窃盗癖(クレプトマニア)患者と窃盗罪―不法領得の意思に着目して―
今回はタイトル通り、窃盗癖(クレプトマニア)の患者と窃盗罪について、特に不法領得の意思の観点から検討してみたい。
参考文献は以下の通り。
それでは本題。
窃盗癖(クレプトマニア)とは?
クレプトマニアは、れっきとした精神疾患である。
「この障害の基本的特徴は、物を盗むという衝動のために窃盗を繰り返すことである。ほとんどが万引きである。ただし、盗むのは、個人的な実利や金儲けのため、復讐のためといった特定の動機によるものではない。窃盗者は、通常の窃盗と異なり、盗んだものを捨ててしまったり、人に与えたりする。…盗む物よりも盗みの行為それ自体が患者にとって意味がある。そこではまた、捕まる恐れを考慮することなしに、周囲からすぐ気付かれる状況で窃盗が実行されることがある。患者は、盗む際の緊張感の高まりと、盗みの遂行後に得られる充足感、解放感によって、欲求不満、抑うつ気分が一気に解消され、快感がもたらされることを体験する。しかし盗みを後悔して、後に抑うつ状態になることもしばしばある。」(以上『標準精神医学』510ページより引用。太字は筆者による。)。
不法領得の意思
窃盗罪の成立には不法領得の意思が要求される。
その内容としては、権利者排除意思と、利用処分意思が要求される。
その中で今回問題となるのは後者。
利用処分意思。
これは、その名の通り、財物を利用処分する意思のことをいう。
問題の所在
そうすると、クレプトマニア患者の物を盗む行為は、利用処分意思が無いため、窃盗罪が成立しないのではないか、という問題意識が生じる。
クレプトマニア患者は、窃盗の対象たる物を利用するため、ではなく、窃盗行為そのものを目的としているからである。
ただ、実際にはクレプトマニア患者も、盗んだ物をその後結局は利用処分するのである。
これを理由に実務では、クレプトマニアを原因として窃盗罪の成立を否定することはしないようである。
私見
私はこの実務の運用には賛成できない。
行為当時に利用処分意思が認められない以上、窃盗罪の成立は否定すべきである。
したがって、行為者には占有離脱物横領罪が成立しうるにとどまると考える。
皆さんもぜひこの論点について考えて欲しい。
コメント等ぜひ。
ここまで読んでくれてありがとう。
参考文献追加。
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