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第2回特別支援教育に関わる先生方向け事例共有会レポート

「まなびプラン」「まなび教材」「まなび動画」の3つの製品で、個別最適な学びをサポートするLITALICO教育ソフト。すでに導入している学校では、どのように活用されているのでしょうか? 実際の事例から気づきや学びを得て、子どもたちへのよりよい指導や支援につなげようと、第2回となる事例共有会が開催されました。


1. インクルーシブな教育を浸透させるために

2022年9月、国連から日本政府に対し、「よりインクルーシブな教育を国として推進するべきだ」という厳しい指摘がなされました。障害のある子、障害のない子がともに地域の学校で学べる環境を作るためには、ひとつには合理的配慮を充実させていくことが必要です。また、その前の基盤として、多様なニーズのある子どもがいることが前提の学校づくりをしていくことも重要である、と言われています。

インクルーシブ教育への課題が明確になる中、事例共有会に集まった先生方が日々実践されている取り組みは、障害の有無に関わらず、すべての子どもたちにとって有効なものとなるでしょう。
今回の事例共有会では、2名の先生による発表が行われました。実際に子どもたちに関わる先生が、どんな視点を持ち、どのように教育ソフトを活用しているのか。生の声を聞くことで、参加された先生方にも多くの気づきがあったことと思います。発表後の質問タイムも盛況! 先生方の熱意が画面越しにも伝わる時間となりました。

事例発表に続いて、インクルーシブ教育の研究者である野口晃菜さんによる講評も。専門家の視点から、実践のポイントが改めて整理され、理解を深める助けとなりました。
早速、2人の先生の発表を振り返っていきましょう。

2. 指導の視野が広がり、子どもたちの主体的な学びにつながった
〜奈良県奈良市小学校教諭 岡田先生

特別支援学級を担当する岡田先生。LITALICO教育ソフトを活用し始めて2年となり、同僚の先生方も含め、日々の業務に教育ソフトが馴染んでいるといいます。今回の発表では、とくに「まなびプラン」と「まなび教材」の活用についての取り組みが紹介されました。

■「まなびプラン」で計画作成時の迷いを払拭!

「まなびプラン」は、個別の教育支援計画・指導計画の作成をサポートするデスクトップアプリです。
必要な項目をどんどん選択していくことができ、操作が分かりやすいと好評です。なかでも、岡田先生が魅力に感じているのが、スムーズに目標設定ができることだと言います。

「まなびプランの導入前は、時間をかけて児童の実態把握をしたものの、その後にどのような目標を設定したらいいかと悩むことがたくさんありました。まなびプランでは、一人ひとりの子どもの実態がグラフ化され、目標設定の文例も表示されるので、今、どんな支援が必要かが分かりやすく、悩む時間が短縮されました」

特別支援学級の担当経験のあるほかの先生からも「視点の客観性を確保しながら、計画の作成ができる」という感想が寄せられているそう。ベテランの先生から経験の浅い若手の先生まで、幅広い先生方がまなびプランを計画づくりに役立てている様子が紹介されました。

■「まなびプラン」活用で子どもたちに起こった変化とは?

「まなびプラン」によるアセスメントを活用した指導で、子どもたちの成長が見られた事例も共有されました。

「4年生のAさんの計画を作成しているときに、『振り返りが必要』というアセスメント結果が出てきたんです。Aさんは不安の強い子で、何かをする前には、見通しや、やり方を話すようにしていました。まなびプランでの結果を見て、活動後にも『今日はここを頑張ったね』『こういうところが、とてもすてきだったね』といった振り返りを一緒にすることも、心がけるようになりました。そうすると、Aさんも自分の頑張りを自分自身で認められるように変化してきました。次の学習にも自信を持って取り組めるようになってきています」

▲アセスメント結果から、本人と一緒に振り返ることの大切さに気付いたそう

また、「まなびプラン」は、先生が毎日、子どもたちを見るときの視野を広げることにも一役買ってくれている、と言います。
「4年生のBさんの計画を作成しているとき、私自身が感覚・運動面のアセスメントに全然答えられないことに気づいて、ハッとしました。この経験は、児童の実態把握のために必要な視点を、再認識するきっかけになりました。改めて普段のBさんの様子をしっかり見て、よりよいアセスメントにつなげることができたかな、と思っています」

▲アセスメントを行う中で、必要な視点を再認識

■スキルリストは眺めているだけでも楽しい

まなびプランには、様々なカテゴリー別に、成長段階に応じて獲得していきたいスキルのリストが収録されています。
「私自身は、学習面については『一桁の足し算ができるようになったら、次は繰り上がりだな』といった具合にビジョンを持って指導ができていたと思います。一方で、運動面やコミュニケーション面などでは、どんなステップを踏んで目標を立てていけばいいか、迷うことも多くありました。スキルリストでは、学習面だけでなく、生活の自立、数理的処理、他者理解など、網羅的なカテゴリーのスキルがすべて段階別に示されているのがありがたい! 児童一人ひとりをイメージしながら目標を立てる手助けにもなりますし、子どもの発達全般についての知識を得る、という意味でも活用できます。眺めているだけでも楽しいですよ!」

■教材はアレンジして使うことも

「まなび教材」についても、実際の活用事例が共有されました。
 岡田先生は、LITALICOの教材をそのまま印刷して使うのはもちろん、教材をアレンジ、リメイクして使うことも多いそう。

「LITALICOの教材で『これを使いたい』というものを見つけたら、子どもたちの姿をイメージしながら、少し手を加えています。一から教材を作成するよりずっと負担が軽く、見本があるということでも、作りやすさを感じています」

▲子どもたちに合わせて教材をリメイク

さらに、「まなび教材」のセルフサポートに関するプログラムを利用して、6年生の児童を対象に「わたしのトリセツを作ろう」という取り組みも実施。

「セルフサポートプログラムの中から、自分が困りそうな場面を把握する教材、困りごとを解決するにはどんな工夫ができるかを考える教材を使いました。そして、中学校生活を具体的にイメージしながら、自分なりの工夫や、必要な配慮と支援について考え、『わたしのトリセツ』という形で文章にまとめました。」

この取り組みは、子どもたちが自分自身で合理的配慮を申し出るための練習にもなったようです。トリセツ作成後には、中学校の特別支援学級の先生とオンラインでつながり、自分自身で「こんなときは助けてください」と説明する機会も設けられたといいます。
また、小学校から中学校への教員間の引き継ぎにおいても、支援計画とともに、この「わたしのトリセツ」も引き継がれました。

「中学校の先生方からは『自分で書いた文章だからこそ、その子らしさが出ていて、分かりやすい』という声が寄せられました。中学校への接続をスムーズに行う一助となったと感じています」

■野口晃菜さん講評

岡田先生が、まなびプランを使うことで「感覚・運動面の視点が不足していた』と気づいたことは、非常に大切なポイントですね。専門家であっても、目の前の子どものことを完全にアセスメントすることは難しいものです。まなびプランのアセスメント項目を活用することで、先生自身の自己理解が深まり、しっかり観察できているところ、意外と見過ごしてしまっているところがよく分かります。すると、次からは、これまで不得意だった分野においても、しっかり行動観察しよう、と意識ができますよね。

スキルリストの活用も同様で、自分が当たり前にできることは、そこに至るまでにどんなステップがあるかをあまり考えないですよね。でも、小さくても具体的な行動・目標を明確にしていくことが、その子の「できる」を作ることにつながります。自分にとっての当たり前を問い直していく機会としても活用していただいていることは、とてもうれしいですね。

最後に、教材のリメイクについてですが、これも本当に素晴らしい! 「説明マスター」や「ミッション」など、日々接している中で、お子さんのモチベーションがあがる言葉を選んでいらっしゃる様子が感じられました。
リメイクの例を共有する場が、さらに広がるといいですね。

セルフサポートプログラムは、子ども自身が合理的配慮の意思表明をすることにつながりますね。セルフアドボカシーとも言いますが、合理的配慮は子どもたちが持っている権利です。こうした「トリセツ」を使って、個別の教育支援計画を作成するときに、子どももいっしょに参加して、合理的配慮に本人の希望を反映することもできますね。子どもを中心とした計画づくりに、さらに発展的に活用していただけるといいな、と思いました。

3. 優先順位を決めて、成長を実感できる授業に
〜東京都足立区中学校教諭 池田先生 

中学校の巡回指導教員として通級指導を行う池田先生は、教員になって1年目。ADHD(注意欠如多動症)やLD・SLD(限局性学習症)、ASD(自閉スペクトラム症)など、様々なニーズを持つ生徒の指導に当たっています。「まなび教材」を活用しながら、それぞれの生徒の苦手にアプローチして達成感につなげていった事例が紹介されました。

■スケジューリングの苦手さを、「見える化」で乗り越える!

ADHD(注意欠如多動症)傾向がある生徒、Cさんの実践例です。Cさんは、自己肯定感の低さからコミュニケーションへの苦手意識があり、情緒が不安定な面が見られます。また、学習障害の傾向も併せ持ち、物事に優先順位をつけたり、逆算して計画を立てたりするのも苦手でした。池田先生は、まなびプランのアセスメントも活用し、とくに「目標を達成するために行動や思考をコントロールすることが難しい傾向がある」という点に着目。まずはこの課題に取り組むべく、まなび教材を活用したそうです。

▲「まなびプラン」でのアセスメント結果を基に、取り組む課題を絞る

「使用したのは『1日の予定を立てよう』というカレンダー教材です。教材に登場するキャラクターの、時間の過ごし方の円グラフを見ながら、自分の生活と比較したり、予定通りに勉強するにはどんな生活リズムがよいか、ということを考えたりできる教材です。次に、『計画表をつくろう』という教材に進みます。ステップ1では勉強、お風呂、ごはん、睡眠など、やらなければいけないことや、すでに決まっている予定を書き出します。ステップ2では、これらに優先順位をつけ、ステップ3で日程表に書き込んでいきます。最後のステップ4では、計画表の空いている時間に、やりたいことを書き込みます」

▲「1日の予定を立てよう」という教材で、自分の1日の過ごし方を客観的に振り返る

この授業の後、Cさんは「自分のやるべきことが可視化されたので、モチベーションが上がった」と話していたそう。本人も、手応えを感じていたことがうかがえます。

「担任の先生との連絡や、校内委員会での連携時にも、この教材を活用し、情報共有に役立てました。担任の先生にもその子の予定や、やるべきことを共有することで、スマートな声がけにつながりました!」

■楽しく取り組めるゲーム教材で、コミュニケーション力がアップ!

続いて、ASD傾向がある生徒、Dさんの実例です。授業では「思いついたことをすぐに口にしてしまう」「必ず一番に挙手をしないと気が済まない」「人の意見を聞けない」といった様子が見られたそうです。
Dさんのアセスメントで、池田先生は友人関係に注目。「関わり方が一方的であったり、ルールに沿って遊ぶことが難しかったりすることで、友人関係を築くのが困難な傾向がある」という結果から、「NGワードゲーム」という教材を選びました。

「小集団の活動で、ゲームで会話のキャッチボールを楽しむ狙いで選びました。ゲームでは、インディアンポーカーのように、自分のカードを頭の上に置いて、自分では内容が分からないようにします。会話の中で、書かれている内容を言ってしまったらアウトです。私はこれに手を加え、「ヒントを出し合って答えを導こう大作戦」というリメイク版を作りました。ゲームの進行は、NGワードゲームと同じです。頭の上に書かれた言葉を当てることができれば5ポイント、話の中で一番ピン!とくるヒントを出した人には3ポイントが入ります。答えが分かればポイントがもらえるのはもちろん、ヒントをくれた友だちにもポイントが入る、という設定です。ゲームは非常に盛り上がり、みんなで協力しながら答えを導く姿が見られました」

▲「NGワードゲーム」の応用リメイク版。いいヒントを出した人にもポイントが入る!

内容を知らない友だちが、ヒントを手掛かりに正解に辿り着くためには、分かりやすく物事を伝える力が必要です。また、答えを導くには、相手の話を最後まで聞くことも大切になります。このゲームを通して、Dさんは友だちの意見を受け入れながら考える、ということができるように。通常の学級では、挙手の回数も減ったそうです。これは決して積極性がなくなったわけではなく、先生の話を最後まで聞き、自分でしっかり考えてから挙手するようになったためです。

■通常の学級との連携・関わり

池田先生は、通常の学級の様子も見に行き、通級で学んだことが実生活でもできているかを確認しているそう。取り出し授業の際に「クラスでもできていたね!」などと、声をかけるようにしているといいます。
ほかにも、校門前での挨拶運動や下校指導、給食指導など、通級以外の生徒とも交流する時間を持つことを心がけているそうです。

1年目ということもあり、個々のニーズに合わせた教材選び、授業づくりに悩むことも多いという池田先生。ただ「生徒や保護者からすれば、教員の経験年数は関係ない」と気持ちを引き締めているといいます。
「一人ひとりのニーズに合わせた指導を模索する中で、LITALICO教育ソフトは指導や手だての多彩な具体例、教材例が提示されていて、非常に助かりました。教材の研究・探求は続くので、今後も活用していきたいと思います!」

■野口晃菜さん講評

池田先生の実践の特長は、着目点を明確にされていることですね。子どもを見ていると、いろいろな課題に気づくものですが、すべてを子どもに伝えると、子どももしんどくなってしまうかもしれません。とくに通級の限られた時間での指導となると、優先順位を明確にすることは非常に大切です。優先順位を決めて取り組むことで、子どもも頑張りやすくなります。ポイントが明確になったからこそ、子ども自身も成果を実感できる授業になったのではないでしょうか。

また、池田先生の授業は、日常の行動につながる内容になっていますね。計画を立てる、人に分かりやすく伝える、最後まで話を聞く、という部分でも、日常生活で活かしやすい授業を展開されていました。通級の場合はとくに授業内容の連続性が保ちづらく、その場限りで終わりがちです。池田先生は、通常の学級との接続を前提とした授業を設計され、担任の先生ともしっかり連携していますね。

通級で学んだことが、実生活でもできているかの確認もしていて、これも素晴らしいです。通級で学んだことが通常の学級に活かされ、通常の学級での困りが通級の指導につながる。このサイクルをどう作っていくかは、これからの指導のポイントだと私自身も考えています。そこで、重要だと思うのが「入り込み支援」。通級の先生方が通常の学級に入り込んで、その子の様子や、周囲の環境を見ることが重要だと考えています。池田先生は、周りの子どもたちとも交流を持ち、観察をしていることが、通級と通常の学級の切れ目のないな連携にもつながっていると思いました。

4. 活発なグループディスカッションで、教材の活用事例・校内連携のお悩みと解決アイデアを共有!

岡田先生、池田先生の発表に続いて、2つのグループに分かれてテーマ別ディスカッションが行われました。
「授業準備・教材研究・教材利用」をテーマにしたグループでは、子どもの「できた」を可視化するトークン表の活用法や、作文が苦手な子をサポートする教材が紹介されました。
教材は、「まなびプラン」の「教材紹介」機能において、カテゴリー別に格納されています。

▲「授業準備・教材研究・教材利用」のグループで紹介された、作文サポート教材

「学校内での情報連携」をテーマにしたグループでは、限られた時間で関係各所とどう連携するか、といった悩みについて話し合われました。
先生方から寄せられたチャットでのコメントには、通級の先生、通常の学級の担任、保護者の3者が書き込む「三角シート」で情報共有をするなど、日常のコミュニケーションを円滑にする工夫がたくさん。相談する際に、個別の教育支援計画・指導計画に立ち返ることの重要性も確認されました。大きく頷きながら耳を傾ける先生方の笑顔が印象的でした。

それぞれの学校での取り組みが共有されることで、さらに実践が広がり、深まり、学校全体でのユニバーサルな支援へと還元されていく。そんな循環を感じることのできた事例共有会となりました。

<ご案内>
LITALICO教育ソフトは、先生方の情報連携をデジタル化し、児童生徒の特性に応じた指導を学校全体で展開することに貢献します。

「LITALICO教育ソフト」について気になる方は下記問い合わせ先よりお問い合わせくださいませ。
TEL 050-3138-4614(平日9:30-17:30)Mail iep_sys4school@litalico.co.jp
HP https://s-edu-soft.litalico.jp/


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