普通[インスタントフィクションその31]

多分全ての人は自分が知らない世界を理解できないのだと思う。
「お前お父さんいないんだってな。かわいそうなやつ。」
父親がいないことは可哀想なことなのか、僕にはわからない。僕の家では父親が一年に3回ほどしか帰ってこない。それが当たり前だったしそういうもんだと思ってた。でもテレビで見るドラマの世界では家にはいつも両親がいて、これが一般的な家族なんだと漠然と理解はしていた。そんなふうだからかむしろこうも思える。
「お土産いっぱい買ってきてくれるし、普段は怒られないから楽だよ。お母さんも仕事で家に帰ってからも1人だから超自由だしね。」
僕からすればむしろどうして1人の時間がなくて居られるのかが不思議なくらいなのだ。
「あいつの家、貧しいから毎日同じ服着てきてんだぜ。」
僕は同じ服を2着交互に使っていたのだが、どうやらそれを勘違いされたらしい。そして多分そのことが貧しい家なのだと理解された。
「多分お前の家よりは収入いいけどな。」
そんな呟きは誰にも聞こえない。気にするところが違いすぎて本質が伝わらない。僕の家では食べ物にかけるお金に糸目はつけない。余るほどの服を買うこともない。それが僕の家。

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