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3月のライオン 16巻 堪能の余韻


15巻発売からなんと1年9か月。
待ちに待った新刊が今日発売され、すでに2回読み終わって胸に抱きしめている。


*  *  *


読み進めている最中からその表現に「おおおっ!」と静かに興奮した場面がある。

16巻の2話目、「12月の雨①」
宗谷名人が地方でのタイトル戦に負けた後の流れだ。

一切の音の表現が出てこない。
対局で疲弊した宗谷名人は部屋に戻り、水の波紋を背景に薬を飲み、そして水面下に沈んでいく。

これは音の聞こえない世界にすべり込んでしまったことを表しているのだろうか。

翌朝、移動して京都の家に戻る。
これまで全く登場したことのない人物が二人、家にはいて、けれどセリフどころかバックに一切の音の情報が描かれない。
音どころか説明も、文字一つもなし。そのままその二名と宗谷の祖母との3人、そして部屋に戻り一人棋譜を研究する宗谷の一日は過ぎていく。

その気配の静けさたるや・・・・

私の耳までしーーーんとしているような錯覚。

枠が黒く塗られていること、文字が一つも入れられていないこと、私に分かる表現の工夫はそれだけだが、世界から一切の音が消え去り、むしろ目に映る家の中は生き生きとしているのだけれどそこからある意味隔絶された宗谷名人の世界がひしひしと伝わってくる。

すごい。

だがそれは、決して孤独な場面ではない。
何の説明もないが、新しい登場人物二人がどういう人なのかとか彼らと宗谷の祖母が築いている温かい関係とかが絵によって伝わってくるし、宗谷名人もその温かいつながりの中にいるのだということも伝わる。

けれどそのうえで、耳の不調をかかえる(そして多分対局続きで疲れ孤独の中に沈んでいる)宗谷の世界を描き切っている。


翌朝。

宗谷が対局に負けた夜から初めて、音が戻ってくる。朝の光とともに。
黒枠の音のない場面の後半は、宗谷と関係のない、祖母と新人(?)二人のシーンなのだけれど(宗谷はそれを目にしていないのだけれど)、音とともに宗谷がこちらの世界に浮上してくることへの大事な伏線なのだろう。

朝の場面は枠も白くなっていた。

そしてこの回のラストシーン、ショパンと雨がまた・・・!!
これ以上は書かないけれど、憎い、痺れる。(語彙力)


* * *


羽海野チカの漫画の特徴だが、コマとコマの間の横の黒枠に、モノローグが横書きで挿入されることがよくある。
今回も各話のプロローグやエピローグにこの手法が使われているのだけれど、そこにつづられる「言葉」のなんと力のあることか。

私は広く場面全体をとらえることが苦手で、最初は縦書きのセリフを中心にコマを追ってしまう。
けれどふと気づくと、コマとコマに挟まれた黒枠に白い文字でモノローグが浮き出てくる。

背景となった漫画の絵やセリフと重ねて味わってみる。

その時、その言葉の波がひたひたと押し寄せて沁み込んでくる。あるいはその言葉の波がざっぷーんと大きく私を飲み込んでいく。

そのくらい、挿入された言葉たちが息づいて生命力を持っている。


そして16巻ラスト、零ちゃんは、その名の通り零(0)に辿り着けた。
それは二階堂を通してしか語れない零ちゃんの変化だろう。
最後の零ちゃんの姿、感無量、そしてかわいい。

二階堂君も0になれるといいのにね。ブッダになって光ってたけどw

あとワンピースの扉絵みたいに、16巻の各話の扉絵がサブキャラたちの日常を続き物で描くスタイルになっていてほのぼの。


追記
今見たら15巻の終わりから扉絵が繋がってたー。長すぎるブランク⁈3つ目の理由も間長すぎ(T ^ T)
15巻の終わりは心配していたのだけれど16巻流れが変わった。別ルート(*^◯^*)




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