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勝手に10選〜イカしたアコースティックロック邦楽編(前編)〜


(前記)

最近、アコースティックロックと銘打って洋楽編、ビートルズ編と勝手に10選してきた。

やはりアコースティックギターが主軸になってくると、どこかに独特な暖かさ、煌びやかさを感じる事ができて、エレキギターとは趣が異なる雰囲気が醸し出される。

そんなアコースティックギターが主軸となる邦楽におけるアコースティックロックを今回は勝手に10選する。


・チェインギャング

1987年にザ・ブルーハーツのシングルによって発表されたシングル"キスしてほしい"のカップリングとして収録された曲だ。

作詞作曲は真島昌利(以下マーシー)さんが手掛け、リードボーカルもマーシーさんが務めた。

アコースティックギターが主軸となり、ブルースの香りも漂う、重厚感に溢れるロッカバラードだ。

アコースティックギターのストロークから曲は始まる。
普段のブルーハーツの疾走感に溢れて、軽やかなロックンロールとは異なる世界観だ。

題名の"チェインギャング"とは、ソウル界におけるスター、黒人の歌手であるサム・クックの曲名にその名があり、鎖に繋がれて強制労働を強いられる囚人の事を意味する。

歌詞は自暴自棄になった主人公の頭の中における葛藤を示し、世の中におけるしがらみみたいな物事に対して仮面をつけて生きて行くのに疲れたが、葛藤と相対して結局は人を愛する事の大切さを知る、という解釈をするが、抽象的で散文的な歌詞なので、聴き手の解釈次第だろう。

マーシーさん自身、マーシーさんが自暴自棄になっていた時に書いた曲と語っており、曲全体から、ヒロトさんのブルースハープやコーラスが華を添えて、そのやるせなさや切なさが痛いほどに伝わり、歌詞が自在に形を変えて聴き手の心に刺さる名曲である。 



・DEAR ALGERNON


1988年に氷室京介さんのシングルとして発表された曲で、ソロキャリアにおいて2枚目のシングルとなる。

作詞作曲は氷室京介さん自身による作品であり、ALGERNONとは、ダニエル・キイス氏による"アルジャーノンに花束を(Flowers for Algernon)"に由来しており、詳しく書くとネタバレになってしまうが、ALGERNONとはこの小説において重要な役割を果たしている。

氷室京介さんによる初のソロアルバムのタイトルが"Flowers for Algernon"であり、この曲は表題曲的な役割と言えよう。

氷室さんのボーカルに誘われる様にアコースティックギターのストロークと共に曲が始まる。

氷室京介さんは言わずと知れた元BOOWYのリードボーカルであったが、BOOWYの楽曲でこの曲の様なアコースティックギターが主軸となる曲が無く、特にバンドの後半はデジタルの要素が強くなっていた為、反面、氷室京介さんのソロとして、BOOWYとは異なるすごく温もりみたいなものを感じさせるミドルテンポのバラードである。

歌詞は、簡単に要約してしまえば、この世の中を人がイノセント、ピュアであればある程に、どのように歩めるのか、という主題であろうか、アルジャーノンが自身のメタファーとも取れる。
ダニエル・キイス氏の小説を読んでから聴いて頂くと更に深いシンパシーが得られる。

ソロになった日本におけるKING OF ROCKである氷室京介さんが、ミドルテンポのロッカバラードの真髄を見せつけてくれる素晴らしい曲なのだ。



・I have a dream #1


1991年にチェッカーズによって発表されたアルバム"I HAVE A DREAM"の表題曲であり、アルバムのオープニングをアコースティックバージョンで、ラストをバンドバージョンで飾る曲だ。

作詞は藤井郁弥(フミヤ)さんで、作曲は弟の藤井尚之さんが手掛けた曲である。

シングルにはなっていないが、後期のチェッカーズにおいては欠かせない名バラードである。
解散後も藤井フミヤさん、藤井尚之さん、F-BLOOD(藤井フミヤさん、藤井尚之さんの兄弟によるバンド)、アブラーズ(チェッカーズの楽器陣、武内享さん、大土井裕二さん、藤井尚之さんによるユニット)にて解散後30年経っても、元チェッカーズのメンバーによって歌い継がれているのだ。

元々はラストを飾るロックバージョンがレコーディングされ、アルバムの表題曲となったのだが、ミックスダウンの段階で、アルバムの頭に弾き語りのバージョンを入れてはどうだろう、というアイデアが出て、急遽1発撮りで、武内享さんと藤井尚之さんのツインアコースティックギターと藤井フミヤさんのボーカルにてレコーディングされた。

素晴らしい壮大なラブバラードである。
題名は、マーチー・ルーサー・キング牧師の有名なスピーチに由来する。
歌詞は、もしも僕が違う国に生まれても、肌の色が違っても、宗教が違っても、また恋人と自由に愛し合えます様に、という壮大なある種、究極のラブソングだ。

曲の構成はAメロとサビの繰り返しでシンプルであるが、サビは全て、

昨日を変える事など 誰にも出来はしないけれど
明日を夢見る事は 誰にだって出来るから
今日より素晴らしい明日を

のみだ。
筆者が大好きなフレーズである。

このミニマムな弾き語りで、これだけ全ての人に語りかけ、心に刺さるラブソングを、是非1度聴いて頂きたい。



・Bang!


1992年にブランキー・ジェット・シティによって発表されたアルバム"Bang!"に収録された表題曲だ。

浅井健一さん(以下、ベンジー)の楽曲は、まるで魔法がかかった様に、その曲ごとの世界観に誘われる。
その、時に激しく、時にロマンティックな、まるで夢の中を彷徨っている様な素敵な歌詞とフレーズ、元来ぎたギターリフの神様の異名を持つ程のキャッチーで美しく、時に激しいギタープレイで、聴く者の心を、さっと攫って行くのだ。

この曲もアコースティックギターをベンジーが魔法の杖の様に操り、聴く者を夢の中や、映画のワンシーンに連れ出してくれる。

行く場所も曖昧に、ルート66あたりの寂れたモーテルで戯れるカップル。筆者にはそんなワンシーンを連想する。まるで映画のワンシーンの様に。

ミドルテンポのブルースやカントリーやロカビリーの香る実にカッコいい曲だ。
曲の構成はボーカルのパートとイカしたギターリフを伴った間奏の繰り返しから構成され、転調を用いる事で実に緩急を生かしている。

ベンジーの作り出す世界に数分間身を委ねる事は、とても素敵で素晴らしい時間の過ごし方なのだ。



・愛し愛されて生きるのさ


1994年に小沢健二さんによってシングルとして発表された曲で、アルバム"LIFE"からの先行シングルだ。

ロックやダンスミュージックに元気があった1990年代初めに、いきなりアコースティックギターを主軸に明らかにフォークソングとは異なり、ポップでジャジーなロックが出現した。

小山田圭吾さん、小沢健二さんの率いるフリッパーズ・ギターである。
そして追随する様に登場したのがピチカート・ファイブ、オリジナル・ラブなど、アコースティックに洗練され、アコースティックサウンドが見事にソフィスティケートされたムーブメントが起こるのだ。

後にこのムーブメントは"渋谷系"と呼ばれるが、このお洒落でレコード、CDも売っている街という、単純かつ限りなくダサく、安直なカテゴライズをされ、やがてムーブメントは去る。
筆者の意見があるが、新たな可能性があり、伸びしろがあるアコースティックサウンドの新境地を一過性のブームで終わってしまうのはこのふざけたカテゴライズのせいでは、と思ってしまう。

フリッパーズ・ギターを解散した小沢健二さんによる本曲であるが、アコースティックギターのストロークが主軸となる軽快かつシンプルな曲であり、メリハリの効いたメロディラインの美しさが秀悦している。

歌詞も実にストレートなラブソングで、ふと大人になり、10代の頃を振り返りつつ、これからも人は愛し愛されて未来に進んで行くものだ、というポジティブな内容だ。

アコースティックロックが洗練され、ソフィスティケートされ、キャッチーなメロディラインや、聴き手によって形を変えながらシンパシーを得られるストレート歌詞が心にスーッと入り込んでくる実に気持ちの良い曲である。


(後期)

後編に続く

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