見出し画像

地域のつむぎ手の家づくり| 庭がつながり小川が流れる街並み型の分譲地 地域のつくり手が“協働”により展開 〈vol.63/小田島工務店:秋田県美郷町〉

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。 この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の〈地域のつむぎ手〉は・・・


秋田県美郷町の小田島工務店は昨年、地元の工務店や設計事務所とコラボしながら、同町内の同じ敷地内に並べて建てた性能やデザイン性に優れる新築2棟とリノベーション1棟の3棟のモデルハウスをオープンしました(現在は建売住宅として販売中)。

3棟とも平屋で、外壁を秋田県産のスギ材による板張りで統一されています。塀・柵などで境界が区切られていない3つの区画を、緑豊かな庭や湧水が流れる石積みの小川(小水路)がつなぎます。

良質な景観やコミュニティづくりにも寄与する資産価値の高い街並み形成型の住まいのあり方を提案しています。

秋田県産のスギ板張りで統一された外観。リノベ棟(右)を除く新築2棟は無塗装の仕上げ。湧水が流れる石積みの水路は3つの区画をつなぐ。それぞれの屋根からの落雪を受ける機能も担っている

同社は、美郷町内の六郷大町地区にある330坪の土地と、そこにあった築45年の空き家(木造2階建て)を取得。「六郷大町プロジェクト」として、この空き家を減築して平屋にリノベーションしながら、敷地全体を整備し、2棟の平屋を新築して3棟(3区画)による小さな街並みを完成させました。3棟をモデルハウスとして運用後、現在は、建売住宅として販売しています。

3棟とも小田島工務店による施工ですが、同社ではこのプロジェクトの実施にあたり設計を、リノベ棟についてはやまと建築事務所(大仙市)に、新築2棟についてはそれぞれ西方設計(能代市)ともるくす建築社(美郷町)に依頼しました。3社とも、高性能でデザイン性にも優れる住宅の実績が豊富です。

小田島工務店社長の小田島誠さんは3社とのコラボや街並み型のモデルハウス群を開設した理由について、「これからの住宅市場を考えると、ただ性能が高いだけの住宅では評価されません。性能やデザイン性に加えて、良質な景観やコミュニティづくりも促すような真に資産価値の高い家づくりのブランドを確立していくためです」と語ります。

左から:住宅課長の髙橋金太郎さん、社長の小田島誠さん、入社3年目で設計・現場管理の高橋詩紅さん、住宅部長の細井勇作さん

ブランドコンセプトは
「秋田で暮らし続けること」

そのために、この3社とのコラボを単発ではなく継続性のあるユニットに位置づけながら、「MOKU-SUI―木粋―(もくすい)」として新たにブランド化しました。今後も、場合によっては3社に加えて、家づくりに対する価値観を共有できる工務店や設計事務所を招き入れて新ユニットを編成しながら、街並み形成型のコンセプト分譲を展開していきたい方針です。

MOKU-SUIのブランドコンセプトは「秋田で暮らし続けること」。同社で住宅事業を統括する取締役住宅部長の細井勇作さんは「高い性能を備える住まいで、寒い雪国でも快適、健康で経済的(省エネ)な生活を営みながら、良質な景観やコミュニティといった付加価値も享受できる本当の意味での“豊かな暮らし”を届けていきたい」と想いを語ります。

3棟は、いずれも木造平屋建てで、延べ床面積は西方棟が26.81坪、もるくす棟が19.95坪、やまと棟が29.8坪。断熱性能は、西方棟がHEAT20・G3に近いUA値0.21W/㎡Kで、そのほかの2棟もG2を上回っています。気密も3棟ともC値0.2~0.3㎠/㎡で、新築の2棟はいずれも耐震等級3となっています。

西方設計の設計による住宅。HEAT20・G3に近いUA値0.21W/㎡Kの断熱性能を備える

外壁については、3棟とも秋田県産スギの板材を張って統一し、新築2棟は無塗装の仕上げ。構造材についても県産スギをメインに用いました。ランドスケープについては、もるくす建築社が中心となり、4社と造園・植栽の大類造苑(能代市)で協議し、区画の境界に塀・柵などは設けずに、つながる庭をコモンスペースとしました。

もるくす建築社の設計による住宅。20坪に満たないコンパクトサイズの住宅だ

また、湧水群があり、「清水の里」としても知られる六郷エリアにあることから、敷地内に3つの区画をつなげるように湧水を利用する石積みの小川(小水路)を設けました。それぞれの建物を挟むように東西に2本の小川が流れています。ポンプも設置してあり、機械的に流すことも可能です。3棟とも、この両サイドの小川付近に落雪するように、屋根の配置・形状・勾配が考慮されており、小川は景観性を向上させるだけでなく、積雪対策など機能的な役割も担っているのです。

やまと建築事務所の設計による住宅。築45年の空き家の2階などを減築しながらリノベーションした


第2弾のプロジェクト実施も視野に
職人の収入アップも目指す

小田島さんは、すでにMOKU-SUI第2弾となるプロジェクトの展開を視野に入れています。「次は5~6区画程度の規模で、さらに街並みとしてのインパクトを強めることができれば」と構想しながら、「コラボするメンバー(工務店)も増やしてつながりを広げていきたい」(小田島さん)と力を込めます。

工務店同士のつながりを広げ、互いに切磋琢磨しながら家づくりのレベルアップを目指し、各社の受注機会の拡大や地域の職人の仕事の確保を図っていくことも、小田島さんがMOKU-SUIを通じて実現したいことなのです。

小田島工務店は、20代の5人を含む社員大工8人を擁し、大工の技術力を生かした家づくりや大工の技能継承に力を注いでいますが、「大工をはじめとする地域の職人不足は危機的な状況」(小田島さん)です。「地域工務店による家づくりの灯火を絶やさず、そこに携わる職人の仕事を確保し続けるためには、工務店同士の“協働”が不可欠になってくる」と小田島さんは訴えます。

六郷大町プロジェクトで現場監督と務めた同社住宅課長の髙橋金太郎さんは「西方設計さんやもるくす建築社さんの断熱、気密の施工ノウハウが非常に勉強になった」と振り返ります。この現場で同社は、建具などに関して、もるくす建築社が日ごろ取り引きしている職人に製作を依頼しました。小田島さんは「職人の仕事を生み出し、途切れることなく仕事が続けば、職人の収入アップにもつながるはず」と将来を見据えます。

文:新建ハウジング編集部

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?