カズ

世間知らず

カズ

世間知らず

マガジン

  • 短編

    情景を思いつくがままに文章にしてみました。 そしてそれを集めてみました。 インスタントフィクションです。

最近の記事

キリストから学ぶ

オリンピック組織委員会の数人やDaiGoさんの炎上からしばらくたってなお、寄せられた批判コメントについて非常に違和感があるものが未だに記憶に残っていたのでそれについて考えてみた。 罪と石炎上に際して寄せられた違和感のある批判とは、すなわち社会に出るべきではないというものである。曰く、取り返しのつかないことを言ったのだからもう2度と社会に復帰すべきでないや、許されないことをしたのだから表に出るべきではないというものである。 社会的に重大な失敗を犯した彼らは金輪際日の目を浴びる

    • 願望[インスタントフィクションその33]

      この広い研究室に所属する学生は私だけであり、それゆえに黙々と理論にのめり込んでいく。充実したこの部屋には、歴代の所属学生たちがゴミ捨て場や自宅から拾ってきた各種白物家電が揃っていた。そんな部屋に自分一人の状況とはあまりにも宝の持ち腐れであり、最大限できる限りではあるが利用させてもらっている。そんな自分だけの神聖な時間にノックの音が響いた。 「だめだー。全然進まねぇ。」 隣の研究棟に通う学部時代からの友人だった。やむなしと思いつつ二人分のコーヒーを入れる。まあ、私の研究も順調と

      • 皮肉[インスタントフィクションその32]

        「みろよこれ!スッゲェ綺麗だぜ、この満点の星空」 けいたが見せたスマホの画面に一面に広がる幻想的な星空を見て、しゅんたは言葉を失った。世の中にこんな景色があるなんて思えなかったのだ。 「スゲェだろ?凄すぎて保存しちゃったぜ」 満面の笑みを浮かべながらけいたがスマホを片付ける。もうすぐ駅に着く。部活終わりに2人で帰るのはいつもの日課で、けいたはいつも面白いものを見つけるたびにしゅんたにみせてくる。しゅんたはいつだってそれは受け入れて、いつだってけいたが思った通りの反応を返す。た

        • 普通[インスタントフィクションその31]

          多分全ての人は自分が知らない世界を理解できないのだと思う。 「お前お父さんいないんだってな。かわいそうなやつ。」 父親がいないことは可哀想なことなのか、僕にはわからない。僕の家では父親が一年に3回ほどしか帰ってこない。それが当たり前だったしそういうもんだと思ってた。でもテレビで見るドラマの世界では家にはいつも両親がいて、これが一般的な家族なんだと漠然と理解はしていた。そんなふうだからかむしろこうも思える。 「お土産いっぱい買ってきてくれるし、普段は怒られないから楽だよ。お母さ

        キリストから学ぶ

        マガジン

        • 短編
          33本

        記事

          普遍[インスタントフィクションその30]

          「至極当たり前のことを教えてやろう。人間全てに人権があり、その全ては尊重されなければならない。これは過去から未来において普遍的なことだ」 そうだろう。だがしかし、本当にそれは普遍的なことなのか。遠い過去、人間が人間の所有物として扱われるのが当たり前である時代があった。その時代においてはその当たり前こそが普遍的であろう。 「それは人間の過ちだ。人間が同種たる人間を縛るなどあり得ることではない。だからこそそれは続くことはなかったのだ」 否定したくなるのは理解できる。しかし本当にそ

          普遍[インスタントフィクションその30]

          不死[インスタントフィクションその29]

          どん、どん、どん、と扉が激しく叩かれた直後に、間髪入れず罵声にも似た声が飛び込んだ。 「なにしてんさ、何時まで寝てるつもりだい」 少年は寝てはいなかったが、なにをひていたわけでもなくそれゆえに少年は何をしていたかがわからず、もしかしたら少年は寝ていたのかもしれない。 「さっさと朝ごはん食べてしまいな!」 そう言い終わる前にはすでに足音は遠ざかっていた。まるでそれは嵐のように現れ、嵐のようにさっって言ったのだった。少年は身支度を済ませると今へと向かい、朝食を取りはじめた。そこに

          不死[インスタントフィクションその29]

          旅[インスタントフィクションその28]

          喧騒に包まれたため発射台に佇む一つのロケット。 「3、2、1、テイクオフ」 スピーカーから流れる合図と同時に凄まじい音と光を放ちながらその身を徐々に上昇させていく。 「行くぞ!音を届けに」 船長の一言に私たちはその顔に喜色を浮かべる。 「そうだ。私たちは音を運ぶんだ。」 何もない空間を貫き、目標到達点へとたどり着いた私たちはそのまま内部へと入っていく。ここからは徒歩だ。扉を叩いてきたことを告げ、カタツムリに挨拶をしてさらに奥へ、私たちは音を届けにきたんだ。

          旅[インスタントフィクションその28]

          命[インスタントフィクションその27]

          「うんこ踏んだ!きったねぇ!」 大声が公園に響く。ギョッとする通行人を気にもせず男は不機嫌そうな顔を隠そうともしない。その目線の先は自身の足の裏、どうしてペット禁止のこの公園にうんこがあるのかという疑問や憤慨をぶつけるように睨め付ける。 「うわぁ!こっちくんな!」 何を言う間も無く今度は虫と格闘する男の悲鳴が上がる。虫を恐れる人というのもここ最近では珍しくない、どころかむしろ多いくらいではなかろうか。そう思いながら昼休憩の恒例となるTwitterでの時間潰しを行う。トレンドに

          命[インスタントフィクションその27]

          生きる[インスタントフィクションその26]

          近年増えた獣害を取り上げたニュース、あまりに被害が大きいために罠や猟銃による殺処分が検討されているという報道にコメンテーターが好き勝手に意見している。 「でもさぁ、最初に人間がテリトリーを奪ってきたのにそれを取られそうになったら殺しますってどうなの?」 「そうはいっても子供が被害に遭ったら手遅れになっちゃうよ。なんとかしないと」 「畑の被害もかなりバカにならないみたいだしね」 「でもさぁ、やっぱり可哀想だよね。生きるために山から降りてきてるのにそこで殺されるなんてさぁ。やっぱ

          生きる[インスタントフィクションその26]

          山彦[インスタントフィクションその25]

          不思議な穴がある。大通りの道から誰もが素通りするような脇道に逸れて少し進んだひらけた場所に、液体が並々に注がれた穴があるのだ。液体に色がついている様子はないが不思議と中を見通すことはできない。なぜ僕がこの穴を見つけたのか、なぜ脇道に逸れようと思ったのか、それすらもわからないのになぜかやるべきことはわかっている気がする。それを実行するとしよう。 「じゃんけんぽん!」 驚いた。突然穴から手が出てきたと思ったら数字の2を表していたのだ。私は0を示していたのを察したのか、もう一つの手

          山彦[インスタントフィクションその25]

          有難[インスタントフィクションその24]

          「おーぅい。どおこいくんだあい」 壮年の男の大きな声が響く。誰もが聞こえる大きさに声に誰もが反応を示すことはない。多分他所から来た人がいたら一目見たらわかるんじゃないだろうかと思えるほどに、だれもが男がいないものとして扱う。それは本当に聞こえていないようで心の中で少し不気味に感じるが、隣に苦笑いで男に目を向けている少年を認めると私はそこでやっと安堵の息を吐いた。 「まあた。いってらぁ」 「あんちゃん、おっちゃんにちゃんと言ったほうがいいんでないの?」 「言えるわけなかあ、おや

          有難[インスタントフィクションその24]

          逃避[インスタントフィクションその23]

          「こんな時代に生まれたらならば、どれほど充実した人生を送れただろうか」 堆く積まれた本に新たな一冊を加えつつ、私は今読んだ本の内容を思い返す。どうにも張り合いが持てない私の人生において、読書ほど熱中することはなくそれ故に架空の物語に私が生きることができたならと思わずにはいられないのである。 「どうして現代に生まれたのだろうか」 ふと思った疑問に対して新たな疑問が湧くのを感じる。 「現代だから充実しないのだろうか」 本のは様々な人生の追体験であり、記憶である。つまり、自分ができ

          逃避[インスタントフィクションその23]

          蛙[インスタントフィクションその22]

          この街は大いに有名である。今や蛙の街と言えば誰もが聞いたことがあるほどにその存在を万人に知らしめている街、それがこの私が生きる街なのだ。街の中を見れば必ず目に入る蛙。青蛙やイボガエル、牛蛙まで様々な蛙が街をゆく。しかしこの街でありえないのが、蛙の存在が時期に関わらず見られることであり、その要因こそが町中に配置された大小様々な蛙の置物である。それは一見蛙に見えないようなものから、紳士な蛙、蛙を象った家など多岐にわたっている。それだけではなく、季節など関係ないと言わんばかりの全長

          蛙[インスタントフィクションその22]

          幻[インスタントフィクションその21]

          何かを見つけたのだろう、ゆうたは突然大声で叫んだ。 「みろよあれ!水たまりだぜ」 ここ数日は一滴の雨も降っていないというのに水溜まりがあると主張するゆうたを横目で一瞥すると、たつきはゆうたが指さす方に目を向けた。 「遠くてよく見えねぇよ。ほんとに水たまりなんか?」 当然であろう、立っているだけで汗が滴るたつきの顔には訝しむ表情がありありと浮かんでいた。 「どっちが先に入れるか競争しようぜ!」 汗が飛び散ると錯覚するほどの勢いで、それも満面の笑みを浮かべて振り返ったゆうたの提案

          幻[インスタントフィクションその21]

          プレバトチャレンジ「雨宿り」

          夏の夕 かおる予感に きこゆ雨音

          プレバトチャレンジ「雨宿り」

          矛盾[インスタントフィクションその20]

          感情に抗うのは簡単で、理性的であることは容易であると、そう私は信じていた。一度立ち止まって考えてみれば必ず理性的になれると信じて疑わなかった。でもある日気づいてしまった。統計学で有名な先生が憤慨しているのであるが、全く統計学を用いての分析ができていないのである。これほど優れた能力を持っている人物ですら自身の武器を使いこなせないとは如何なことか。彼は怒っていた。悲しんでいた。そうして彼は必死で叫んでいた。自身の得意とする統計学すら使うこともせずに。彼はいま感情に支配されているの

          矛盾[インスタントフィクションその20]