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コロナ禍が去って脱北者たちに危機迫る

日本政府は毎年12月10日から16日までを「北朝鮮人権侵害問題啓発週間」としていて、これに合わせて各地でシンポジウムなどが実施されます。拉致問題への関心が低下しないように、というのが主眼です。

北朝鮮の人権侵害への懸念は国際的にも共有されています。今は、とりわけ脱北者たちの保護が大きなイシュー。その背景には、コロナ禍が落ち着いたこともあるのです。
(上の写真は中国と北朝鮮の国境線です。中国・延辺朝鮮族自治州で撮影)


話題のドキュメンタリー映画 年明けに日本でも公開へ

アメリカの「サンダンス映画祭」でドキュメンタリー部門の「観客賞」を受賞した「ビヨンド・ユートピア 脱北」が年明け1月12日から日本でも公開されることになりました。アカデミー賞もとるのではないかと予想されていて、すでに鑑賞した知り合いのジャーナリスト(朝鮮半島が専門)も「ものすごい映画だ」と称賛していました。

「ロ一家」の5人が実際に脱北を決行する過程や、脱北したものの中国当局によって北朝鮮に送還されて政治犯収容所に入れられた息子との再会を願う母親イ・ソヨンさんの苦闘に密着しているとのこと。テレビの仕事をしてきた身として、こういうドキュメンタリーの力作は見逃せないところです。

そのイ・ソヨンさんが、16日、大阪で開催されるセミナーで講演します。残念ながら私は先約があって行けないのですが、お知らせのリンクを貼りつけます。

脱北者を送り返す中国への批判

この映画でも描かれているように、脱北した人たちは、まず中国に入ることになります。この中国潜伏中に中国当局に捕らわれ、北朝鮮に送還されるケースが後を絶ちません。
危機感を強めている韓国では、先月、国会で中国に対して「送り返すのでなく、韓国への移動に協力を」と促す決議が採択されました。

こうした働きかけは、今までも韓国外務省がしてきましたし、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)も「北朝鮮への送還は許される行為ではない」と中国に通達してきましたが、中国政府は応じようとしていません。
中朝両国の強い結びつきは、人権をめぐる問題にも暗い影を落としているのです。

国連でも問題視

国連の場でも、この脱北者の送還に対する風当たりは強まっています。国連総会で人権問題を話し合う第3委員会は、先月、北朝鮮の人権侵害を批判する決議を採択しました。
この決議採択自体は19年連続で(本当は19年連続と恒例行事かのように軽く流してはダメなのですが)、決議の内容も昨年とほぼ同じとのこと。
ただ、以下の文言が今年の決議に新たに盛り込まれました。

strongly urges all Member States to respect the fundamental principle
of non-refoulement, especially in the light of a resumption of cross-border
travel

https://documents-dds-ny.un.org/doc/UNDOC/LTD/N23/334/48/PDF/N2333448.pdf?OpenElement

全ての国々に「根本的な『強制送還禁止の原則』を尊重するよう強く促す。とりわけ国境をまたぐ移動が再開された点を考慮して」とのこと。
前半部分は、主に中国を念頭に置いていることは明らかです。
そして、後半は、コロナ禍が沈静化して北朝鮮が閉じていた国境を再び開いた結果、中国が、捕まえた脱北者を北朝鮮に送り返しやすくなってしまっていることを指しているといえます。

では、最大の当事者である北朝鮮はこの決議にどう反応したかというと…

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