蛙[インスタントフィクションその22]

この街は大いに有名である。今や蛙の街と言えば誰もが聞いたことがあるほどにその存在を万人に知らしめている街、それがこの私が生きる街なのだ。街の中を見れば必ず目に入る蛙。青蛙やイボガエル、牛蛙まで様々な蛙が街をゆく。しかしこの街でありえないのが、蛙の存在が時期に関わらず見られることであり、その要因こそが町中に配置された大小様々な蛙の置物である。それは一見蛙に見えないようなものから、紳士な蛙、蛙を象った家など多岐にわたっている。それだけではなく、季節など関係ないと言わんばかりの全長1mにも及ぶであろう巨大なカエルたち。この街に生きる私ですらこんなことはおかしいと分かっている。
「ポチ、はち、いちろー、ぽんた、くろ、アオ、、、」
今日も家の前に並ぶカエルたちの首にかけられた札に書かれた、彼ら自身のものであろう名前を合図をするように読み上げる。
「ケロ」
「グアー」
「クアックアッ!」
「グルグル」
「コケーッ」
「ピョーン」
名前が呼ばれた途端に思い思いの鳴き声をあげ、走り去るカエルたち。その姿はまるでオリンピック100m決勝を見ているかのような躍動感であった。
「擬音語?」
確かに聞こえたのは擬声語ではなかったと自覚したときには二足歩行カエルは目の前から消えていたのだった。

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