不死[インスタントフィクションその29]

どん、どん、どん、と扉が激しく叩かれた直後に、間髪入れず罵声にも似た声が飛び込んだ。
「なにしてんさ、何時まで寝てるつもりだい」
少年は寝てはいなかったが、なにをひていたわけでもなくそれゆえに少年は何をしていたかがわからず、もしかしたら少年は寝ていたのかもしれない。
「さっさと朝ごはん食べてしまいな!」
そう言い終わる前にはすでに足音は遠ざかっていた。まるでそれは嵐のように現れ、嵐のようにさっって言ったのだった。少年は身支度を済ませると今へと向かい、朝食を取りはじめた。そこにはすでに声の主はいないのであった。食事を終え、片付けを済ませたあと、少年は学校へ向かう。宿題を忘れたことがなく、赤点を取ったこともなく、少年は優秀とはいえないもののごく平凡な点数を取り続けてきた。それは受験生となった今でも変わらず、それ故に彼の順位は自ずと落ちていった。
「頑張れば持っていけるところだって選べるんだぞ」
進路相談で担任の先生からの指摘は至極真っ当なことではあるが、少年にとってはなんの価値もなかった。少年はいい大学に行きたいわけでないのだ。これといってやりたいことがあるわけではない。ただやれと言われたことはやったし、好きにしろと言われればやらなかった。
「やりたいこととか、なりたい職業とかないのか?」
先生は随分と心配そうに問いかけてくる。自分の実績の心配をしているのだと思うのは流石に邪推であるだろう。どうしてそんなに相手に関わろうとするのか、他人をそこまで心配できるのかが少年にはわからなかった。

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