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1曲聴く間に伝えるKhéops "Def Bond(Secret Défense RMX)"

フランス90年代HIPHOP#1

Today's Choice:
Khéops "Def Bond(Secret Défense Remix) feat. Def Bond, Spectre a.k.a. Akhenaton"
1998年発表

Music Links:
このシリーズのコンセプトは、「皆さんに1曲聴いて頂く間にざっくりその曲の魅力をお伝えすること」です。
日本ではあまり馴染みのないフランスのHIPHOPをご紹介するにあたって、細かい能書きよりもまずは音に触れて頂ければ。
そんなわけで、まずは↓のリンクで今回の曲を再生しながら読んでみて下さい。
レビューなんてもはや曲を聴いてる間のオマケです。

Back Ground Review:
第1回目の今回はフランスのHIPHOPを代表するグループ・IAM(アイアム)のプロデューサー・Khéops(ケオプス)が1998年に発表した1stアルバム『Sad Hill』から"Def Bond(Secret Défense Remix) feat. Def Bond,  Spectre a.k.a. Akhenaton"です。

IAMはフランス南部マルセイユで結成されたHIPHOPグループ。メンバーはプロデューサーのKhéopsAkhenaton(アケナトン)、Shurik'n(シュリケン)の2MCを中心にFreeman(現在は脱退)、Imhotep、Kephrenら。フランスを代表するHIPHOPグループで、のちのアルバムではBeyoncéやRedman & Methodmanといったアーティストとも共演しています。

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今回紹介する"Def Bond(Secret Défense Remix)"はKhéopsのソロプロジェクトとしての1stアルバム『Sad Hill』に収録。曲に自身のアーティスト名を冠したDef Bond(デフ・ボンド)も、そんなIAMとマルセイユで出会い今作の実現となりました。Def BondIAMを中心としたコレクティブ・Le Côté Obscur(ル・コテ・オブスキュー) の一員としてオリジナル版"Def Bond"を1997年に発表しデビュー。翌年に発表した今回のRemix版でシーンにおける地位を確固たるものとしました。

-マルセイユという街

彼らの舞台となるマルセイユはフランス南部の港町です。フランスは移民国家として有名ですが、パリが内陸都市なのに対し、地中海に面するマルセイユはイタリア、マグレブと呼ばれる北アフリカ、旧仏語圏の西アフリカからの移民の流入をよりダイレクトに受ける地域です。

コメント 2020-04-05 111843

その為フランスの中では治安があまり良くない一方、様々なルーツの影響を受けてカウンターカルチャーが発展しやすい地域でもあります。フランスのHIPHOPは大都市パリ周辺と、文化の接触点マルセイユを中心に尖ってきた。まずはこれだけ押さえてもらえれば大丈夫です。
そしてそのマルセイユHIPHOPの土台を築いたのが、1988年に結成されたIAMでした。彼らもイタリア系やセネガル系などそのルーツは多岐に渡ります。社会的マイノリティと呼応しやすいのがHIPHOPですが、フランスでその萌芽が力強く芽生えたのがマルセイユと言うのは納得。

-本曲のコンセプト

そんなIAMですが、Khéopsはフランス語でクフ王のことだし、Akhenatonも古代エジプトの王の名前、Shurik'nは言わずもがなのアレだしで、かなりオリエント志向の強いコンセプチュアルなグループです。
従ってKhéopsが自身のレーベル立ち上げに際して発表したこのアルバム『Sad Hill』も一癖あり、影響を受けた様々な映画のコンセプトを各曲にちりばめていています。
今回の"Def Bond(Secret Défense Remix)"も、客演のDef Bondが007ことジェームズ・ボンド、Remix版で参加してきたAkhenatonがボンドの宿敵Spectre(スペクター)のロールプレイをしつつセルフボーストのヴァースを蹴る構成になっています。

-寡黙に遠くからカマすぜ、消え去る準備なんてしてねえ by Def Bond

そんな構成のこの曲ですが、とにかくDef Bondが超カッコ良いんですよね。かすれ切った声でオーソドックスな脚韻を落としていくフロウなんですけど、それで生まれるグルーヴが超いなたいっていう。前述のIAMのコンセプトの話もあって、なんとなくWu-Tang ClanのMethod Manを想起させます(Def Bond自身はIAMメンバーじゃないですが)。

そのソリッドなラップをサポートするKhéopsのビートもこれまたかなり硬質なカッコ良さでヤバい。あえて日米のHIPHOPにイメージ付けするなら『Hell on Earth』辺りのMobb Deep的な、とにかく硬いドラムを基調としつつ、効果的に使われる自国のサンプルネタ(*)のストリングスがフランス型のHIPHOPを感じさせるアクセントとなっています。

このアルバム『Sad Hill』自体もこうしたミニマルで硬質なHIPHOPが味わえる、フランス90年代HIPHOPの大名盤。今回紹介した"Def Bond"が気に入ったら、ぜひアルバムごとチェックしてみて下さい。IAM周辺のアーティストがこぞって参加しているので、好きなタイプのラッパーを探す入門版としても最適です。

(*)Francois de Roubarx "Dernier Domicile Connu"

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