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地域のつむぎ手の家づくり|移住者の暮らしに寄り添う工務店 「半農ライフ」の実現をサポート<vol.53/ゆたか建設:埼玉県狭山市>

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。 この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の<地域のつむぎ手>は・・・


コロナ禍におけるライフスタイルやワークスタイルなど、さまざまな変化を受けて、都市部から自然豊かな近郊地域への移住者が増えています。

ゆたか建設(埼玉県狭山市)は、飯能市の「飯能住まい」制度を利用するなどして移住してくる人々の暮らしに寄り添うことで、人気を集めている工務店です。SNSと自社のウェブサイトを起点にしながら、リアルでのつながりも大切にし、地域の魅力を理解してもらいながら、移住者が望む「半農ライフ」の実現をサポートしています。

移住者のための住宅事例。木材はずっと地元の西川材を使っている。空調にはパッシブソーラーシステム「そよ風」を採用することが多い

飯能住まい制度は、土に触れる農業を楽しむ暮らし、いわゆる半農のライフスタイルを取り込んだ移住支援制度です。東京都青梅市に隣接した南高麗地区の一部地域に、同市が定める優良田園住宅の基本方針を満たす住宅を建設して移り住むと、最大100万円の補助金が支給されます。

これまで、同制度を利用し飯能市に移住した家族は約60世帯。その5分の1にあたる12世帯が、ゆたか建設の顧客だそう。ちなみに、同制度を初めて利用したのも、同社の顧客です。

社長の安食一(あじき・はじめ)さんによると、移住を希望する人たちは「30代から40代前半の家族が多い。ご主人の年収は500万円程度で、共働きだと世帯年収1000万円という世帯もある」とのことです。職業はIT関連や公務員が多く、なかにはリモートワークが可能な人もいますが、池袋駅まで40~50分程度と都心へのアクセスも良好なため、都内へ通勤するパターンも多いそうです。

社長の安食一さん

最近では、大阪からの問い合わせもありましたが、大部分は東京都内など比較的近いエリアからの移住者が占めます。とはいえ、一般的な地域密着型の小規模工務店の商圏を考えると、同社の商圏はかなり広域と言えます。そのため遠方の顧客に、自社のことを認識して理解してもらうためにはウェブが重要となります。SNSは積極的な発信で自社のサイトに来てもらうことを重視しており、安食さんも「Instagramに、1日に1回以上投稿する」ことをルーティンにしています。


遠方の顧客でも必ずリアルで
顔合わせする機会を設ける

ウェブ上での情報発信やオンラインでの顧客とのやり取りもスムーズに行う同社ですが、「どんなに遠方の方でも、必ず1度は現地にお越しいただく」のが安食さんのポリシーです。その機会をつくるため、月に1度は完成見学会などを開催し続けています。

移住希望者は、同社のイベントで移住先を体感。見学会・OB宅訪問はもちろん、スイカ割りなど季節に応じたイベントも

昨年の10月末には、新たな試みとして、屋外で自社の家づくりを解説する「青空住まい教室」を開催しました。3カ月に1度のペースで、飯能市内の顧客宅と、西川材の産地を見学するツアーも開催しています。参加者も、もともと移住を希望しているので「遠方からの参加でもあまり苦にはなっていないように思う」と安食さんは話します。


敷地条件は良好
広さと車踏まえプランニング

顧客にとっては、土地代の安さが移住の大きなメリットです。安食さんによれば、宅地でも坪6万円、農地となれば1万5000円程度で「1000万円前後でかなり好条件の土地が購入できる」とのこと。土地選びのサポートも同社の重要なミッションです。「曇りの日は特に方角を勘違いしやすい」ので、安食さんは必ずコンパスを使って方角を確かめるそうです。

優良田園住宅の基本方針によって一定以上の敷地面積(300㎡ 以上とされる)が必要で、自家用車も必須のエリアのため、家づくりのプランニングは駐車場の位置決めからスタートします。100分の1の手描きの敷地図に、同じく100分の1の車のミニチュアを置きつつ、建物を模した紙片を置いてプランを決めていきます。

ミニチュアの車と建物を模した紙片を使いながら配置を決めていく。平面図やパースは手描き


行政も同社の支えに
地元のニーズにも応えたい

現在、同社では新築は年間6~7棟のペースで、ほぼ全ての顧客が移住者となっているそうです。市の担当者が移住希望者に対し、同社の見学会などを案内することもあるほど信頼を得ているとのことです。

安食さんは「(実績のある)他社も同じように扱っているのでは」と話すが、行政からの推薦が、同社が選ばれる理由の1つになっているのは間違いありません。安食さんも、行政が紹介するに足る工務店であるため、顧客対応などには細心の注意を払います。

今後は、移住者からの支持と信頼を糧に、12棟前後まで増やしながら「月1棟ペースで、行列のできる工務店を目指したい」と安食さん。移住者だけでなく、地元狭山市周辺の人たちの豊かな暮らしづくりにも貢献していきたいと張り切っています。


文:新建ハウジング編集部



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