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起きてて偉い!【睡眠研究】


睡眠と覚醒に関しておもしろい話題に接したので記録しておきます。こんな発想があって、しかも研究が進展しているとは。


1 睡眠こそがスタンダード


生物はなぜ眠るのか?

とは、たまに聞く疑問です。しかしダニエル・デネットによれば、生物が眠り状態になるのは当たり前です。理由は簡単。眠っている方がエネルギーを消費せずに済むから。

デネット曰く説明されるべきは、

――生物はなぜ起きているのか?

この発想の転換には、わたくし「おおっ!」と感心してしまいました。

コストを伴う行動の方こそ、なぜ行われているのかを考えるべき。

では起きていることの合理性はどこにあるのか。起きていると行動の余地が広がり、エサを探したり敵から逃げたりできます。

しかしながら、その行動の際にこそ事故にあったり、敵に見つかったりするではありませんか。起きていると考慮されるべき材料は大きく増えてしまい費用対分析は複雑化します。ゆえに起きていればいいわけでもない。

現に樹木はたいてい眠っているようです。むろん危険は伴いますが、これはこれで合理的な生き様といえましょう。

ダニエル・C・デネット 2001年
「私たちは、もしとがめられなければ、人生全体を「眠って」過ごしただろう。結局、それは樹木がとっている方法である。何もすることのない冬の間中、樹木は深い昏睡状態で「冬眠」しているし、夏の間はやや浅い昏睡状態で「夏眠」している。(中略)樹木が眠っているときに木こりが来てしまったらどうするのか。それは樹木の甘受しなければならない危険である。しかし、私たち動物は、眠っている間の方が、捕食者からの危険が本当に大きくなるのだろうか。必ずしもそうではない。巣を離れるのもまた危険なのだから、もし私たちが危険な局面を最小化しようとしたら、複製という主要な仕事のためのエネルギーを保存して時節の到来を待つ間、代謝をアイドリングにしておいたほうがいいだろう。」

ダニエル・C・デネット著 石川幹人、大崎博、久保田俊彦、斎藤孝訳『ダーウィンの危険な思想』青土社 2001年 449-450頁


結局のところ、眠っている状態と起きている状態のどちらが好ましいかは不明です。はっきりしているのは、自然は起きている生物ばかりを優遇なんかしていないということ。

世界を、というかその辺をみわたせば樹木は見事に繁栄しています。植物全体を寝てばかりいる生物に分類していいならそれこそすさまじい繁栄ぶり。

つまりは寝てばかりいる生物たちだってうまい具合に生存し繁殖し地球環境上を生き残っているのです。

ダニエル・C・デネット 2001年
「起き出してきて、冒険を試みたり課題を遂行したり、友人を理解したり世界について学んだりすることが、人生の意味の全てだと<私たち>は考えるが、「母なる自然」は全然そのようには考えていない。眠れる生命も、他の生命と同じように好ましいものであるうえ、多くの点では、他のほとんどの生命より優れた、きっと安くつく生命である。」

ダニエル・C・デネット著 石川幹人、大崎博、久保田俊彦、斎藤孝訳『ダーウィンの危険な思想』青土社 2001年 450頁


生き物たるもの起きているのが当たり前という考えは誤りなのです!

むしろ、ただ当たり前のように起きているばかりか、「起きているのは当たり前である、当たり前なことはするべきである、ゆえに起きているべきである」というような規範をひねり出せる生物といえば、地球上では人類くらいでしょうね。

みなさまは、起きていらっしゃるでしょうか?

意識がある。

ならば今まさに高コスト戦略を強いられているわけであります。人類の一員として生まれたばっかりにです。

頑張っていて偉い!

ぐっすり眠れますように!

2 睡眠研究の発展


今回とりあげたデネットの本『ダーウィンの危険な思想』は、原著1995年、邦訳2001年発行の本です。それから20年以上が経過した現在、睡眠研究も深化しているようです。


なおツイート主は医師で神経科学者の紺野大地さん(東京大学、池谷裕二研究室・松尾豊研究室)

(DeepL翻訳で)リンク先の記事をざっと読みましたので軽く紹介します。

そもそも睡眠とは何でしょう。

たとえば睡眠を「一時的な意識喪失」と捉えてみましょう。脳が意識の必要条件だとすれば、脳のない生物は意識がないことになるので「一時的な」意識喪失などありえません。つまり脳のない生物は睡眠をとらないことになります。

しかし現在では睡眠という現象をもっと包括的に捉えるようになっているそうです。具体的には生物の休息や反応の低下などを手掛かりにして睡眠の有無を判断します。そうしてクラゲなど脳のない生物の睡眠について研究したり、細胞や分子レベルでの説明を目指す研究がなされているとのこと。

むしろ「睡眠がスタンダード」という発想は、単なる「おもしろい発想の転換」の域を超えてきているようです。


3 夢研究 意識は夢から生じた!?



夢にまつわる話題も発見。

計算神経学者の神谷之康さん(京都大学教授)。私の中では再現性警察としての姿が印象的なのですが、脳の研究が本業だったのでした。そして研究テーマの一つが夢。

夢が最初にあり、そこから意識が進化したという発想はこれまた面白い。

夢では支離滅裂なストーリーが展開され、しかもその支離滅裂さについて認識できないという特徴があります。一貫性をもった認識ができる意識状態とはかなり違う。ゆえに「夢って不思議だなぁ。意識だけでも十分なのになんでそれに加えて夢なんてものがあるのだろう」などと思うわけです。

しかし発想は逆転されるべきで、むしろ夢のような認識状態しかなかったところから進化によって意識状態が生じてきたのかもしれません。

関連してこの動画も視聴

「一方でこのレム睡眠の夢を、脳の研究者神谷之康さんはこんな風に考えています。
 ――ヒトの胎児は24時間中の多くの時間をレム睡眠に費やしていると言われています。その時、夢を見ているかまで分かりませんが、何かこう原初的な意識体験みたいなものが、そこで生じているのかもしれません。
 それが生まれ落ちてから外界と接することで原初的意識が変化していくみたいな。そう考えると我々のふだんの夢っていうものは、単に起きている時のことをちょっと思い出してるとか学習に役立ってるとかじゃなくて、レム睡眠中の夢こそが意識とか心の大元であって、それが起きている間の経験によってちょっとずつ変わっていくというような見方もできるかもしれません。」

「サイエンスZERO] 夢に意味はあるのか?なぜ忘れてしまうの?夢研究の歴史と新発見 | NHK
2022/04/09
https://youtu.be/NtmyHkrDSqc?t=222


私たちの夢はヒトやモノやコトで溢れてしまっているわけですが、胎児の段階ではいずれも全く知らないわけで、胎児の原初的意識では何がどう感じられているやら。考えるべきことはまだまだ山積していそうですが、おもしろみを感じます。

あとこの方向で考えると、夢は危険をシミュレートしているだとか、学習に役立っているなどという従来なされてきた説明の根拠が打ち崩されるかもしれないので、それだけでも興味深いです。







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