皮肉[インスタントフィクションその32]

「みろよこれ!スッゲェ綺麗だぜ、この満点の星空」
けいたが見せたスマホの画面に一面に広がる幻想的な星空を見て、しゅんたは言葉を失った。世の中にこんな景色があるなんて思えなかったのだ。
「スゲェだろ?凄すぎて保存しちゃったぜ」
満面の笑みを浮かべながらけいたがスマホを片付ける。もうすぐ駅に着く。部活終わりに2人で帰るのはいつもの日課で、けいたはいつも面白いものを見つけるたびにしゅんたにみせてくる。しゅんたはいつだってそれは受け入れて、いつだってけいたが思った通りの反応を返す。ただ、今日だけは違った。しゅんたが声すらも上げなかったことなど今までなかった。多分それほどに感動したのだろう。そう思ったけいたは早々に話を切り上げると電車から降りる準備をする。
駅を出てしばらく話をしながら帰路を辿る2人、いつも通りの場所で別れて、そこからは1人で帰る。しゅんたは今日もけいたと一緒にいつも通りしゃべりながら帰ってきたのに、いつもと違って話の内容は思い出せない。頭の中にあるのは電車の中で見た写真のことだけだった。帰ったしゅんたはパソコンに向かって写真を探す。
「ないな。あんな綺麗な写真を忘れるわけがないのに」
一向に見つからない写真に焦れつつも窓から外を見ると、満天の星空のように輝くビルや橋が目に入る。
「こうじゃないんだよな」
綺麗とは感じつつもやはり何か違うと感じながらもう一度探そうとパソコンに向かい合った時、階下から大きな母親の声が聞こえてきた。
「しゅんたー、ご飯できたよー」
返事を聞きながら閉じられたパソコンはその日開かれることはなかった。

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