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これが2023年の記事か!唖然!PRESIDENT ONLINE 2023/08/18 17:00「パチンコ依存→借金→コンビニ強盗」という悪循環…世界でも類を見ない「ギャンブル大国・日本」という現実

わたし、たまにPRESIDENTから取材を受ける。信頼しているメディアだが、この記事にはおどろいた。「パチンコ依存→借金→コンビニ強盗」という悪循環、と記載しながら本文にその記述はなく、あおりコピーだ。こういう議論をしたいならデータを示しつつでないと偏見(スティグマ)を生み出す。実際、このような犯罪との関連が一般以上に有意に強いことを示したデータはないはずだ。
また「世界でも類を見ない「ギャンブル大国・日本」という現実」の根拠として示した数字は以前対策会議などで参考資料として示されたものだと思うが、尺度がバラバラだし、のちに論文を紹介しつつ述べるように、同じSOGS(サウスオークスギャンブリングスクリーン:久里浜医療センターの調査で使われてきた尺度で日本の有障害率疑いの数字としてしばしば示される尺度)で聞き方による違いの補正をして比較すると日本が突出して多いなどとは言えない。また次に引用している2008年調査の数字は現在一般的な「この一年」の数字ではなく、これまでにそういう経験があったのかのいわゆる生涯の数字。並列させるなら説明が必要だ。わからず書いているのか、あえてあおろうとしているのか。
*なお、2023年10月12日現在、プレジデント編集部には適切な対応をしていただいているようです。

SOGSは突出した数字が出やすい

そもそもここで引用されるような数字はSOGSなどスクリーニングテストによるもので確定診断ではない。したがって「うたがい」と記載するのが今では常識だ。その常識すらこの記事は無視している。
さらに、最新のICD-11(WHOによって認められた病気というときの国際疾病分類第11版)によれば「ギャンブリング障害(gambling disorder)」であるための必須要件(2022年2月版以降記載)は、コントロールがきかない、ギャンブリングの優先度の異常な高さ、不利な出来事が起きているにもかかわらずギャンブリングの継続・拡大、の「すべて」がそろい、かつ、家庭、社会、学校など重要な領域での顕著な障害や苦痛、を必須としている。
加えて、ここまでいたらない段階を「危ない遊び方(hazardous gambling or betting)」と別カテゴリー化しており、障害や疾病としてはいけないとして、ギャンブリング障害との区別を求めている。
繰り返すが、「危ない遊び方」は疾病や障害ではない。「健康行動にかかわる問題」カテゴリーで、運動不足、不適切な食事習慣などと並んで記載されている。やたら「症」を連発するのは「危ない遊び方」にとどまる人にラベルを張ることになり、様々なスティグマを呼ぶ危険がある。
「パチンコ依存→借金→コンビニ強盗」という悪循環、などという記述はスティグマの温床以外の何物でもない

PRESIDENNTの記事で引用されている「有病者割合!!」はどれもギャンブリング障害の基準を満たしてはいない

たぶん、危ない遊び方というカテゴリーがあり障害と区別すべきことを知らないのではないか(推測だが)。ちなみにビッグイシューが冊子を出した時点でも、Pathological gamblingとgambling or betting(NOZ)という区分がすでにあった。日本では無視されてきたが。
さて、久里浜医療センターが使ってきたSOGS(サウスオークスギャンブリングスクリーン)は高い有障害疑い率を出しやすいことが知られている。2002年以前には主流であったが、その後はDSMやCPGIにとってかわられているのが現状だ。ちなみに久里浜医療センターは他の指標での測定も行っているが公表していない。これは記事の話からは逸脱するが、これこそなぜなのか、追及してほしい。

それでもあえてSOGSで比較した研究がある

秋山らの「日本におけるギャンブリング障害の障害疑い率とその比較ー方法論による重みづけを用いた研究」(アディクションと家族、2018)は、それでもあえてSOGSでの障害疑い(ICD-11に従えばおおむね危ない遊び方)の各国比較を行っている。Williamsの補正を使ったものだ。
それによれば直近1年の障害疑い(危ない遊び方)は、日本0.59%、カナダ1.09%、フィンランド0.75%、ドイツ0.71%、スイス0.55%などとなる。
記事のいうような「世界でも突出したギャンブル依存の割合」とは到底いえない。したがって、日本は世界でも突出していることを「事実」としたうえでの記事展開は、そもそもが完全に破綻していることになる。
記事では調査の必要性を指摘しているが、それならば、2017年以降に積み重ねられてきた調査研究(たとえば久里浜医療センター、社会安全研究財団https://www.syaanken.or.jp/?p=11674、日本遊技関連事業協会(業界データブックなど)、都留文科大早野らhttps://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8222369/)の動向をしっかり踏まえて、何が足りないのかきちんと論考してほしい。ビッグイシューの冊子の感想(この記事はそうとしか読めない)は関連研究を読み込んだうえでしていただくのが読者のためだ。

EGMのリスクが高いは怪しそう、ギャンブリング障害の要因研究

ギャンブリング障害の研究をいくつか紹介する。
この記事でEGM(エレクトリカルゲーミングマシン)が俎上に上っている。一時期、EGMはいわゆる依存リスク(本当は危ない遊び方リスク)が高く、EGMに近いパチンコパチスロは同様にリスクが高いのではないか。ゆえに日本のギャンブル依存症疑い率が高いのだ、といった論調があった。
しかし、すでに話したように、日本が突出して依存リスクが高いという論は破綻している。
加えて、先に紹介した早野らのSOGSを使った研究によれば、遊んでいる種類によってSOGS平均点に差があり(危ない遊び方リスクに差があり)、ボートレース、カジノ、競輪、競艇、ぱちんこ、競馬の順で高い。ぱちんこで特に問題が生じやすいわけではない。むしろ、いくつかの遊びを掛け持ちしている人で高く、この点での注意喚起は必要だ。ギャンブリングは一本が無難だ。EGMが高リスクに見えるのは、EGM参加率が高く、他のあそびとの併用が多いためにリスクが高く見えるという報告があり(Delfabbro P, King DL, Browne M, Dowling NA. J Gambl Stud. 2020)、この考えが日本でも支持されると予測される。
「これまでは、ギャンブル依存に至る実態については、だれもまともに研究してこなかった」と米本先生の言を紹介している。行動嗜癖研究を行っている身としてはいろいろやっているし、論文や報告書もまあまあ出しているといいたい。が、「まともの」基準は人それぞれなのでがまんする。
しかし、この指摘は、まともに研究しようとすると、障害疑い数が少なすぎで実態が明らかにできない、といったほうが正確だと思う。たとえば、久里浜の全国実態調査は1万人に調査票を層化二段階抽出法で送り、4685人が回答、うち疑い者は32人。日工組の調査は9000人で5060回収、うち21人。この人数の中でどういう人がリスクかと議論しても相当にあやしい。かろうじて早野らの調査で1826人。その結果が上記で、ぱちんこが主たる問題とは到底言えない。
というか、その手の何が特に問題かといった議論はまあまあ古い。ギャンブリング障害の要因は遺伝、性格、社会経済的地位、環境など多岐にわたり、多要因性がすでにあきらかだからだ。一要因での議論での限界は明確だ。
したがって、これからの方向性としては、疾病、心理、脳などのすべての研究がそうであるように、環境だけではなく、年齢、性別、性格特性、一般的精神病理、ギャンブル行動に関連する臨床的特徴などの変数とともに、遺伝要因を考慮する方向が打ち出されている。そして、心理学の有名論文や脳科学の有名論文がそうであるように、これまでのギャンブリング障害に関する常識や見解の再現性への疑義が次々に表明されていくだろう。
危険な遊び方(これまでのいわゆる依存症疑い)に与える遺伝的な影響は50%程度を占める。遺伝的な影響では初期にはD2DRが注目されていたが、いまとくに注目されているのは神経栄養因子関連の遺伝的多型だ。グリア由来神経栄養因子などの多型が、他の生物心理的特徴との相互作用でギャンブリング障害の重症度を高めていると報告されている(Solé-Morata N, Baenas I, et al, Underlying Mechanisms Involved in Gambling Disorder Severity: A Pathway Analysis Considering Genetic, Psychosocial, and Clinical Variables. Nutrients. 2023)。
記事を書くのは自由だが、ちゃんと調べて書いていただきたい。研究ならPubMedでgambling disorderと入れればやまと出てくる。国内での調査もあれこれ行われていて公表もされている。一昔前のGAロジックしかないかのような情報状況とは明らかに違う。

余談ですが、わたしは「ギャンブル依存症」とか「ゲーム依存症」という言葉はもう使うべきではないと思っています。そもそもDSM-5でもICD-11でもgambling disorder(ギャンブリング障害)、gaming disorder(ゲーミング障害)なわけで、依存症という言葉が世の中で使われているので日本ではママ使うとか言う判断は意味が分からんと思っています。とくにICD-11で「障害」と「危ない遊び方」の区別が求められている今、ますます「症」は使うべきではない。とくに世にあふれる「依存症疑い」の数字が、WHO定義では疾病と呼べないものを多分に含んでいるのだから、ギャンブリング障害と危険な遊び方、ゲーミング障害と危険な遊び方、ときちんとわけて使うべきだと思っています。
こういうとギャンブリング障害の場合、DSMによる定義もある。これまでの尺度はDSM-5に準じている、とおっしゃる方もいるでしょう。しかし、DSM-5で尺度の妥当性などを保証する時、構造化面接であっても、DSM-5の症候の前書き「重大な障害や苦痛につながる・・・」がほぼ無視されています。だからこちらは問題ギャンブリングという言葉が、障害や疾病とは限らないとして使われてきていましたが、こっちも依存症でひとくくり。
こんな状況なら、特に日本では行動に関しては「依存症」は使わず、「障害」と「危険な遊び方」を区別して使っていくのがいいと思っているわけです。
ああ、「ゲーム行動症」と「危険な遊び方」、「ギャンブル行動症」と「危険な遊び方」でもいいですよ。gamblingもgamingも~ingなのであって、ゲームやギャンブルそのものではなく、その仕方や関連行動が問題なので。ギャンブル依存症、ゲーム依存症という言葉は、ここもあいまいにし、変なスティグマを助長します。




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