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010 解決策は、ズバリ、遺言です

前回は、借金の相続は資金を貸し出している債権者(金融機関)を交えた合意形成により決まることを述べました。そして、本稿においては、相続における合意形成の重要性とその困難さについて述べてきました。今回は、その解決策について、述べたいと思います。相続における様々な困難を解決する方策は、ズバリ、遺言です。相続問題の事前対策の王道は遺言であり、また、遺言が最も優れていると思います。これが、かれこれ20年にわたり相続に関する問題の解決を仕事としてきた私の結論です。遺言ってすごいんです。ここで、遺言に関する判例を紹介します。平成3年4月19日の判例は、遺言の法的効果について、特定の遺産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言がある場合には、原則として、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(=遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されることを判示しています。遺言がない場合には、平成28年12月19日の判例を踏まえますと、(プラスの)相続財産は、相続人による遺産分割協議が完了するまでは誰の財産とも言えない状況、言わば「宙ぶらりん」な財産になり、遺産分割協議の完了によりはじめて承継者が決まることになります。すなわち、相続開始の後、「宙ぶらりん」な期間を経て、特定の相続人が財産を承継することになります。これに対して、遺言があって「この財産はこの人に」と相続財産の行く先が特定されている場合には、平成3年4月19日の判例を踏まえますと、相続開始と同時に、イメージとしては「パチン!」と一瞬にして切り替わるように、当該財産はその名指しされた相続人の財産となります。遺産分割協議を待つことなく、その財産権の移転は完了しているのです。この両者の違いは相続手続きの現場においてはとても大きな違いとなって現れます。遺言がない場合の相続手続きは相続人全員参加になるのに対して、遺言がある場合の相続手続きは遺言により名指しされた人において手続きを進めることができるのです。遺言は、相続財産の行く先を決めるにとどまらず、相続手続きを主導する人をも決める効果を持っているのです。

この判例について、さらに詳細な情報を必要とされる方は、裁判所のウェブサイトの裁判例検索をご参照いただければと思います。https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52445

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