンかぁ~」
「あいつが言いふらしたせいで、行くとこ行くとこでズバリ誘ってくるし、違うと言っても信じてくれないし、、、
 見合いの話も幾つも潰れたし、親も冷たいし、友達と思ってた奴らもブロックしまくりだし、
 開き直ってそれらしい服着て、クラブとか行っても、チャラい奴しかいないし、ホテルのバーで飲んでも、だっせー中年しか話聞いてくんないし、、、」
「ん、?だっせー中年って俺の事か?」
「いつかのパーティでも、一人浮いてたし、、、よれよれのジャケット着てさ。ドレスコードって何?って顔で。」
「中身もだっせー中年で、持ってるものも安物ばっかりで、高級品に縁の無い男だ。しょうがねえだろ。」
「でもさ、一番まともに私に接してくれたって思ったんだよねぇ~。丁寧な言葉でさ。」
「ハイ、営業トークぐらい、わたくしめでも心得ております。伊達に20年、業界に居座ってはおりませんので、悪しからず。」
「判ってるわよ、それぐらい、、、私だって。」
「っで、死にたい理由は、ぼっちになったからってか?それとも、俺程度の男にしか興味が無くなった自分が憎いのか?」
「ん~、、、メンヘラなの、私。実は昔っから心療内科で薬貰ってて、、、時々飲んでる。飲んだ時、あいつとヤッた。
 それが、悔しいの、、、自分じゃないのに、自分だったの、、、、情けないの、、、だから。」
「メンヘラの使い方、合ってるか?……人に会いたくないんだったら、山の中で住むか?誰も訪ねて来ねえような所。」
「何でそんな所知ってんの?」
「ああ、俺の持ち物がある。長野の南の方、山超えたら静岡ってとこ。」
「あんたの?出身がそこ?」
「いや、おやじの実家。固定資産税は俺が払ってる。直系の相続人が俺一人になった。おととしまで爺ちゃん、生きてた。」
「あんたが死んだら、税金は?」
「知らねえ、、、村で接収すんじゃねえの?知らねえけど。」
「そんな山の中で、何すんの?」
「ワサビ。清流でワサビを作るんだ。で、収穫したら里へ売りに行く。」
「誰も訪ねて来ないの?」
「郵便屋か宅配便、あとは役場の人間ぐらいだ。隣の家まで歩くとゆうに一時間はかかる。車なら10分だけどな。」
「……携帯が使えそうにないじゃん、、、」
「今から死のうと思ってる奴が、電波が届くか心配すんのか?ハハハハハっ。」
「そうじゃないけどさ、、、あんたが具合悪くなったら、救急車呼ばなくっちゃいけないじゃん。」
「そこまで考えたのかよ、、、驚いた。思考がどっか飛んでんな、お前。」
「それが嫌で、思い込むようになったのっ!、、、考えてること、すぐ別な事になっちゃうし、さっきまでの事、忘れてるし、、、それが病気だってみんな騒ぐし。」
「心配すんな。隣の山にふもとの里に向けてアンテナが4本立ってるよ。携帯はバリバリに立つ。」
「行く。一緒に行こ。養ってよ。」
「決断、早っ!、、、そうだよな、俺の仕事も東京である必要ねぇしなぁ~。動画送ってくれりゃ新人売り出し用の提灯記事なんてな、相手を見なくても書けるな、、、行くかな?」
「行こ!、、、その家タクシー呼べる?車ある?買う?、アウディー?BMW?」
「そんな大きな車は通れねえ。軽四で精一杯だ。おっ、救急車も通れねえぞ、あの道は。ハハハ。」
「え~、、、病院、行けないじゃんっ!私、軽自動車運転した事無いし、、、」
「慣れろ。それに何の病院だ?」
「心療内科で薬貰うの。」
「薬、止めたら良いんじゃね。良い機会だ、止めろ。」
「止めたら、ハジケルじゃん、、、私。」
「それを超えたら楽になるさ。……それにその類《たぐい》の薬は、シャブやLSDと似たようなもんだ。一生飲む事になるぞ。」
「……そうなの?、、、」
「大河ドラマで主役級の役貰って、放送前に薬で捕まった女優居たろ?、、、麻薬依存の治療かなんかで薬貰って、同じじゃんってプッツンしたやつ。」
「……そうだったの?、、、」
「あくまでも噂ですけどね~。」
「わかった。もう病院行かないっ。」
「何と、物判りの良いお嬢様。」
「っと言う事で、さっそく行こう。山の中、わさび畑、ぽつんと一軒家。」
「……よし、行くか。俺と一緒に。」
「イク!、、、でももう死にたいって言わない。」
「お~、、、落語見てえな”落ち”だ。考えたなぁ~、、、思考が飛んでる分、面白そうじゃねえか。お前との暮らし。」
「まかせといてっ!」
「ハハハハハっ」
「フっ、フフフフフ」

#2000字のドラマ

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