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無関心の先にあったもの

1.プロローグ


2021年2月の最終週だった。
寒かったのか、温かったのか、そんなことももう覚えていない。
期末に向けて数字の整理、来期の計画づくりの期日と
最後の追い込みに追われながら、
何かと慌ただしい日々を過ごしていた僕はふとした時に
あるInstagramのストーリーを目にして、ただただ動揺した。
心の準備も何もかも万全で、冷静でいられるだろうと想定していた、
僕は何の準備もできていなかったことに気づくことになった。
それでもなお、この先1か月以上、心が定まらない日が続くことは
予想できていなかった。

2.2021.2.28


広島グリーンアリーナにいた。
楽しみだけど、来てほしくない日が来て、そこにいた。
来てほしくないけど、楽しみだった日が来て、そこにいた。
固定席だけで5000席弱ある座席で、対戦相手も人気チームという好カード、グリーンアリーナでの初開催という試合にも関わらず、
なぜか直前でもたったひとつ空いていた、その座席に座っていた。

Bリーグ 広島ドラゴンフライズvs千葉ジェッツ、
僕の関心はもはやそこにはなく、今日が最後になるであろう
彼女の姿を見る、そのことだけだった。

「終わってほしくないのか、終わってほしいのかよくわからない」

そんな気持ちとは関係なく、否応なく試合は進む。
4QのOT(オフィシャルタイムアウト)、
Shot The Ghostが流れ、彼女はコートの中央でそれとわかる、
そこにいる人に、これまでの感謝を伝えるパフォーマンスを見せてくれた。
それが3シーズン見続けたステージでの、最後の姿だった。

試合後、帰宅してどなたかの撮った写真をSNSで見かけ、
その中にカメラと一緒に膝を抱えて、何があるのか?
左下を見て、呆然としている自分の姿があった。

そんな姿を見ていたのかどうかわからないが、
どうにかこうにか席を立ち、出口に向かう僕を
友人(と呼ばせてください)が呼び止めて夕食に誘ってくれた。
中途半端な時間、ご家族との時間もあるはずなのに
誰かと何かを話さなければ居られなかった僕にとって
それは一生忘れられない時間で、その食事は忘れられない味となった。
ただ、何をしゃべったのか?全く覚えていない。

路面電車に乗り、誘ってくれたお二人の姿を見送りながら
帰途についた、それだけは覚えている。

3.エピローグ


「抜け殻」


それ以上の表現方法が無いほどにからっぽの月曜日をやり過ごし、
2日後には写真の整理を始めていた。

無関心な人間だ。
飽き性で、まあべつにええやんで済ますことが多い。
それでも、この先続けるであろうことが2つある。
高校に入る前からすっかりはまったバスケットボールと
3年前から始めたカメラ。

口下手で、人を前にして何を話せばいいかわからなくなる。
思ってもいないことを口にして、がっかりさせることのほうが多い
僕はその人と一言でも話せればどんなに楽しいだろう、
いつもそう思いながら周囲を見ている。

許されているならせめて、自分が魅かれたその姿をカメラに収めたい。
そんな写真をまとめて作っていたフォトブックを完成させるべく、
写真を整理していたなかで、ひとつ気づいたことがあった。

撮ったはずの写真が撮れていない。

最後のパフォーマンス。

手を止めて、ベッドに寝転んでしばらくその理由を考えていた。

それが最後だとわかっていながら、
ファインダー越しに周囲への感謝を伝えるその姿を見ながら、
現実を見ることができずにシャッターが切れなくなっていた。
そんなにも大きな何かになっていた。


その結論にたどり着いたときには、流れ出した涙は止まらなくなっていた。

「そんなに夢中になって、いいことあるの?」
そんな姿勢で生きてきた僕の無関心の先にあったもの。

それは、一生に一度あるかないかの感動体験だった、

そう言うのは大げさだろうか。

4.後日談


作ったフォトブックはチームスタッフの手を伝い、
本人の手元にわたったと聞いた。

こんな個人のどうでもいい思いをかなえてくださった
広島ドラゴンフライズのスタッフの方々、
FLYGIRLSの関係する皆様に心より感謝します。

大層うっとうしかったはずだけど、3シーズン通う中で
知り合えた、そして大変お世話になった
現地のブースターの皆様ありがとうございました。

最後になったけど、Sさんへ。
そのカッコいい目に魅かれて、3シーズン。
とてもいい時間を、貴重な体験をすることができました。
本当にありがとう。
願わくば、ずっと元気で、幸せな日々を過ごしてください。

「広島にバスケでつながる風景を。」

あなたが見せてくれた、そんな風景を載せて締めくくります。

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